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三年目 ~再びの学園生活編~
エドガーの罪
しおりを挟む入口を守っている騎士に合図をしてレオンが扉を開かせる。
俺たちが入った後、背後でまた鍵が閉められた。
幾重にも厳重な守りが敷かれている場所を歩く。
石を叩く靴の音が反響して大きく響いた。
目的の場所で足を止める。
格子の向こうには手に枷を嵌めて足にも逃走防止に鎖の付いた枷の着けられているエドガーがいた。
俺たちを見て舌打ちをしたエドガーは、牢の中でもわりと元気そうに見える。
「俺に何の用だ。
そろそろ出してくれるのか?」
釈放かと軽い態度で聞いてくるエドガーにレオンが淡々とした声で告げる。
「残念だがお前が釈放される日は来ないな」
腕を組み見下ろすレオンに、エドガーがぴくりと眉を寄せる。
「土地を借り受け贋金の鋳造所を実際に操業していたのがお前の手の者だと判明した。
よって子爵領内での半金貨の偽造、及び学園での偽半金貨を支払いに用いての売買の元締めとして正式に逮捕する」
「……!」
眼を剥いたエドガーが格子を叩き叫ぶ。
「ふざけんな! ありえないだろ!」
「ありえない? どうしてそう思うんだ?」
激高するエドガーにレオンが冷静に問い返す。
「俺が子爵家に関与している証拠はないだろうが!」
叫ぶエドガーを見てレオンが俺に目配せをする。
「この手紙は子爵家で保存されていた物だ」
レイチェルの手紙を取り出すと、エドガーが反応した。
封筒から手紙を取り出しエドガーに見えるように格子の前に突き出す。
そこにはしっかりエドガーが子爵家に土地を借りたいと言っていると書かれていた。
「ふざっけんな! あの馬鹿女!!」
なに余計なこと書いてんだと怒鳴り散らし手紙へ手を伸ばす。
書くなと言っておいたのにと怒りを吐き出すエドガーの手が届かないよう手紙を下げ懐にしまい込む。
「手紙を書くときは訪問の目的をちゃんと書きましょうって教わってるから。
違うことを書いてほしいのなら自分で文章を考えた方がよかったかな」
あまり手紙を書いた経験がないから定型文に沿ったものしか書けなかったんだろう。
感謝してねとか余計な文言を付け加えていたけれど、概ね定型の文章を作れていた。
俺を捕らえるため誘い出した時にはレイチェルを騙して予定を誤認させる知恵がついていたのに。
贋金を作るための道具を移動させる必要もあったから焦っていたんだろうけれど、手紙の内容を確認しなかったのは失敗だったな。
レイチェルが素直に見せたかはわからないけど。
激高するエドガーへレオンが冷静な声で罪を突き付ける。
「それからお前が子爵家と商談をした時に連れていた従者が工場を操業していた者だと目撃されている。
そっちの方が動かぬ証拠だな」
「ハッ、はったりも大概にしろよ」
見られているわけがないと高を括っているようだった。
「目撃したのは子爵家の者だ。
御者が休憩している間だけ馬車の番をしていたようでな。
客として来ていたお前が連れていた使用人が子爵が貸した土地に出入りしているのを何度か目撃している」
「……!」
怒りにかわなわな震えるエドガーへ罪を並び立てていく。
「学園で学生相手に品物と引き換えに偽半金貨を渡していたことも裏は全て取れているし、品物を保管していた倉庫もすでに押さえている。
残念だったな、もう言い逃れはできないぞ」
後はお前が諦めて協力的になってくれればこっちの手間は省けるんだけどなとエドガーを見下ろすレオン。
「はっ、勝手に苦労しろよ」
虚勢を取り戻したエドガーが嘲る笑みを浮かべる。
「そうか、残念だ。
まあ今の証拠だけでもお前を牢にぶち込むのには充分だ、別に構わない。
ただ国に引き渡す前にまだ調べることがあるからここにはいてもらう」
気が変わるかもしれないしなと告げたレオンがにやりと笑う。
「感謝しろよ? 王城の汚い牢に比べたらここは楽園らしいからな」
痛み入るねと皮肉で返すエドガーへ俺は気になっていた疑問をぶつける。
「エドガー、どうして俺に罪を着せることに固執したんだ。
自分から目を逸らすだけなら俺でなくても他に候補はいただろう」
切るためだけの相手も用意してあったみたいじゃないかと問う俺へエドガーが面倒そうな視線を向ける。
「言っただろ、お前が目障りだったんだって」
それ以外の理由なんかねえよと答えたエドガーがそれ以上の問いを拒否するように顔を背ける。
そして気づいたように口に笑みを作った。
「そういえば倉庫のこともバレたってことはあのクソ女も捕まったのか、ざまあないな」
自分の婚約者のことまで馬鹿にして笑うエドガーへ眉を寄せる。
引き込んだのは自分だろうになぜそこで笑えるんだろう。
「どんな気持ちだ? 自分を裏切って俺を選んだクソ女が罪人として捕まって嬉しいか?
