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16 王都の大商会
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案内されたソフィアの家を見て驚きを隠せなかった。
家、と言ったけど案内されたのは住居兼店舗のアルフレッドの家の二十倍はあろうかという建物。
ソフィアの家は王都の中心地にある大商会だった。
「ソフィア、こんなすごい家の娘だったんだな」
「黙っててごめんね、言う機会が見つからなくて」
行商に来ているときに言わないのは当然だ、こんな家の娘だと知られて危険があってもいけないだろうから。
「そうそう言えることじゃないよ」
階段を上がり通された応接室ですらアルフレッドの家よりも大きい。
ソフィアを通してこの商会とのつながりを持ちたいという人間も多いだろう。
ますます行商をしているのが不思議だ。
これだけの大商会なら後を継いでほしいという声もあったんじゃないのかと思う。
実家や妹を支えるために見分を深めているならわかる。
ソフィアからはいずれ自分の店を持ちたいとかは聞いたことが無かった。
もしかしたらゆくゆくは家に帰ることを考えていたからなのかもしれない。
ソファに並んで座り待っていると扉が豪快に開かれた。
「お姉様! お帰りなさい!!」
駆け込んできたのはソフィアよりも薄い紺灰色の髪をした女の子。
ぱっちりとした目はソフィアと同じ明るい青色をしている。
ソフィアの妹はソフィアに抱きついて再会の喜びを表した後、アルフレッドに視線を移した。
「そちらの方は? お姉様の恋人?」
好奇心を隠さない瞳でアルフレッドとソフィアを交互に見る様子にソフィアが苦笑を零す。
「違うわよ、お客様相手に失礼なこと言わないで。
アルフレッド、妹のシンシアよ。
シンシア、こちらは私が良くしてもらってる細工師のアルフレッド。
私が知る細工師の誰よりも美しい装飾品を作るのが得意なの」
シンシアの目が商人らしく光る。
「まあ、そうなの! お姉様がそうまでおっしゃるなら余程の腕をお持ちなのね!」
ソフィアがそこまで自分を評価していてくれたことに胸を打たれた。
アルフレッドの腕を高く買ってくれてるのは知っていたけれど……。
自分の知る誰よりも、とは過分な褒め言葉だ。
嬉しさと申し訳なさが同時に襲ってくる。
「ぜひ作品を見せていただきたいわ」
シンシアがそう言って身を乗り出すのを『後にしなさい』と窘めるソフィア。
普段とは違う態度に思わず笑みを零す。
いつもはソフィアも新しい商品や変わった街などを見て、同じように目を輝かせているのに。
そんなアルフレッドが何を考えていたのかわかったのか、ソフィアが少し頬を染めて気まずそうに視線を逸らした。
「じゃあお父様とお母様が来るまで二人のなれそめを聞かせてください!」
座るように促されて斜向かいに腰を下ろしたシンシアがアルフレッドとソフィアを見つめる。
「なれそめって……、別に恋人ではないと言ったでしょう?」
「そうじゃなくてー、どこで出会ったのです?」
溜息を吐きながら答えるソフィアに言葉を変えながら聞くシンシア。
結局、ソフィアとの出会いからどのくらいの頻度で会っているかなどを聞き出された。
まだ何か勘違いされているような気がする。
話していると応接室の扉が今度はノックされてから開かれる。
「ソフィア、お帰り」
「お帰りなさい! 元気にしていた?」
灰色の髪をした落ち着いた雰囲気の男性と藍色の髪をした可愛らしい雰囲気の女性が入って来た。
ソフィアの父親と母親だろう。
父親は灰色の髪と澄んだ青色の瞳、母親は濃い藍色の髪と同じ色の藍色の瞳をしている。
ソフィアとシンシアは両親の特徴を綺麗に受け継いでいた。
少しだけ羨ましく感じる。
アルフレッドは母親と同じ色彩しか受け継がず、父親に似たところがない。
デリクは色こそ母親から受け継いだが、顔や体型は父親似だ。
「ただいま。 お父様もお母様も変わりないみたいね」
帰参の言葉を口にして家に帰ってきた実感が湧いたのか、表情が緩んだ。
「ところでそちらの方は?」
ソフィアの父親がアルフレッドの方を向く。
「下で従業員たちが大騒ぎしていたわよ、ソフィアが彼氏を連れて来たって」
その横でソフィアの母親もにこにことしながらあらぬ誤解を口にする。
「まったく……。 みんな話題に飢えてるの?
ここなら娯楽に事欠かないでしょうに」
呆れた様子でソフィアが騒ぎ過ぎだと首を振る。
「アルフレッド、紹介するわね。
父のヘンリー・ウォルトン、横が母のリディア・ウォルトン。
あそこに控えているのが執事のグレンよ」
いつの間にか部屋の隅に一人の男性が控えていた。
視線を向けるとグレンと呼ばれた初老の男性が恭しく一礼する。
広々とした部屋とそこに居並ぶ人たちを見、改めて桁違いの大商会の娘なんだと理解した。
「それでこちらが……」
紹介しようとしたソフィアを止めて背筋を伸ばす。
「アルフレッド・アトリーと申します。
ソフィアとは私が作っているアクセサリーを通じて知り合いました」
一度言葉を切り二人と目を合わせる。
「申し訳ございません!!
