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二年目 ~領地編~
新しい生活の始まり
しおりを挟む馬車に揺られながら領地に向かい一週間。
御者の説明を聞きながら感嘆の想いで侯爵家の領地を眺める。――広い。
見せてもらった書類の内容を思い出しつつ進む景色を見つめた。
ようやく着いた侯爵家の本邸も圧倒される大きさ壮麗さだった。
王都の屋敷も大きいけれど、規模が段違いだ。
屋敷というか、もう宮殿みたいな。
離宮だと言われた方がしっくりくるほど、広く美しい。
さすが侯爵家としか言いようがなかった。
侯爵からも名前を聞いていた執事のクレイルさんに挨拶を終え、そのまま部屋に案内される。
学園の寮と同じような机とベッドがある部屋は馴染みがあるもので、落ち着くものだった。
「旦那様よりアランは勉強をする机があった方がいいだろうと言われましたのでこの部屋を用意しました。
筆記具などは仕事でも使うのでそちらに入っています。
他に足りない物があれば、給与から引き落としになりますがこちらで纏めて商会へ注文しますので言ってください」
「はい、ありがとうございます」
細やかな配慮に感謝しかない。
特に書き物ができる机があるのはとてもありがたかった。
クレイルさんに渡された制服を着て仕事の説明を受ける。
まずは執事見習いとして色々な仕事をすることになるという。
「通常はその後適性に応じて私が仕事を振りますが、アランの場合はまた事情が異なります。
復学を希望しているとも聞いていますし、レオン様はアランに従者になってほしい訳ではないでしょうから」
俺の事情はクレイルさんも聞いているようだ。
本来、仕事の途中で復学する者はいないという。
俺の歳で見習いとして働き始めるのがそもそも遅い。
従者であれば幼い頃から側に付き、主人が学園に通っている間に一緒に学ぶことが多いという。
俺は本当ならできないことをレオンの厚意で雇われ学ぶ機会を得させてもらっている。
改めて気を引き締める。
これからは学生の身分とは違う。
与えられた知識や経験を吸収するだけでなく仕事として生かしていかなければならない。
まずは基本の仕事をしっかり覚えようと気合を入れクレイルさんを見る。
俺の考えがわかったのかクレイルさんが表情を緩ませ、気負うことはないがやる気があるのは良いことですと呟いた。
その後は屋敷の案内などを経て実際に業務に当たることになった。
使用人たちの仕事ぶりは身近に見ていたはずなのに、見るとやるでは大違いだ。
俺たちがいつも気持ち良く過ごすためにどれだけ気を配ってくれていたのかと驚く。
男爵家でお世話になった使用人たちの顔が浮かぶ。皆、未来の主人として俺を尊重して手伝ってくれた。
突然で、何の挨拶もできなかったけれど、彼らがしてくれたことはちゃんと俺の中で息づいている。
きっとこれからの未来の助けになってくれるだろう。
不条理だと感じざるを得ない、良くない別れになってしまったのは確かだけれど、あそこで過ごした思い出の全てが悪いものじゃない。
そう思える自分に笑みが浮かんだ。
初日の仕事を終え、与えられた部屋に戻って来る。
荷解きをして持ってきた物をしまってから机に座ってペンを取った。
クレイルさんに言われた通り、引き出しに入ってる筆記具を取り出して今日教わったこと、気になったことを書いていく。
教わったことを忘れないようにと、気になったことを明日質問するためだ。
始めたのが遅い分、覚えることはたくさんある。きちんと書きとめて見直せるようにしないと。
持ち歩くことを想定してある細身の小さなノートは制服の懐に入れられる大きさで使いやすそうだった。
書き終えノートを閉じると簡単に明日の準備をしてベッドに入る。
見慣れない天井を見つめながらぼうっとしていると徐々に眠気がやってきた。
明日は何をするんだろう。
学園へ入学したばかりの時のような高揚感。
見るもの全てが新しく、心が踊る。
新生活の始まりは大きな期待に溢れたものだった。
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