双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

お膳立て

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「お二人のお話しを邪魔して申し訳ありません」
 そう言った男性はまず私に挨拶をしてマリナに視線を向けた。
「いいえ、丁度話は終わったところですから」
 マリナが答えながらちらりと私に向かって視線を送る。
 立ち去れという心の声に従ってその場を離れることにした。
「残念だが私はこれで失礼する。 まだ言葉を交わさなければならぬ者がいるので」
「そうですか、またのご機会をお待ちしております」
 全く残念そうでなく男が言う。マリナの読み通り、狙いは彼女のようだ。
 私の出番はないので離れたところから見守ることにした。
 マリナならどうとでも切り抜けるだろう。
 幼い頃から一人で王宮を切り抜けてきた手腕は並大抵ではないのだから。



 王子を見送って、マリナはやって来た男性に向き直る。
 暗い赤茶色の髪と瞳をした男性は華やかに笑ってマリナに声を掛けた。
 不審を抱かせないように浮かべた笑みの奥には強い光がある。どうやら男性はかなりの自信家らしい。
 相手を侮っているのに等しい傲慢な自信に満ちた瞳でマリナを見下ろしている。
「それにしても今宵のあなたは格別にお美しい…。
 天上に咲くという幻の薔薇もかくやという艶やかさですね。
 こうして言葉を交わせて光栄です」
「ありがとうございます。 私もローデン伯爵のご子息とお話しできて光栄です」
 寒々しいお世辞を適当に流す。
 今日のマリナは花びらを重ねたような赤色のドレスを纏っている。
 そのため男性のお世辞も薔薇を使ったものになったのだろう。
 毎度のことながら彼らのその連想力と語彙力には感心する。
 ある程度決まった表現があるとはいえ、それだけでは貴婦人たちは満足しない。
 あらゆる事象に絡めて褒めそやさなければ非常識とされる貴族たちの中で、ヴォルフは異端だ。
 まあヴォルフは騎士でもあるから許されている部分もあるけど。あんまり夜会に参加しないしね。
 男性が給仕を呼び止めて飲み物を取る。
 マリナに向かって差し出したのは薄黄色をしたグラス。
 微かに泡立つ飲み物は酒に見えた。
 礼を言ってグラスを口にする。
 男性はマリナが液体を飲み下すのを確認して口を開いた。
「これほど美しいあなたをお一人にしているなんて罪な方ですね、あなたのパートナーは。
 魅力的なあなたに寄ってくる男たちを警戒していないのでしょうか」
 自分もその一人だと視線で語る。
 色気を含んだ目線には気付かない振りで微笑む。
「私に近づく方を警戒するよりも、自分を囲むご令嬢を退屈させない方が大切なお仕事ですから」
 実際令嬢たちは自分の話を聞いてもらうことに集中していて、ヴォルフのすることは特にない。
 あえて言うなら彼女たちを威圧しないことだろうか。
「それにしてもこの舞踏会が始まってから一度もあなたのことを見ないなど、私には考えられません」
 沈黙すると男性が気遣うような表情で顔を近づけてきた。
「あなたが何度も彼を見つめているのに彼はそれにも気づかないのですね」
 同情的な声音に合わせてヴォルフを見つめる。令嬢たちに囲まれ表情こそ変わらないものの辟易しているのが見てわかる。
 グラスの中身を更に口に含むと、ぴりっとした刺激を感じた。
 マリナの視線を強がりと捉えたのか男性がテラスへ誘う。
 手を差し出されて逡巡する。他人に触れるのは好きじゃない。
 良く知らない相手ならなおさらに。
 エスコートする際のマナーなのでしかたないと言い聞かせて男性の腕に手を添える。
 迷ったその間を、恋人を置いていく後ろめたさと都合の言い様に解釈した男性についていく。
 多少面倒でもより良い結果を生むため。
 自分たちのためにお膳立てしてくれた主の好意を無駄にしてはいけないだろう。
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