【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

文字の大きさ
9 / 97
一年目 ~学園編~

友人の提案

しおりを挟む


 肩を掴む手に力が籠もる。
 籠められた力の分だけ、真剣な想いを向けられているのだとわかった。

「何があったか言え!
 言わなきゃ助けられない!!」

 悲鳴のような叫びに俯いた。
 どうしたらいいかわからない。ぐちゃぐちゃに混乱した思考のまま口を開いた。

「学費が……」

 一つ零せば後は止まることはない。

「来期の学費がないんだ。
 学園にはいられなくなる」

 退学しなければならなくなったと告げ、これまでのことを話す。

「レイチェルと……、男爵令嬢と婚約が解消になった。
 これまでは男爵家を継ぐ立場だったから男爵が学費を出してくれていた。
 けれど婚約が解消になった今、もう俺に学費を出す理由がない。
 今期の分はすでに支払い済みだから後数か月は学園にも通える。
 けれど来期はもう通えない」

 払うあてがない以上、学園は退学するしかない。

「せっかくレオンに勧められて資格も取ったけれど、学園を退学するしかない俺には意味のないものになってしまったな」

 すまない、と呟いた自分になんの謝罪なのかと自問する。
 きっと俺の未来に期待して勧めてくれたのに、それを生かせない自分が申し訳ないからだ。

「学費がないってのは? 全部言え」

 レオンの問いに口を開く。
 絞り出したような声はわずかに掠れていた。

「男爵家は慰謝料は払ってくれた。
 解消をして、すぐに実家に届けて……」

「使い込まれたんだろう?
 お前の家が抱えてた借金が急に返済されたらしいな」

 何年もずっと減るどころか増えていた借金がだ、と怒りを抑えた声で語る。
 その通りだった。
 実家の子爵家は届けられた慰謝料を使い一気に借金を返した。俺には一言も言わずに。
 つい先日まで俺がそれを知らなかったことも、これまでの経緯から察したことだろう。

「そうだよ……。
 借金の返済や弟たちために使ったって。
 一年分の学費だけでいいって言ったんだ。
 卒業さえできれば働いて返すことができると思ったから。 けど……」

 それですら俺のためには出せない、出す気がないと。
 説明していくごとにレオンの表情が険しくなっていく。

「父親に言われたよ。
 俺のせいで男爵家からの援助が断たれた。
 そのくせ自分のために金を出せなんて言う、家族の幸せを壊す俺はもう子爵家の人間じゃないってさ。
 平民となって自由に生きればいいと」

 俺の頭ならどこかで雇ってもらえるだろうみたいなことを言っていたけれど、それが正確でないことはいくらなんでも父もわかっているはずだ。
 貴族の屋敷に雇われようと思えば、貴族の紹介がいる。
 学生の身でしかない俺に伝手などない。
 どこかの商会で雇ってもらうなどはもっと難しい。通常もっと早い年齢から見習いとして働き始め、商売の基礎を身に着けていく。知識を学ぶのはその後だ。
 知識しかなく実務経験のない者を雇う店はほぼない。
 レオンもまさか俺が実家を放逐されたことまでは知らなかったらしく驚きの目を向けていた。

「まさか……っ、本当なのか?
 本気で除籍手続きをすると?」

 ありえない、と呟いたレオンの気持ちが手に取るようにわかる。
 そんな理由での除籍処分など前代未聞だろう。

「どうやら本気のようだよ」

 全部ぶちまけた俺にさすがのレオンも言葉を失っていた。
 全て話してしまった。これで良かったのかわからない。
 知られないままひっそりと姿を消せば良かったのかと自問するが、ここまで心を傾けてくれた友人にすべき仕打ちではないと胸の中で否定する。
 言い切って隠し事が無くなったせいか気持ちも落ち着いていた。
 茶に口を付けてレオンの反応を待つ。
 長い沈黙の後、レオンが一つの言葉を口にした。

「……休学」

「え?」

「休学しろ」

 休学の単語に目を瞬く。退学じゃなくて休学?
 けれどそれをしてなんの意味があるんだろうか。
 茶を一気に飲み干したレオンがじっと俺を見つめ、もう一度口を開いた。

「学園を休学すれば、その間の学費はかからない。
 あまり知られていないが、家の都合で学園を離れざるを得ない者のためにそういった制度があるんだ」

 レオンの言葉はありがたい。
 けれど退学を先延ばしにしたところで何になるんだろう。

「それをしてどうなるんだ?
 子爵家は金を出さないだろうし、男爵家も慰謝料の支払いが済んでいる以上もう無関係だ」

「……」

「それに行くところもない」

 休学するということは学園から離れるということだ。その間どこに行けばいいというのだろう。
 帰る場所ももうないのに。

「アラン」

 俯く視界の端でレオンが拳を握ったのが見えた。

「俺の部下になれ」

 顔を上げるとレオンの瞳が俺を射抜く。戯言ではないというように強く。

「一年休学して俺の部下として働け。
 相応の働きをすれば学費くらいは稼げる」

「それは……」

「今のまま俺と共に学園に通わせることはできないが、自分で稼いで復学することは可能になるはずだ」

 今の俺はレオンの友人でしかなく、代わりに学費を払ったりはできないと苦しそうな声で告げる。
 元々の側近や将来レオンに仕えることが決まっていた相手ならともかく、俺はそうではない。
 それなのに必要以上にすることは侯爵家としてできないと語る。

「なると言え!
 お前はこんなところで消えていい人間じゃない!
 俺に悪いとか利用したくないとか馬鹿なことは考えなくていい。
 俺はお前の能力を買って仕事を紹介するだけで、同情だけでこんなことを言ってるわけじゃないからな」

 だから頷けよと震える声がレオンの心情を表していた。
 ここまで言ってくれる友人相手に甘えるべきじゃないとかいった遠慮は止めた。
 そう言って建前で離れて行ったら一生許してくれないだろうと思ったから。
 レオンの想いに、俺も本音で答える。

「助けてくれ、レオン。
 俺、まだ学園で学びたい。
 自分の可能性を諦めたくない……!」

「……よく言った。
 絶対に退学なんてもったいないことさせないからな。
 あの試験を一発合格するような人間をみすみす市井に放り出すような真似、俺が許さない」

 力強く告げるレオンに目が熱くなる。
 溢れそうになる雫を瞬きをして散らす。
 レオンはそんな俺に気づいたが、何も言わなかった。
 明日休学届けを出してそのままこの屋敷に来いと言われる。今日の外泊許可はレオンの方で出して置くと。

「レオン、ありがとう」

 親身に力になってくれるレオンに感謝の視線を送る。
 感謝してもしきれない。
 必ずこの恩に報いる。
 友人には、もう戻れなくても。


 椅子から立ち上がり、レオンの前で腰を落とす。

 膝を付き頭を下げた俺に向けた寂し気な目が見えたのは、顔を上げたほんの一瞬だけだった。




しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

処理中です...