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一年目 ~学園編~
友人の提案
しおりを挟む肩を掴む手に力が籠もる。
籠められた力の分だけ、真剣な想いを向けられているのだとわかった。
「何があったか言え!
言わなきゃ助けられない!!」
悲鳴のような叫びに俯いた。
どうしたらいいかわからない。ぐちゃぐちゃに混乱した思考のまま口を開いた。
「学費が……」
一つ零せば後は止まることはない。
「来期の学費がないんだ。
学園にはいられなくなる」
退学しなければならなくなったと告げ、これまでのことを話す。
「レイチェルと……、男爵令嬢と婚約が解消になった。
これまでは男爵家を継ぐ立場だったから男爵が学費を出してくれていた。
けれど婚約が解消になった今、もう俺に学費を出す理由がない。
今期の分はすでに支払い済みだから後数か月は学園にも通える。
けれど来期はもう通えない」
払うあてがない以上、学園は退学するしかない。
「せっかくレオンに勧められて資格も取ったけれど、学園を退学するしかない俺には意味のないものになってしまったな」
すまない、と呟いた自分になんの謝罪なのかと自問する。
きっと俺の未来に期待して勧めてくれたのに、それを生かせない自分が申し訳ないからだ。
「学費がないってのは? 全部言え」
レオンの問いに口を開く。
絞り出したような声はわずかに掠れていた。
「男爵家は慰謝料は払ってくれた。
解消をして、すぐに実家に届けて……」
「使い込まれたんだろう?
お前の家が抱えてた借金が急に返済されたらしいな」
何年もずっと減るどころか増えていた借金がだ、と怒りを抑えた声で語る。
その通りだった。
実家の子爵家は届けられた慰謝料を使い一気に借金を返した。俺には一言も言わずに。
つい先日まで俺がそれを知らなかったことも、これまでの経緯から察したことだろう。
「そうだよ……。
借金の返済や弟たちために使ったって。
一年分の学費だけでいいって言ったんだ。
卒業さえできれば働いて返すことができると思ったから。 けど……」
それですら俺のためには出せない、出す気がないと。
説明していくごとにレオンの表情が険しくなっていく。
「父親に言われたよ。
俺のせいで男爵家からの援助が断たれた。
そのくせ自分のために金を出せなんて言う、家族の幸せを壊す俺はもう子爵家の人間じゃないってさ。
平民となって自由に生きればいいと」
俺の頭ならどこかで雇ってもらえるだろうみたいなことを言っていたけれど、それが正確でないことはいくらなんでも父もわかっているはずだ。
貴族の屋敷に雇われようと思えば、貴族の紹介がいる。
学生の身でしかない俺に伝手などない。
どこかの商会で雇ってもらうなどはもっと難しい。通常もっと早い年齢から見習いとして働き始め、商売の基礎を身に着けていく。知識を学ぶのはその後だ。
知識しかなく実務経験のない者を雇う店はほぼない。
レオンもまさか俺が実家を放逐されたことまでは知らなかったらしく驚きの目を向けていた。
「まさか……っ、本当なのか?
本気で除籍手続きをすると?」
ありえない、と呟いたレオンの気持ちが手に取るようにわかる。
そんな理由での除籍処分など前代未聞だろう。
「どうやら本気のようだよ」
全部ぶちまけた俺にさすがのレオンも言葉を失っていた。
全て話してしまった。これで良かったのかわからない。
知られないままひっそりと姿を消せば良かったのかと自問するが、ここまで心を傾けてくれた友人にすべき仕打ちではないと胸の中で否定する。
言い切って隠し事が無くなったせいか気持ちも落ち着いていた。
茶に口を付けてレオンの反応を待つ。
長い沈黙の後、レオンが一つの言葉を口にした。
「……休学」
「え?」
「休学しろ」
休学の単語に目を瞬く。退学じゃなくて休学?
けれどそれをしてなんの意味があるんだろうか。
茶を一気に飲み干したレオンがじっと俺を見つめ、もう一度口を開いた。
「学園を休学すれば、その間の学費はかからない。
あまり知られていないが、家の都合で学園を離れざるを得ない者のためにそういった制度があるんだ」
レオンの言葉はありがたい。
けれど退学を先延ばしにしたところで何になるんだろう。
「それをしてどうなるんだ?
子爵家は金を出さないだろうし、男爵家も慰謝料の支払いが済んでいる以上もう無関係だ」
「……」
「それに行くところもない」
休学するということは学園から離れるということだ。その間どこに行けばいいというのだろう。
帰る場所ももうないのに。
「アラン」
俯く視界の端でレオンが拳を握ったのが見えた。
「俺の部下になれ」
顔を上げるとレオンの瞳が俺を射抜く。戯言ではないというように強く。
「一年休学して俺の部下として働け。
相応の働きをすれば学費くらいは稼げる」
「それは……」
「今のまま俺と共に学園に通わせることはできないが、自分で稼いで復学することは可能になるはずだ」
今の俺はレオンの友人でしかなく、代わりに学費を払ったりはできないと苦しそうな声で告げる。
元々の側近や将来レオンに仕えることが決まっていた相手ならともかく、俺はそうではない。
それなのに必要以上にすることは侯爵家としてできないと語る。
「なると言え!
お前はこんなところで消えていい人間じゃない!
俺に悪いとか利用したくないとか馬鹿なことは考えなくていい。
俺はお前の能力を買って仕事を紹介するだけで、同情だけでこんなことを言ってるわけじゃないからな」
だから頷けよと震える声がレオンの心情を表していた。
ここまで言ってくれる友人相手に甘えるべきじゃないとかいった遠慮は止めた。
そう言って建前で離れて行ったら一生許してくれないだろうと思ったから。
レオンの想いに、俺も本音で答える。
「助けてくれ、レオン。
俺、まだ学園で学びたい。
自分の可能性を諦めたくない……!」
「……よく言った。
絶対に退学なんてもったいないことさせないからな。
あの試験を一発合格するような人間をみすみす市井に放り出すような真似、俺が許さない」
力強く告げるレオンに目が熱くなる。
溢れそうになる雫を瞬きをして散らす。
レオンはそんな俺に気づいたが、何も言わなかった。
明日休学届けを出してそのままこの屋敷に来いと言われる。今日の外泊許可はレオンの方で出して置くと。
「レオン、ありがとう」
親身に力になってくれるレオンに感謝の視線を送る。
感謝してもしきれない。
必ずこの恩に報いる。
友人には、もう戻れなくても。
椅子から立ち上がり、レオンの前で腰を落とす。
膝を付き頭を下げた俺に向けた寂し気な目が見えたのは、顔を上げたほんの一瞬だけだった。
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