32 / 97
三年目 ~再びの学園生活編~
始まりは平穏に
しおりを挟む2度目の学園生活は平穏に始まった。
クリスティーヌ様のご友人とも無事に顔合わせが済み、彼女たちも俺の立場を理解していて必要なときは声を掛けてくれと言ってくれる。
ご友人の中でもクリスティーヌ様の周囲の変化は良いものばかりでないと感じられていたらしい。
高位も下位もなく多くの友人を得ているクリスティーヌ様だが、その中でも同じ侯爵令嬢のロレイン様と一番仲が良いようで冗談を言っては笑い合う姿は本当に気の置けない親友のようだった。
今年取っている講義は以前受講していたものとは違うのでその点も楽しい。
もちろん中には以前も取っていた講義もあるが、改めて学ぶことでより理解が深まっている。
今のところレオンや侯爵様が危惧していた事態は起きていない。
クリスティーヌ様が俺のことを説明してくれているおかげだろう。
教授たちも復学した挨拶に行った俺によく戻って来たと声を掛けてくれた。
一部の教授にはあの記号の話で掴まり抜け出すのにかなりの時間を要したが、どの人ももう一度得た機会を精一杯生かして自分の身にしなさいと励ましてくれる。
質問があればいつでも来なさいと言ってくれる教授たちに感謝と身の引き締まる思いで一杯になった。
新学期はそんな風に順風を受け始まった。
ただ、男子からはまだ若干遠巻きにされている。
クリスティーヌ様の側にいることが多く、2つも年が上の俺にどう接していいのか迷っているようだ。
講義の際などに話しかけることがあるのだが、どの生徒も話しかけられたことに驚き返答まで間が生まれたりしている。
話し終えると普通の態度に近づくのでこの辺りの問題はその内解決していくだろう。
講義の後、食堂までクリスティーヌ様を送りご友人と合流したところで挨拶をしてその場を離れる。
一緒に食事を取っても構わないと言われるのだが、あまり側にい過ぎるてはご友人と気の置けない時間を過ごす邪魔をしてしまうだろうし、従者の立場で堂々と同じテーブルに着くことも憚られた。
最初の顔合わせの時のような個室であればそれほど気にしなくても良いのだろうが、クリスティーヌ様の評判に関わることには慎重になりたい。
後で迎えに来ると伝えたら次の講義はロレイン様を含めた何人かと一緒だから大丈夫だと告げられる。
そうは言っても心配なのでロレイン様たちにクリスティーヌ様のことを頼むと任せてちょうだいと快く請け負ってくれた。次の講義が終わったら迎えに行くとだけ約束してその場を後にした。
簡単に食事を済ませ少し時間が空いたので図書館に向かう。
先ほどの講義と関連した内容の本を探していると、近くにいた男子生徒と目が合った。俺を見ていたのは同じ講義をいくつか取っている同級生だ。
突然目が合ったことに慌てていたが、何か言いたそうな様子で口を開いては閉じてを繰り返している。
「こんにちは、食事はもう終えたのですか?」
「あ、ああ。 もう食べました」
そうですかと答え食事を終えてすぐ図書館に来るなんて勉強熱心なんだなと感心する。
「あ、あの、アランさん」
「呼び捨てにしてくれて構いませんよ」
躊躇いがちに名前を呼ばれてアランでいいと告げる。
彼の方が平民になった俺よりも身分が上なのだし、どういう態度で接すればいいのか迷っているのならそれを示してあげれば落ち着くだろうと思った。
「そう、か?
じゃあアラン、俺のことも敬称とか敬語とか抜きでいいよ」
それはと躊躇いを見せると元々の身分は対して変わらないし、学園の間のことだからうるさく言わないと重ねて頼まれ、同級生に敬語使われるとか落ち着かないとまで言われた。
その表情が本当に困って見えて、学園内でならと了承する。
「じゃあ、それで話させてもらうけれど。
どうかしたんだ、もしかして何か用事があった?」
「さっきの講義のことで少し教えてほしいことがあって」
クリスティーヌ様と話していただろうと言われ、ああと先ほどの会話を思い出す。
魔法式の計算で迷うところがあったようで講義が終わった後に法則を書き出していたクリスティーヌ様に合っているかと確認された。
いつもよく予習しているクリスティーヌ様らしく問題なく合っていたので、一部変則的な計算が必要になるものだけを横に追記した。
いいかと窺う彼へもちろんと答え、開いている机へ向かい図にして法則を表し説明していく。
計算式だけではわかりづらくても視覚に見えるようにすると理解しやすいのは経験で知っていた。
「そっか、大きな魔法を使うときも単純に魔力を籠めればいいってわけじゃないんだな。
ありがとう! 助かったよ、兄貴とかに聞いても感じればわかるみたいな言い方しかしないから困っててさ」
明るい顔でお礼を言う彼へわからないことがあればなんでも聞いてくれと答える。
彼の家族は感覚派なんだな。
大きな魔力を持つ者ほど感覚で魔法を使えることが多い。
その感覚が掴めない俺としてはその方が難しそうに思えるのだが。
目の前の彼も同意見のようだ。俺の経験が役に立って良かった。
「とにかく助かったよ、ありがとう!
また何かあったらよろしく頼むな!」
元気よく手を振って去って行った彼を見送って俺もそろそろ行くかと次の講義へ向かう。
ようやく普通に話してくれる級友ができそうだった。
73
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました
ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」
公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。
留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。
※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。
【完結】
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。
異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さくら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる