双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
88 / 368
セレスタ 帰還編

災い転じて 3

しおりを挟む
 自分の発言の拙さに俯く。
 恥ずかしさに小さくなっているとマリナ様がおかしそうに笑う。
「シャルロッテ様は素直な方ですね」
 笑われてかっとなる。
「どうせあなたに比べたら社会経験もなく未熟な身ですわ!」
 言った直後に後悔が襲ってくる。
 何でこんなことを言ってしまうのでしょう。
 マリナ様が私より優れているのは当然なのに。
 目をぱちくりとさせマリナ様が私を見つめる。
「私もシャルロッテ様もそう変わらないと思いますけれど?」
「気休めはよしてください」
 すぐに感情的になってしまうシャルロッテと冷静に周りを見られるマリナ様とは大違いだ。
「すぐ感情的になる、ですか。 私も同じようなものですよ」
 シャルロッテを落ち着かせるためかそんなことを言ってくれる。
「そんなはずありませんでしょう、私の知る限りマリナ様はいつも冷静でしたわ」
 直接話をさせていただいたのはこの前が初めてでしたけれど。
「そうだったら良いんですけどね…」
 苦笑するマリナ様は先程よりくだけた口調で答える。
「この前シャルロッテ様に会った日はヴォルフと喧嘩してたんですよ。
 喧嘩というか私が一方的に怒ってたんですけどね」
 流れた噂の件で言い合いになったと言う。
 ヴォルフ様相手に言い合い。とても想像がつかない。
「私とヴォルフは育った環境も立場も違いますから。 シャルロッテ様たちのように貴族らしい教育を受けたわけでもありませんので、お互いの望みと立場をすり合わせるのは難しいですよ。
 歳も離れてますし」
 意外な暴露にまじまじとマリナ様を見つめる。
 マリナ様でもそんな風に思うことがあるなんて…。
 ふと疑問が胸に浮かんで思わず口を突く。
「失礼を承知でお聞きしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
 間を置かず答えてくれる。
 マリナ様はとても大らかな人だと思う。
 こんな、個人的な質問を許してくれる優しさに甘えて気になったことを口にした。
「マリナ様は私たちのような人間を羨ましく思ったことがありますか?」
 とても失礼な質問にも関わらず、マリナ様はあっさりと答えを口に乗せる。
「ありますよ」
 自分で聞いておいて驚いた。
「あ、ありますの?」
「一度もないといったら嘘になりますからね」
 事も無げに言う。
 自信に満ちて自分に疑問を抱いているようには見えないマリナ様が…!?
「そうですねえ、小さい頃はこちらを見て自分の父親は誰々だ、自分はこれを持っていると自慢げに言ってくる方を見て妬ましく思ったこともありますよ。
 庇護されていることを当然と信じて他人の価値を貶める方々を恨めしく思っていました」
 自分の持っていない物を見せつけてくる人間に羨望を抱いたことがある。
 直接聞いてもまだ信じられなかった。
「…」
 自己嫌悪が激しくシャルロッテを襲う。
 マリナ様も自分と同じように他者を羨んだことがある。
 ただ、シャルロッテと違い自己を高める努力を惜しまなかっただけ。
 自分とは違うから、能力があるから、特別な人間だからと理由を付けて劣っていることを許した自分がなんて愚かなんだろう。
 後悔と恥ずかしさと悔しさと、それから何かわからない激しい感情がシャルロッテの中で渦巻く。
「…っ」
「泣かれると困るのですが…」
 マリナ様の声に自分が泣いていたのに気付く。
「申し訳ありません…」
「どうして謝るのですか」
 ますます困ったように笑うマリナ様に涙が溢れる。
 自分の弱さを今ほど厭ったことはない。
 あんな謝罪全然十分じゃなかった。
 心の伴わない謝罪に何の意味があったというのか。
「そんなことを言わないでください。 ちゃんと受け取りましたよ、私は」
「あんなの違います! 私のやったことは彼と同じ八つ当たりで、内容だって処分されないとおかしなことです」
 見当違いの八つ当たりでマリナ様を害そうとした従兄弟と同じ。
 いいえ、それよりも酷い。
 許されたことに甘んじておざなりな謝罪で自分を満足させてその意味を考えようともしなかった。
「困りましたねぇ、私はシャルロッテ様を処分なんてしたくないんですけど」
「だったらどうやって償えばいいのです!」
 悲鳴のような声で叫ぶ。
 罰してほしいと言うことも身勝手なことだとわかっていても抑えられなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた 公爵令嬢アイシス・フローレス。 ――しかし本人は、内心大喜びしていた。 「これで、自由な生活ができますわ!」 ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、 “冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。 ところがこの旦那様、噂とは真逆で—— 誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……? 静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、 やがて互いの心を少しずつ近づけていく。 そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。 「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、 平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。 しかしアイシスは毅然と言い放つ。 「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」 ――婚約破棄のざまぁはここからが本番。 王都から逃げる王太子、 彼を裁く新王、 そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。 契約から始まった関係は、 やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...