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セレスタ 帰還編
視察 8
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不毛な記憶の発掘を止めてヴォルフを見る。
「それで、ヴォルフの弟さんの結婚式?
ヴォルフが招待枠の調整とかしてくれるなら私の方は何も問題ないわよ」
結婚式まで時間はないけれど、改めて準備することは左程ないのでみんなの心配は杞憂だった。
それにしてもこんなに多くの人がマリナたちを心配してくれてることに照れる。
囲んでいるみんながほっとした顔をしていて、申し訳ないくらいだった。
ミヒャエルさんとかディルクさんは結婚した姉妹がいるし、他の近衛はみんな結婚しているのでやきもきしていたんだろうな、というのが想像できる。
身近に女性がいると気を回さないと大変そう。
貴族の女性は手が掛かりそうだ。普段気軽な格好をしているマリナと違って毎日ドレスだし、髪やアクセサリーも気を使っている。
シャルロッテもいつもドレスで恋人に会いに来ていた。
やっぱり青が好きみたいでよく着ている。
名前で呼ぶことを許されてから、最初に会った時のドレスは「ない」と言ったら結構な剣幕で怒られた。
だって本当のことだもの。
でも真っ向から否定したら駄目だったらしい。
シャルロッテ曰く、あの日はマリナに相対するつもりでドレスを選んだのであれでよかったとのこと。
つまり戦闘準備だったらしい。怖。
そんな真剣に向かってきてくれてたなんて、もうちょっと真面目に相手してあげればよかった。
それを言ったら絶対怒るので秘密です。
「じゃあ、出てくれるな?」
「ええ、もちろん!」
正式にヴォルフの隣にいることを認められるなら、こんなに嬉しいことはない。
「侯爵様が付いて来てくれたのは却ってよかったわね」
「…そうだな」
ヴォルフが若干不本意そうに答える。もう、いつまでも気にしてないの。
周囲からほっとした溜息が聞こえた。
話が纏まったところでディルクさんが余計なことを言い出す。
「せっかくレグルスにいるんだから、装飾品だけでもふたりで買いに行ったらどうだ?」
様子を見守ってほっとしていた人たちもディルクさんに同調した。
「そうだよな、夜会どころか結婚式に婚約者として伴うならヴォルフが選んで贈るのが普通だろ」
近衛騎士は全員一定の身分以上の貴族だ。
だからそんなマナーや常識なんてごく当たり前にこなしている。
でも、それはヴォルフには当てはまらない。
見ると王子も不安そうな顔をしている。これまで女性をエスコートする機会を避けていたヴォルフに期待するのは間違ってると思う。
「ドレスの現物もないのにヴォルフに装飾品を選べると思ってるんですか?」
ものすごく失礼な台詞だけど、事実だ。
近衛のみんなの顔を見回すと目が合うのを避けて顔を逸らす。
みんなも無理だと思ってるんじゃない。
ヴォルフ自身も無理だと思ってるのか顔を顰めているけど反論しない。そうよね。
「でも、マリナとふたりで選ぶことは出来るだろう?」
目を逸らしたくせにまだ言う。
何でそんなに装飾品を買いに行かせようとするんだか。
「まだ技師の勧誘も済んでないんですから、後の予定なんて気が早すぎますよ」
工房に行くのは明日。
特別反権力を掲げる人物とは聞いていないけれど、安心するのは早すぎる。
まずは見学させてもらって、話はそれからだった。
「それで、ヴォルフの弟さんの結婚式?
ヴォルフが招待枠の調整とかしてくれるなら私の方は何も問題ないわよ」
結婚式まで時間はないけれど、改めて準備することは左程ないのでみんなの心配は杞憂だった。
それにしてもこんなに多くの人がマリナたちを心配してくれてることに照れる。
囲んでいるみんながほっとした顔をしていて、申し訳ないくらいだった。
ミヒャエルさんとかディルクさんは結婚した姉妹がいるし、他の近衛はみんな結婚しているのでやきもきしていたんだろうな、というのが想像できる。
身近に女性がいると気を回さないと大変そう。
貴族の女性は手が掛かりそうだ。普段気軽な格好をしているマリナと違って毎日ドレスだし、髪やアクセサリーも気を使っている。
シャルロッテもいつもドレスで恋人に会いに来ていた。
やっぱり青が好きみたいでよく着ている。
名前で呼ぶことを許されてから、最初に会った時のドレスは「ない」と言ったら結構な剣幕で怒られた。
だって本当のことだもの。
でも真っ向から否定したら駄目だったらしい。
シャルロッテ曰く、あの日はマリナに相対するつもりでドレスを選んだのであれでよかったとのこと。
つまり戦闘準備だったらしい。怖。
そんな真剣に向かってきてくれてたなんて、もうちょっと真面目に相手してあげればよかった。
それを言ったら絶対怒るので秘密です。
「じゃあ、出てくれるな?」
「ええ、もちろん!」
正式にヴォルフの隣にいることを認められるなら、こんなに嬉しいことはない。
「侯爵様が付いて来てくれたのは却ってよかったわね」
「…そうだな」
ヴォルフが若干不本意そうに答える。もう、いつまでも気にしてないの。
周囲からほっとした溜息が聞こえた。
話が纏まったところでディルクさんが余計なことを言い出す。
「せっかくレグルスにいるんだから、装飾品だけでもふたりで買いに行ったらどうだ?」
様子を見守ってほっとしていた人たちもディルクさんに同調した。
「そうだよな、夜会どころか結婚式に婚約者として伴うならヴォルフが選んで贈るのが普通だろ」
近衛騎士は全員一定の身分以上の貴族だ。
だからそんなマナーや常識なんてごく当たり前にこなしている。
でも、それはヴォルフには当てはまらない。
見ると王子も不安そうな顔をしている。これまで女性をエスコートする機会を避けていたヴォルフに期待するのは間違ってると思う。
「ドレスの現物もないのにヴォルフに装飾品を選べると思ってるんですか?」
ものすごく失礼な台詞だけど、事実だ。
近衛のみんなの顔を見回すと目が合うのを避けて顔を逸らす。
みんなも無理だと思ってるんじゃない。
ヴォルフ自身も無理だと思ってるのか顔を顰めているけど反論しない。そうよね。
「でも、マリナとふたりで選ぶことは出来るだろう?」
目を逸らしたくせにまだ言う。
何でそんなに装飾品を買いに行かせようとするんだか。
「まだ技師の勧誘も済んでないんですから、後の予定なんて気が早すぎますよ」
工房に行くのは明日。
特別反権力を掲げる人物とは聞いていないけれど、安心するのは早すぎる。
まずは見学させてもらって、話はそれからだった。
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