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三年目 ~再びの学園生活編~
会いたいは――ですか
しおりを挟む帰る馬車の中、俺がリリーナから受け取った手紙を確認してレオンがよしと呟く。
「これでエドガーと子爵家の繋がった時期がはっきりしたな」
「ええ、本当に急いで渡りをつけたようですね」
そこまでして俺に罪をなすりつけたかったのか。
次いでレオンの方で得た情報について聞く。
「俺の方は工場を借りて操業をしていた……、ようは贋金の鋳造所を仕立て上げた男だな。
そいつがエドガーの連れていた使用人だったことが判明している」
「本当ですか!」
それは大きい。エドガーがはっきりと贋金作りに関与していた証拠になる。
「しかしあれだけ慎重に行動していたエドガーがそんなわかりやすい人材を使うなんて……。
こちらとしては幸運ですが」
「余程お前に罪を被せようと焦ってたんだろ」
無理を押して資材の移動をさせ贋金の鋳造所を作り出したくらいだと言うレオン。
確かに新たに資材や道具を運ぶのにも時間や人手がいるわけだし、新たに人を用意する余裕がなくてもおかしくはない、か……。
そこまでしてどうして俺に罪を着せることに固執していたのかわからない。
目障りだったというのが理由の一つではあるんだろうけれど。
ここまでの手間や危険を押して進めるほどのことなのか?
考えてもしょうがない。
今後の聴取や関連が明かされていけばわかるだろう。
「それではその使用人を押さえればエドガーの罪は確定しますね」
俺を監禁して暴行していた罪で捕らえてはいるけれど、贋金の件はまだすべての証拠が固まっていなかった。
贋金を作っていたという証拠が得られればエドガーの目論見を完全に崩すことができる。
「そうだな、捜索の手配を取らないと」
レオンが目頭を揉む。やはり疲れがたまっているみたいだな。
「その目撃者は侯爵家で保護をするんですか?」
「いや? 本人が望まなかったから子爵家に残している」
「そうなんですか?」
身の危険を避けるためや秘密を明かした気まずさから大体は保護を望むものなんだけれど。
そう思っていると、レオンが意外な人物の名を口にした。
「目撃者はお前の弟だ」
「……! そうなんですか?」
先ほどあれだけ憎々しげに俺を見ていたのに、捜査への協力はまた別のものなんだろうか。
そう思っているとレオンが弟と話をした印象を教えてくれる。
「お前たちの会話を聞いて思うところがあったんだろ。
子爵家に不利になるかもしれないからそれまでは黙っていたようだが、隠していることの方がマズイと気づいたというのか」
そういえば兄妹そろって話を聞いていたと言っていたな。
子爵の、自分は何もしていないから大丈夫だという考えが楽観的に過ぎるとわかったのか。
それを知っているということはレオンも聞いていたのかと視線を向けると、弟と上の妹が庭で話し合っている内容を聞いただけだという。
自分たちがどうなるかと想像を交えた不安を語っていたから細かく教えてやったと語るレオン。
そうしたら弟が土地を使っている者と子爵家をエドガーが来た際に馬車で待機していた使用人が一緒だったと話し出したそうだ。
自分から目撃談を明かし協力的な態度だったから多少未来がマシになるかもなと言ってくれたレオンにほっとする。
憎まれていたとしても案じる気持ちは変わらない。
先ほどのことを思い出していると暗い顔をしているなとレオンに言われてしまう。抱え込んでないで話せとも。
「俺が彼らを不幸にしていると言われたんです……。
ある意味そうなのかなって思ってしまって」
エドガーが俺を嵌めるためにわざわざ子爵領に贋金の鋳造所を作った、それを考えれば弟の言ったことも間違ってはいない。弟はそこまでは知らないかもしれないが、どうしても考えてしまう。
「あんま考えすぎるな。
