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三年目 ~再びの学園生活編~

2度目の2年

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 春の日差しに照らされた校舎に心が踊る。

 一年と少しぶりに足を踏み入れた学園は、不思議と懐かしさよりも新鮮さの方を強く感じた。

「アラン、講義室まで一緒に行きましょう」

「はい、お嬢様」

 クリスティーヌ様の声に見上げていた校舎から視線を下げる。

「アランと一緒に学園に通えるなんてうれしいわ、しかも同じ教室でなんて」

 頼りにしてるわねと微笑まれ同じような笑みを返す。

「俺もクリスティーヌ様と同じ学年になるとは思いませんでした」

 2年生に上がったクリスティーヌ様と共に講義室へ向かう。
 俺は2年目の後半で休学したため、本来なら同じ時期に復学するか、希望すればレポートや教授との面談や試験を通して学習程度を認められれば3学年として復帰することができた。

 だけどそのどちらでもなく、2学年目の頭から再度通うことになっていた。
 その理由の一つである彼女をそっと見つめる。
 にこにこと楽しそうな笑みを浮かべているクリスティーヌ様。見ていると俺にも楽しい気持ちが移ってきて口元が緩んだ。
 クリスティーヌ様とは合わせて同じ講義を取っているため多くの時間を共にすることになる。
 それが俺を早めに領地から戻したレオンと侯爵様からの指示だったからだ。
 屈託のない笑みで新学期への期待を語るクリスティーヌ様を見ていると懸念が現実にならないようにとの思いが強まった。
 彼女を守る。それが侯爵家から与えられた学園での俺の役割だった。

 お昼の時に友人を紹介すると言われ頷きを返す。
 俺がクリスティーヌ様の側にいられないときはご友人にクリスティーヌ様をお願いすることになる。その顔合わせの意味も兼ねていた。
 変わった環境に不安がないわけではないだろうに表に出さず笑みを絶やさない強さに感心する。同時にこの笑顔を守りたいと強く思う。
 講義室に向かいながら3年制の学園で2年生をもう一度やることになった経緯を思い返した。




 侯爵領から急いで王都に向かった俺にレオンが告げたのは復学の時期を早めることだった。

「アラン、悪いな。 予定よりも早く呼び寄せて」

 レオンが急ぎ呼び寄せたことを謝罪し本題に入る。
 久しぶりに合った友人は変わらぬ様子で、けれどしっかりと変わったお互いの立場を崩さぬ態度で迎えた。
 レオンのことだから心配はしていなかった。俺自身も胸が疼くようなこともなく、すんなりと臣下としての礼を取れたことに安堵する。
 礼を取る俺を見ていたレオンの視線が一度離れ応接用のソファに座るよう促す。
 長い話になるから座れと言われ向かい側に腰を降ろした。

「クリスティーヌのことは聞いているな?
 お前と共同発表になったあの発動方法のことだ」

「ええ、正式に認定される運びだと聞き及んでおりますが……」

 それに何か問題が起きたのだろうか。
 クリスティーヌ様の手紙の方には特にそういった問題は掛かれていなかったけれど。

「ああ、それ自体は喜ばしいことで歓迎なんだがな」

 溜息を押し殺すような吐息に内心首を傾げる。
 レオンがこんなにわかりやすく感情を吐露するのは大変珍しい。

「それを発表前に嗅ぎつけた奴がいてな」

 苦々しい顔で話し始めたレオンによると現在クリスティーヌ様に求婚の申し込みが殺到しているらしい。

「それは……、すごいですね」

 馬鹿みたいな感想しか言えなかった。
 考えてみれば当然の話だ。
 クリスティーヌ様は素直で可愛いらしく、身分も侯爵令嬢と申し分ないどころか釣り合う相手を探す方が大変なくらいで。
 そんな方が今後の魔法体系に大きな影響を与えるような発見をしたのだ。
 クリスティーヌ様を伴侶にと望む者が列を成して来るのは想像に難くない。

「それだけならまだいいんだ。
 俺や父上が断わればいい。
 しかし、学園内でクリスティーヌに直接近づこうとする奴もそれなりにいてな」

 釣書が来ているのなら精査して相応しくない者はレオンたちが弾ける。
 しかし学生の身を利用して直接クリスティーヌ様に接触を図ろうとする輩がいるという。
 すでに何人かそういった者がいて、レオンが危惧する状態にあるらしい。

「俺も来年は卒業して学園にいない。
 そうするとクリスティーヌの身の安全が心許なくなる」

 レオンがいる今年は視線を気にして身を慎んでいても、いなくなる来年にはクリスティーヌ様に対するアプローチが激しく、露骨なものになることを懸念しているという。
 レオンの説明に俺も同様の危険性を感じた。

「だからアラン、お前には2年の最初からやり直してクリスティーヌを守ってほしい」

 レオンの目が俺を見つめる。
 余分な時間を取らせてしまうがと言うけれどそんなことは全く問題ない。

「それはもちろんお力になりたいと思います。
 しかし、そういったことに俺があまり役に立つとは思いませんが」

 護衛の真似ができるなんて全く思えない。

「お前に求めてるのは牽制だ。
 侯爵家がクリスティーヌを守るために人を付けている。 それだけで有象無象の奴らは引くからな。
 研究の共同発表者で俺の部下になるお前がクリスティーヌの近くにいるのは当然だし、俺や父上が直々に側に控えるよう命じているとなればお前を押しのけてクリスティーヌに近寄ろうと考える者も減るだろう」

 レオンの説明になるほどと思う。
 牽制と、それだけでは引かない者たちの報告と監視が俺の役目かと。
 それならと頷く。本格的な護衛を求められても俺の能力では難しい。
 守るということを念頭に置くなら本職の人をと進言するが、そこまでの事態ではないようだった。

 承知しましたと答えるとレオンがにやりと笑んだ。
 不穏なものを感じた俺の予感は正しく、冬の間護身術の訓練を受けさせられた。
 不幸中の幸いというか、学びの中心は危険が迫った時の行動指針などだったが。
 素人は立ち向かうのではなくまず逃げるが大事だと。
 安全を守る方法を多く学べたのは良い経験だった。
 体力も少し増えた気がするし。
 筋力は、それほど変わらなかった。


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