【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

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三年目 ~再びの学園生活編~

喧騒と日常と

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 学園内はしばらくはざわつきが続きそうだが、普段と変わらない人もいる。


 夏の間たっぷりと研究に時間を使った教授の話を聞きながら記号と魔法式の組み合わせを試していく。
 本当に検証のし甲斐があると楽しそうだ。
 少しの呆れはありつつも教授の話を聞くのはおもしろい。
 実際に魔法式を描いて教授の検証結果を確認するのも楽しかった。
 そうして魔法を使っていると閃きも訪れるもので。

「――……!」

 手に短い式をいくつか描いて順に発動させていく。
 三連で放った風の矢が厚めの板を貫いた。俺の魔法の威力でここまで攻撃力を得るのは驚きだ。
 もちろん魔法に長けた人と比べれば雲泥の差だが。
 クリスティーヌ様と教授も興味深そうな目で結果を見ている。

「クリスティーヌ様といいアランといい、独創的な発想には驚かされます。
 今のは複数の式を描いた上で順に発動させたのですか? それとも三連続で飛ぶような式だったのですか?」

 発動させる時間をずらしただけだと説明する。
 ……自動で発動時間を設定して放つのもできそうだなと頭によぎる。
 魔法式の描き方で示せそうな気がした。

 好奇心いっぱいの顔の教授が、また継続して研究に協力してほしいと願うのでそれを了承する。
 校内のざわついた空気が届かないここは穏やかで。
 やっと日常が帰ってきた。
 そんな風に感じられた。



 夕方になりそろそろ終わりにしましょうと教授を促すと残念そうな顔で肯かれた。
 いつもは俺の魔力切れで終わってしまい夕方にまで及ぶことはなかったから。
 俺の魔力の残量を聞き口惜しそうな顔を浮かべるけれど、教授が帰校時間を破らせるわけにはいかない。
 次は短い式を使った際の魔力の消耗について検証したいと言い出す。
 本当に魔法のことで頭がいっぱいの教授に苦笑しつつ了承する。
 俺の了承に教授は弾むような足取りで立ち去っていった。


「アランは何かしたいことはないの?」

 寮まで戻る道すがらクリスティーヌ様にそんなことを問われる。
 少し考えたけれど今は特に思い浮かばない。
 素直にないと答えると困ったように微笑むクリスティーヌ様にどうしたのか聞く。

「ここのところずっと忙しかったでしょう?
 せっかく落ち着いてきて自分の時間が取れそうなのに教授の頼みを引き受けてよかったの?」

 心配を除くように大丈夫だと笑みを浮かべる。

「俺にとっても願ってもないことですから。
 いつも新しい発見があって楽しいですし、教授の話を聞くのは勉強になります」

 そう得られない機会に立ち会っているのだから参加を望まれたら断ろうとは思わない。

「それに……、一緒にいられるのは嬉しいです」

 誰もいない訓練場の中だからと少しだけ本音を零す。
 四六時中一緒にいるけれど、従者として一歩引いた立場でいなければならない校内とは違い、ここでは人目をそれほど気にせず対等に話し合うことができる。

 俺の返答に口元を綻ばせたクリスティーヌ様が薄く頬を染める。
 小さく帰ってきた『私もよ』の囁きに口元が緩むのを押さえることができない。

 喧騒の中、時折得られる穏やかな時間がたまらなく愛おしい。
 友人や大切な人と過ごす学園生活の楽しさに自分の幸運を噛み締める。

 レオンの下に届く手紙に書いてある進捗にはそれほど遠くなく侯爵様も王都に戻れそうなことが窺えた。

 予想違わず、侯爵様が戻って来たのは夏の暑さが完全に取れた頃だった。





 学園に届いたレオンの手紙を開くと侯爵様が王都に戻ってきたと書いてあった。
 週末にはクリスティーヌ様と共に侯爵邸に戻るようにとも記されている。

 手紙によると侯爵様が戻った時は王都が騒然としたそうだ。
 捕らえた者たちが一緒のためかなりの大所帯での移動となり衆目を集めていたという。
 それなら騎士も大勢いただろうし、さぞ物々しい光景だっただろうな。

 そのまま王城へ入り引き渡しの話などを済ませたそうだ。
 事前に連絡を貰ったレオンもそれに同行していて、やっと捕らえていた者の多くが引き渡せすっきりしたと記されている。
 現在王都中その噂で持ちきりだそうだ。
 学園内にいると街の噂は遅れて入ってくるため、学生たちはまだそこまで知らない。
 週明けはまた騒がしくなりそうだと溜め息を吐く。
 ようやく少し喧騒が落ち着いてきたところだったのに。

 仕方ないと先のことは忘れて目の前の問題に目を向ける。
 すなわち侯爵様にどのように謝意を伝えるかということ。
 またぶり返してきた緊張に落ち着かない気持ちで数日を過ごし、クリスティーヌ様に大丈夫だからと励まされどうにか週末を迎えたのだった。


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