あの女の性格からしてお前に縋ってくるんじゃねえの?
私を助けてっ、優しいアランなら助けてくれるでしょう?ってな」
エドガーの言葉にレイチェルなら言いそうだなと思う。
自分の婚約者を罵りながら楽しそうな顔で俺を見上げるエドガーへ溜息を吐く。
「どうして嬉しくなるなんて思うんだ。
ひとつも嬉しくない」
子爵といいエドガーといい、なんで俺が人の不幸を見て喜ぶと思うんだ。
「エドガーに言われるまま手を貸したことは本人の責で、とても残念に思う。
けれどそうして深く考えず行動に移したのは男爵や俺がフォローばかりしてたからかと多少の申し訳なさも感じてる。
もっと強く本人の成長を促すべきだったのかなって」
男爵にレイチェルが伸び伸び生きられるように気を配ってくれと言われていたとしても、もう少しだけできることがあったんじゃないかと。
でももう俺にできることはない。
俺の答えにエドガーの顔が引きつり、唸るような低い声を発した。
「……お前のそういうところが鼻に付くんだよ」
エドガーの目が怒りに燃えた。
「自分を捨てたり貶めたヤツにもそうやって同情の目を向けて、お可哀想ってよ。
高みから見下ろして自分だけお綺麗な人間のつもりか?」
そんなつもりはない、ただ俺は……。
「でも、怒るのって疲れるから」
ふっと吐いた言葉が後から胸に落ちる。
「そんなことをしている時間があるのなら、俺は――。
気の置けない友人と話したり盤上遊戯をしたり。
知らないわくわくすることが載ってる本を読むとか。
側にいるだけで幸せな気持ちになる人と一緒の時間を過ごしたい。
そっちの方が余程楽しいし幸せだから」
自分にとって大切なものを思い浮かべながら答えると横から笑い声が聞こえ、目の前のエドガーからは憎々し気な目を向けられた。
「残念だったなエドガー。
アランはお前たちには興味がないそうだ」
ぎり、と音が聞こえるくらい歯を噛み締めたエドガーが俺を睨みつける。
それ以後口を噤んでしまったエドガーだが、俺が牢を出るまでずっとぎらぎらとした憎しみの目を向け続けていた。
建物を出て歩きながら疑問を零す。
「結局エドガーは俺にどうなってほしかったんでしょう?
憎んでほしかったと言っているように聞こえましたが」
どういう心理なのかよくわからない。けれどレオンにはなんとなく通じたらしい。
「気持ちはわからんが言わんとすることはわかった」
問う目を向けるとレオンがちらりと視線を向けて肩を竦める。
「ようはお前が羨ましいって話だな」
「……ますます意味がわかりません」
物凄く簡潔過ぎて意味のわからない答えが返ってきた。
微妙な目を向けると言葉を変えて言い直す。
――不幸のどん底に落ちたはずのお前が楽しそうに過ごしているのはどうしてだ。
――憎しみや恨みをぶつけてくるのが普通だろう。
――でなければこんなにお前が疎ましくて憎らしい気持ちでいっぱいの自分がおかしいみたいじゃないか。
――同じ気持ちを持つように仕向けてやりたい。
――醜く悪意を吐き出して叫ぶところが見たい。
そんな感じなんじゃないかと話を締めくくったレオンに曖昧に相槌を打つ。
まだピンと来てない顔だなと言われたので正直に頷く。
なんとなく言いたいことはわかったけれど、全然ピンと来ない。
無理に考えるなと言われて頭を振って考えを掃う。
考えたってエドガーがやったことが変わるわけでもない。
けれど、理由の全てがそれだったのなら。
胸に浮かんだ感情に、これだからエドガーを怒らせてしまうのだろうなと思った。
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