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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~
四侯(+α)会談の始まり
しおりを挟む春の風が吹く頃、王城にて会談の場が設けられた。
先に四方の侯爵家が揃ったテーブルへ、遅れて登場した国王が自身の席へ着く。
南からは筆頭侯爵家ともう一家の侯爵家。それぞれの当主が会談に臨んでいた。
東からは当主とその息子。
西は当主のみ。
北からは当主である侯爵様、嫡男のレオンが参加していた。
国王から右回りで北、東、南、西とそれぞれの関係者が座っている。
ゆったりと構え、笑みすら浮かべている南北の侯爵に対して、東の侯爵は王へ鋭い眼光を向け、西の侯爵はどこか落ち着かない様子で卓に着いていた。
「こうして四方の侯爵全てが集うのはずいぶん久しぶりのことだな」
南方の筆頭侯爵家が静かな声で口火を切った。
我らが揃うのはあまり喜ばしいことではないのだがと居並ぶ者の顔を見回す。
「本日の議題について、まだご説明しておりませんが――」
「その前にこの場に相応しくない者がいるようだが?」
そのまま会議を進行しょうとした侯爵様を国王が止める。その視線は俺に向けられていた。
「どこの馬の骨とも知れぬ者がこの席に着いているのを、なぜ貴公らが黙って見ているのか理解に苦しむ」
本来ならば俺は座る方々の後ろか離れた場所に立って、必要があれば情報を伝える程度のことしか許されない。
しかし今レオンの左隣に座り、会議の当事者として王へ直接言葉を伝えることを許される立場に身を置いている。
不自然なことにも関わらず、王以外の者はそれを咎めることはない。
それは何故かといえば――。
「馬の骨とは異なことを。 この子は儂の末の息子ですよ」
事前に参加者として申請しておりますが、と横から擁護の声が上がる。
ひび割れるような低い声で王の言葉を否定したのは東の侯爵。
隣に座る俺の肩に手を乗せ、眇めた目で王を見据える。
東侯が発した言葉に国王が目を見開く。
一番最後に現れた国王以外の面々にはその場を借りてすでに挨拶を済ませている。
突然現れた東侯の新しい息子に驚いていたのは西侯だけで、南の侯爵はどちらもおもしろそうな目を向けるだけだった。
「我が家は武に長けますが、どうにも文に弱い。
それを補う者を求めていたところ良い出会いがありましてな?
末の息子として迎え入れることにしたのですよ」
歳が歳なので孫としても良かったのですがと笑う東侯。
急ぎで書類を通し俺がこの場に参加できるように取り計らってくれたのは東侯だが、そこに国王への敵意が見え隠れしていた。
過去のことから確執がある東侯の末息子を馬の骨呼ばわりした失態に顔を引き攣らせる王へ何か問題でも?と笑みを向ける。
養子縁組みは済ませ息子の参加にも承認は得ておりますと髭を撫でる東侯を睨み、急なことなので把握していなかったと王が引いた。
俺がこの場にいることを騎士たちが問題にしなかったことからも、東侯の言うことが事実であると判断したのだろう。
しっかり参加者を聞いていれば北侯の嫡男と東侯の間に座る俺がどのような立場か想像がついたろうに。
人を喰ったような態度の東侯に表面上取り繕いながらも忌々しい内心を隠せない国王。
いきなり険悪な雰囲気になった空気を意に介さず、北侯である侯爵様が話を戻すように口を開く。
「本日の議題は前もってお伝えするのを憚るような内容でしたので、お集りの皆様には十分なご案内ができず申し訳ございません」
もったいぶった言い方で侯爵様が議題に触れる。
充分な案内ができてないと言いながら東侯や南侯たちにはすでに根回しは済んでる。
余裕のある笑みを崩さない三方に対し西侯は自分一人が根回しから外されたことに気づき顔色を悪くしていた。
「議題も告げずに招集するなど、しかも四侯だけでなくそちらまで参加とは」
余程緊急かつ重要な議題なのだろうかと南侯ともう一方の南の侯爵を交互に見やり西侯が戸惑いを口に乗せる。
「ええ、西侯。
とても重要な議題なのですよ。
それこそ数世代遡っても起こらなかったような重大な、ね?」
南の侯爵が送った軽くいなすような視線に自身の方が年長者であることを思い出したのか不快そうに眉を寄せる。
しかし強く出ることも出来ずに口を引き結ぶにとどまった。
侯爵様と南方の二領主は概ね同じ年頃だ。30代後半から40代に入ったばかりの侯爵様たちに対して西侯は50代の頭だっただろうか。
東侯は60間近と、本人も言っていた通り俺の祖父と言ってもおかしくない年齢だ。
厚みのある鍛えられた体躯と実力に裏打ちされた堂々たる態度は、老年に差し掛かっているとは思えないほど覇気に溢れている。
国王はどちらかといえば西侯に近く40代の終わり。王女が俺の上の妹と同じ歳なのだからかなり遅い年の子供となる。
東侯は別として年若い侯爵様たちの方が余裕を含んでいるのはこの場を仕掛けたのがこちら側だから。
もしくは経験の差か。
「もったいぶらずに申せ、通常の議会ではなく四侯の名で招集したのには訳があるのだろう」
国王が青みがかった薄灰の目で南の侯爵たちを睨む。
翠色の瞳を愉快そうに細めた南の侯爵が肩を竦め南侯へ頷く。
深みのある緑の瞳で議場を見回した南侯が場が落ち着いてのを見て侯爵様へ視線を送った。
色こそ違うものの二人の容姿がどこか似通っているのは、二家が幾度か血を交わした縁戚関係でもあるからだろう。
「ではまずは議題の共有を致しましょう。
本日集まっていただいたのは最近西方を騒がせていました重大犯罪とその隠蔽についてです。
彼の問題は国を根本から揺るがすと考え、四侯揃い踏みで会談を開く必要があると判断致しました」
西方の重大事件と言われ西侯が重々しく相槌を打つ。
「その件に関しては私も事態を重く見ている。
同じ西方を守る者として事件に気づかなかったこと、誠に不甲斐なく思っている」
侯爵様に対し西方の者が迷惑をかけたと目を伏せて遺憾の意を表す西侯。
軽く目を伏せ侯爵様は西侯の言葉を流した。
二人のやり取りを見て国王が不服を述べる。
「しかしその件はもう済んだこと。
大方罪を言い渡し後は刑を待つのみであろう」
「おや、その罪が適当ではないとの声が各方面から上がっていると聞きましたが」
まだ耳は耄碌しておりませんのでなと髭を撫でながら東侯が笑む。
自分の下した判断に異を唱えられていることを挙げられ不機嫌そうな顔になった国王は、反対意見があることはわかっていると認めた上で自身の判断に問題はないと考えていると答えた。
胸を逸らす王へ侯爵様が言葉を続ける。
「それに絡めて先に宣言しておきますが、我が娘と公爵の子息との縁談は正式に辞退します」
侯爵様の宣言に目を怒らせる王へ目をやり、西侯が口を挟む。
「北侯、この場で私事を述べるのは如何なものかと思うぞ」
咎める言葉にも侯爵様は泰然とした態度を崩さない。
西侯と王を見つめ緩やかな笑みで批判を退ける。
「私事とは言えないでしょう、娘への縁談を利用して西方の立て直しを求められたのですから」
侯爵様の発言に西侯が王を見つめた。その瞳には驚きが含められており、やがて内容を理解したのか拳が握り締められる。
国王が西の盟主を名乗る西侯を無視して侯爵様に話を持ちかけたことは不快だろう。
東と南の侯爵たちは別の理由で王への不快を示していた。
領分を大きく超える場所への手出しを王が命じたこと、それが褒賞と銘打ちながらなんら侯爵様の尽力に報いるものではないことを知っているからだ。
「私が問題にしているのはその縁談が一連の事件の大元を隠すための目眩まし……。
隠蔽行為であるということです」
侯爵様が発した言葉に国王が大きく目を見開いた。
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