私の家族がしたことによりソフィアに多大な迷惑をおかけしました!」
許してくれとは言えない。
今まで良くしてくれたソフィアにデリクがした仕打ちは、恩を仇にして返すものだった。
アルフレッドにはただ謝るしかできない
頭を下げ続けるアルフレッドに掛けられたのは、取りあえず座ってから話を聞こうという穏やかな声だった。
家、と言ったけど案内されたのは住居兼店舗のアルフレッドの家の二十倍はあろうかという建物。
ソフィアの家は王都の中心地にある大商会だった。
「ソフィア、こんなすごい家の娘だったんだな」
「黙っててごめんね、言う機会が見つからなくて」
行商に来ているときに言わないのは当然だ、こんな家の娘だと知られて危険があってもいけないだろうから。
「そうそう言えることじゃないよ」
階段を上がり通された応接室ですらアルフレッドの家よりも大きい。
ソフィアを通してこの商会とのつながりを持ちたいという人間も多いだろう。
ますます行商をしているのが不思議だ。
これだけの大商会なら後を継いでほしいという声もあったんじゃないのかと思う。
実家や妹を支えるために見分を深めているならわかる。
ソフィアからはいずれ自分の店を持ちたいとかは聞いたことが無かった。
もしかしたらゆくゆくは家に帰ることを考えていたからなのかもしれない。
ソファに並んで座り待っていると扉が豪快に開かれた。
「お姉様! お帰りなさい!!」
駆け込んできたのはソフィアよりも薄い紺灰色の髪をした女の子。
ぱっちりとした目はソフィアと同じ明るい青色をしている。
ソフィアの妹はソフィアに抱きついて再会の喜びを表した後、アルフレッドに視線を移した。
「そちらの方は? お姉様の恋人?」
好奇心を隠さない瞳でアルフレッドとソフィアを交互に見る様子にソフィアが苦笑を零す。
「違うわよ、お客様相手に失礼なこと言わないで。
アルフレッド、妹のシンシアよ。
シンシア、こちらは私が良くしてもらってる細工師のアルフレッド。
私が知る細工師の誰よりも美しい装飾品を作るのが得意なの」
シンシアの目が商人らしく光る。
「まあ、そうなの! お姉様がそうまでおっしゃるなら余程の腕をお持ちなのね!」
ソフィアがそこまで自分を評価していてくれたことに胸を打たれた。
アルフレッドの腕を高く買ってくれてるのは知っていたけれど……。
自分の知る誰よりも、とは過分な褒め言葉だ。
嬉しさと申し訳なさが同時に襲ってくる。
「ぜひ作品を見せていただきたいわ」
シンシアがそう言って身を乗り出すのを『後にしなさい』と窘めるソフィア。
普段とは違う態度に思わず笑みを零す。
いつもはソフィアも新しい商品や変わった街などを見て、同じように目を輝かせているのに。
そんなアルフレッドが何を考えていたのかわかったのか、ソフィアが少し頬を染めて気まずそうに視線を逸らした。
「じゃあお父様とお母様が来るまで二人のなれそめを聞かせてください!」
座るように促されて斜向かいに腰を下ろしたシンシアがアルフレッドとソフィアを見つめる。
「なれそめって……、別に恋人ではないと言ったでしょう?」
「そうじゃなくてー、どこで出会ったのです?」
溜息を吐きながら答えるソフィアに言葉を変えながら聞くシンシア。
結局、ソフィアとの出会いからどのくらいの頻度で会っているかなどを聞き出された。
まだ何か勘違いされているような気がする。
話していると応接室の扉が今度はノックされてから開かれる。
「ソフィア、お帰り」
「お帰りなさい! 元気にしていた?」
灰色の髪をした落ち着いた雰囲気の男性と藍色の髪をした可愛らしい雰囲気の女性が入って来た。
ソフィアの父親と母親だろう。
父親は灰色の髪と澄んだ青色の瞳、母親は濃い藍色の髪と同じ色の藍色の瞳をしている。
ソフィアとシンシアは両親の特徴を綺麗に受け継いでいた。
少しだけ羨ましく感じる。
アルフレッドは母親と同じ色彩しか受け継がず、父親に似たところがない。
デリクは色こそ母親から受け継いだが、顔や体型は父親似だ。
「ただいま。 お父様もお母様も変わりないみたいね」
帰参の言葉を口にして家に帰ってきた実感が湧いたのか、表情が緩んだ。
「ところでそちらの方は?」
ソフィアの父親がアルフレッドの方を向く。
「下で従業員たちが大騒ぎしていたわよ、ソフィアが彼氏を連れて来たって」
その横でソフィアの母親もにこにことしながらあらぬ誤解を口にする。
「まったく……。 みんな話題に飢えてるの?
ここなら娯楽に事欠かないでしょうに」
呆れた様子でソフィアが騒ぎ過ぎだと首を振る。
「アルフレッド、紹介するわね。
父のヘンリー・ウォルトン、横が母のリディア・ウォルトン。
あそこに控えているのが執事のグレンよ」
いつの間にか部屋の隅に一人の男性が控えていた。
視線を向けるとグレンと呼ばれた初老の男性が恭しく一礼する。
広々とした部屋とそこに居並ぶ人たちを見、改めて桁違いの大商会の娘なんだと理解した。
「それでこちらが……」
紹介しようとしたソフィアを止めて背筋を伸ばす。
「アルフレッド・アトリーと申します。
ソフィアとは私が作っているアクセサリーを通じて知り合いました」
一度言葉を切り二人と目を合わせる。
「申し訳ございません!!
私の家族がしたことによりソフィアに多大な迷惑をおかけしました!」
許してくれとは言えない。
今まで良くしてくれたソフィアにデリクがした仕打ちは、恩を仇にして返すものだった。
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