【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

文字の大きさ
31 / 97
三年目 ~再びの学園生活編~

2度目の2年

しおりを挟む
 

 春の日差しに照らされた校舎に心が踊る。

 一年と少しぶりに足を踏み入れた学園は、不思議と懐かしさよりも新鮮さの方を強く感じた。

「アラン、講義室まで一緒に行きましょう」

「はい、お嬢様」

 クリスティーヌ様の声に見上げていた校舎から視線を下げる。

「アランと一緒に学園に通えるなんてうれしいわ、しかも同じ教室でなんて」

 頼りにしてるわねと微笑まれ同じような笑みを返す。

「俺もクリスティーヌ様と同じ学年になるとは思いませんでした」

 2年生に上がったクリスティーヌ様と共に講義室へ向かう。
 俺は2年目の後半で休学したため、本来なら同じ時期に復学するか、希望すればレポートや教授との面談や試験を通して学習程度を認められれば3学年として復帰することができた。

 だけどそのどちらでもなく、2学年目の頭から再度通うことになっていた。
 その理由の一つである彼女をそっと見つめる。
 にこにこと楽しそうな笑みを浮かべているクリスティーヌ様。見ていると俺にも楽しい気持ちが移ってきて口元が緩んだ。
 クリスティーヌ様とは合わせて同じ講義を取っているため多くの時間を共にすることになる。
 それが俺を早めに領地から戻したレオンと侯爵様からの指示だったからだ。
 屈託のない笑みで新学期への期待を語るクリスティーヌ様を見ていると懸念が現実にならないようにとの思いが強まった。
 彼女を守る。それが侯爵家から与えられた学園での俺の役割だった。

 お昼の時に友人を紹介すると言われ頷きを返す。
 俺がクリスティーヌ様の側にいられないときはご友人にクリスティーヌ様をお願いすることになる。その顔合わせの意味も兼ねていた。
 変わった環境に不安がないわけではないだろうに表に出さず笑みを絶やさない強さに感心する。同時にこの笑顔を守りたいと強く思う。
 講義室に向かいながら3年制の学園で2年生をもう一度やることになった経緯を思い返した。




 侯爵領から急いで王都に向かった俺にレオンが告げたのは復学の時期を早めることだった。

「アラン、悪いな。 予定よりも早く呼び寄せて」

 レオンが急ぎ呼び寄せたことを謝罪し本題に入る。
 久しぶりに合った友人は変わらぬ様子で、けれどしっかりと変わったお互いの立場を崩さぬ態度で迎えた。
 レオンのことだから心配はしていなかった。俺自身も胸が疼くようなこともなく、すんなりと臣下としての礼を取れたことに安堵する。
 礼を取る俺を見ていたレオンの視線が一度離れ応接用のソファに座るよう促す。
 長い話になるから座れと言われ向かい側に腰を降ろした。

「クリスティーヌのことは聞いているな?
 お前と共同発表になったあの発動方法のことだ」

「ええ、正式に認定される運びだと聞き及んでおりますが……」

 それに何か問題が起きたのだろうか。
 クリスティーヌ様の手紙の方には特にそういった問題は掛かれていなかったけれど。

「ああ、それ自体は喜ばしいことで歓迎なんだがな」

 溜息を押し殺すような吐息に内心首を傾げる。
 レオンがこんなにわかりやすく感情を吐露するのは大変珍しい。

「それを発表前に嗅ぎつけた奴がいてな」

 苦々しい顔で話し始めたレオンによると現在クリスティーヌ様に求婚の申し込みが殺到しているらしい。

「それは……、すごいですね」

 馬鹿みたいな感想しか言えなかった。
 考えてみれば当然の話だ。
 クリスティーヌ様は素直で可愛いらしく、身分も侯爵令嬢と申し分ないどころか釣り合う相手を探す方が大変なくらいで。
 そんな方が今後の魔法体系に大きな影響を与えるような発見をしたのだ。
 クリスティーヌ様を伴侶にと望む者が列を成して来るのは想像に難くない。

「それだけならまだいいんだ。
 俺や父上が断わればいい。
 しかし、学園内でクリスティーヌに直接近づこうとする奴もそれなりにいてな」

 釣書が来ているのなら精査して相応しくない者はレオンたちが弾ける。
 しかし学生の身を利用して直接クリスティーヌ様に接触を図ろうとする輩がいるという。
 すでに何人かそういった者がいて、レオンが危惧する状態にあるらしい。

「俺も来年は卒業して学園にいない。
 そうするとクリスティーヌの身の安全が心許なくなる」

 レオンがいる今年は視線を気にして身を慎んでいても、いなくなる来年にはクリスティーヌ様に対するアプローチが激しく、露骨なものになることを懸念しているという。
 レオンの説明に俺も同様の危険性を感じた。

「だからアラン、お前には2年の最初からやり直してクリスティーヌを守ってほしい」

 レオンの目が俺を見つめる。
 余分な時間を取らせてしまうがと言うけれどそんなことは全く問題ない。

「それはもちろんお力になりたいと思います。
 しかし、そういったことに俺があまり役に立つとは思いませんが」

 護衛の真似ができるなんて全く思えない。

「お前に求めてるのは牽制だ。
 侯爵家がクリスティーヌを守るために人を付けている。 それだけで有象無象の奴らは引くからな。
 研究の共同発表者で俺の部下になるお前がクリスティーヌの近くにいるのは当然だし、俺や父上が直々に側に控えるよう命じているとなればお前を押しのけてクリスティーヌに近寄ろうと考える者も減るだろう」

 レオンの説明になるほどと思う。
 牽制と、それだけでは引かない者たちの報告と監視が俺の役目かと。
 それならと頷く。本格的な護衛を求められても俺の能力では難しい。
 守るということを念頭に置くなら本職の人をと進言するが、そこまでの事態ではないようだった。

 承知しましたと答えるとレオンがにやりと笑んだ。
 不穏なものを感じた俺の予感は正しく、冬の間護身術の訓練を受けさせられた。
 不幸中の幸いというか、学びの中心は危険が迫った時の行動指針などだったが。
 素人は立ち向かうのではなくまず逃げるが大事だと。
 安全を守る方法を多く学べたのは良い経験だった。
 体力も少し増えた気がするし。
 筋力は、それほど変わらなかった。


しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

処理中です...