どうせあの調子だ、子爵はお前のことを好き勝手に弟たちに吹き込んでたんだろ。
自分の無能が事態を悪化させていくのを認められない奴のしそうなことだ。
俺たちはこんなに苦労しているのにお前は男爵家でのうのうと暮らしてるんだってな」
馬鹿馬鹿しいと鼻で笑うレオンに、もやもやした思いが少しだけ晴れる。
それに気づいたのかレオンが弟たちのことは放っておけと言う、時間が経てば落ち着くと。
「次から次に新しい情報を足されて処理しきれていないんだ、放っておけ」
自分たちの身に何が起こっているのか、これまで何があったのか知れば感情はそのうち落ち着くだろうと言われ頷く。
家族のことはやはり恨まれていた悲しさはあるし、助けを求めた手を振り払われたことへの絶望は忘れられない。
けれど、不幸になってほしいと思っていたわけでもないんだ。
特に親に付き従うしかなかった弟妹たちは不憫だと思っている。叶うなら彼らには子爵の罪の余波がいかないようになってほしかった。
「ウチの騎士たちも子爵家にまだ置いているしな。
子爵の関わった範囲が確定した今なら、事情を話して今後の動きを説明するくらいならできる」
「ありがとうございます、……現状を話してくれたことも。
自分たちの身に起こっていることを聞けて彼も安心したでしょう」
もちろん軽い罪ではない、不安や恐怖があって当然だ。
けれど、彼らが正直に知っていることを明かし父の罪に関わっていないことがわかれば、まだ学園にも通っていない歳の彼らは保護の対象になる。
俺がそこに関わることは恐らくできないが、健やかでいてほしいと願わずにはいられなかった。
馬車の中に沈黙が落ちる。
そういえばと思い出したことにレオンの顔を見る。
「子爵が去年の夏頃から流通が滞るようになったと言っていましたが、何かしました?」
偶然というには少し……。タイミングが気になった。
「いや? 俺は別に何も」
「そうですか」
偶然なのかと視線を伏せた瞬間、笑いを含んだレオンの声が降ってきた。
「だがお前と同じ講義を取っていた奴らの何人かは、お前と同じ地方の出だったろう?
そういうことがあってもおかしくないな」
「……!?」
レオンの言葉にばっと顔を上げる。
「急にお前の姿が見えなくなって、あの女がエドガーといちゃついてるのを見て憤ってたからな。
事情を知らなくても想像がつく光景だったぞ、あいつらが怒るのも当然だ」
「そう、ですか……」
もしかしたら俺が知らないだけで男爵家にも何らかの影響が起こってたりするのかな。
考えない方がいいかもしれない。
何より、今日はもう疲れた。
ぶつけられる感情と悪意。幼い頃の記憶に、自分の中で渦巻く感情。
目を閉じるとレオンの労わる声が降ってくる。
「――お前も、今日はご苦労だったな。
疲れたろう、だがよく証言を引き出した」
「そうですね……。
怒るって――、疲れますね」
あんな風に声を荒げて怒るのは、あまりしたことがない。
慣れない感情に翻弄されて疲れた。
「――クリスティーヌ様に会いたいです」
今、無性に彼女の笑顔が見たかった。
まぶたの裏に浮かぶ微笑みでは到底足りない。
「俺相手にのろけるな」
からかうような声にふっと笑ってしまった。
それだけで気持ちが軽くなる。
「会いたいって言うのはのろけですか?」
軽い口調で答えて目を開ける。
俺が口元に乗せた笑みを見てレオンも笑みを深めた。
「今でこれだ、正式に認められたらどんなのろけを聞かされるかわからないな」
「どうでしょう、俺だけの秘密にしたくて黙ってるかもしれませんよ?」
冗談めかして言った言葉なのに、レオンが顔を顰める。
「お前は自覚なく甘ったるい空気を振りまきそうだな」
どういう意味だろう。
わからなくて首を傾げていると、クリスティーヌにのろけを聞かされる心配の方を先にしておくと苦笑していた。
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