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一年目 ~学園編~
心配ゆえの怒り
しおりを挟む通された部屋で席に着いたところでレオンに先ほどの贈り物についてお礼を言われる。
「クリスティーヌへの入学祝ありがとうな。
アイツ俺が上げた物よりも喜んでたんじゃないかってくらい喜んでたぞ」
「それは言い過ぎじゃないか?」
いや、本当のことだと真面目な顔で言うからおかしくなって笑い声を零す。
声を出して笑ったのは久しぶりだ。
婚約解消を知ってからそんな余裕もなかったから。
招待を受けてよかったと思っているとレオンの紫の瞳がじっと俺を見ていた。
「アラン、お前来期の選択はどうするつもりだ?
俺はヴェルデ教授の講義は取るつもりなんだがお前もどうだ」
「ああ……、そうだな、実はまだ迷っているんだ」
隠し事をしている後ろめたさが返事を鈍らせる。
気づいただろうにレオンはそのまま話を続けた。
「そうか、去年の今頃にはもう決めていたのに遅いな。
去年は男爵家のためにって基準で選択を決めていたから今年は少しは自分の希望を優先させることにしたのか?」
「いや、そういうわけでもないんだが……」
レオンの言う通り、去年は男爵に学費を出してもらっていることから将来男爵家のためになりそうな講義を取ることを考えて決めていた。
言葉を濁す俺にそれ以上聞くことなく話題を変える。
「それより来年こそ生徒会に入らないか?
婚約者も学園に慣れてきたと言ってたし、最後の年くらい自分のために活動してもいいだろ」
お前に声を掛けるつもりで枠を開けてあるんだと言われて痛みに胸が疼く。
どうだ?と問われて返事に窮する。
「今すぐにとは言わないが、考えておいてくれ。
良い返事を期待している」
「ああ……」
良い返答なんてできるわけもない。
曖昧に濁すしかできなかった。
時期的に来年の話が出るのは自然だが、学園を辞めなければならない俺には答えられないことばかり。
隠し、誤魔化していることが心苦しかった。
「それからよかったら紹介したい人物がいるんだ。
卒業してからも一年は王都に留まると言っていただろう?
王宮文官としても務める人で、丁度俺たちが卒業する頃に部下が一人退職することが決まっていて雑務を手伝ってくれる人間を探しているんだ。
受けてくれるなら来年の夏季休暇中に試しで来てほしいと言われている」
働くのは卒業後の一年だけで、その翌年には同じ文官として別の地に赴任している自分の末息子が戻ってくるからその間だけの人材を求めていると説明される。
一年だけ王都にいるアランに丁度いいと思ってなと笑うレオンの目が見られず目を逸らす。
この前までの俺なら是非にと答えただろう。そんな人の下で仕事ができるなんて幸運な話はそう無い。
レオンは俺のためにとこの話を持ってきてくれたんだろう。
それはとても嬉しくありがたい話だった。本来なら。
「そうなのか、すごい光栄な話だけれど……」
断るよと告げるとレオンの目が厳しくなった。断られるとは思わなかったんだろう。
それはそうだ。こんな良い話を断わる者なんていない。
不機嫌を肌で感じ申し訳なさが募る。
「お前らしくないな」
ぽつりと落とされた静かな呟きに顔を上げた。
声に含まれた、悔しさや怒りを煮詰めて濃縮したような物騒な響きが耳に残る。
レオンの顔を見つめると紫の瞳がぎらぎらと怒りに燃えていた。
「俺の知ってるお前は目標をはっきりもって自分の道を決めていた。
それが必ずしも自分自身の望みと一致しなくても真摯に将来のために努力を怠らなかった」
そこまで自分を買ってくれていたのかと喜びを感じるより、それを無下にした痛みの方が強かった。
「俺の知ってるお前ならこの話をその場で断ることはしなかったはずだ……。
得難い話であることも理解して男爵や婚約者の説得に回っただろう」
レオンの言う通りだった。反論の言葉が何も浮かばないほど真っ直ぐに否定をされた。
「なあ、何があったんだ?」
真剣な瞳で問われて言葉が口をついて出そうになる。
迷い、口を噤んだ俺にレオンが激高した。
「黙ってこのままいなくなるつもりか!!」
レオンの言葉に目を瞠る。
学園にいられなくなることを知っていると仄めかす言葉にレオンが全て知っていると気が付いた。
知っていて俺が自分から話すのを待っているのだと。
「……」
唇が震え言葉が溢れそうになる。
葛藤する俺にレオンが叫んだ、言えと。
肩を掴んで顔を覗き込まれる。
俺を見つめる瞳には憤りや心配が強く表れていて、こんなに感情を乱すレオンは初めてだった。
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