双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

誕生日の贈り物 3

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 食事を終えて飲みながら寛ぐ。
 今日は怪しいお酒はない。
 あれを呑んだ翌日、起きた途端叫びそうになった。
 恥ずかしすぎる醜態に夢だったらよかったとどんなに思ったか。
 しかし記憶にははっきりと残っていて、紛れもない現実だと自分で理解していた。
 酩酊状態が楽しいとも思わなかったし、お酒は味を楽しむくらいで十分だと思う。
 ヴォルフのグラスに注がれたお酒を一口だけ貰う。
 舐めるように味わったお酒は、マリナが飲んでいる物よりアルコールが強く、少量で口内が熱くなった。
「苦……」
 正確に言うと苦いというか辛いと言うか、アルコールの刺激が強くて味がよくわからない。
 舌がぴりぴりするので水を飲むと少しだけ落ち着いた。
「そうだ、これ見て」
 夜更かしして作っていた魔道具をテーブルに出す。
 からん、と小さな音を立てたのは角柱の形をした魔道具だった。
 長さはマリナの指とほぼ同じで幅は指より少し太い。
 角柱のふちは金属で覆われ、上部に付けられた金具はチェーンに繋がっていた。
 角柱そのものは半透明でうっすらと反対側が見える。
「これは……。 魔道具だろうが何に使うんだ?」
 中心に入っている石を見てヴォルフが魔道具だと気づく。
 中に入っているのは魔石だが、通常採れる魔石と違い透明がかっている。
 俗に魔晶石とも魔宝石とも呼ばれるが、マリナたち魔術師はどちらも魔石としか呼ばない。
 純度の高い魔石の中でもごく一部がこうして透き通った物になる。
 稀少価値も高く、手にしたがる好事家は多い。
 魔石の一種なので勝手に取引をすれば当然裁かれる。
 そのため巷に出回るのは少ない採取量よりさらに少ない。
 基本的には王宮や採取した鉱山を管理している貴族ぐらいしかお目に掛かれない物だった。
 王宮勤めで魔道具も作る魔術師だからこそ手に入れられる品だ。
 研究用にいくつも魔石を持っているマリナでもこのタイプの魔石は数個しか持っていない。
 とっておきの魔道具を作る時に使おうと思って取っていた。
 そしてこれはその魔石を使ったとびっきりの魔道具だ。
「これは通信機よ」
「通信機?」
「日本で使っていた携帯電話みたいに、離れても連絡が取れる物があったら便利だと思って、ずっと作れないか考えていたのよ」
「なるほど、確かにあれはすごかったな」
 最初見た時は何もない空間に一人で話しかけているように見えてわけがわからなかったと笑う。
 ヴォルフの言う通り、こちらの世界では離れた人間と話をする技術は無い。
「それで出来たのがこれ。
 携帯みたいに話は出来ないんだけどね」
「じゃあ何が出来るんだ?」
 会話が出来ないと聞いてヴォルフが不思議そうな顔をする。
「まずは見てて」
 テーブルに置いた物と対になる魔道具を握り魔力を一瞬だけ流す。
 突如光り出した魔道具を興味深そうに見つめるヴォルフ。
 魔道具にある反応が現れると、驚きに声を上げた。
「これはっ、……すごいな」
 感嘆の言葉を呟きながら魔道具を見つめ続ける。
 透明だった石の表面には文字が浮かび上がり、短い文章を作っていた。
 時間にして6、7秒くらいだろうか、文章が消えるとそのまま光も収束する。
 光が消えた後もヴォルフは目を奪われていた。
「言葉を送る魔道具、か」
 感嘆の溜息と共に零れた言葉に頷く。
「そう、思ったことを相手に伝えることが出来るの」
 最初に考えた問題、魔術を使えない人に伝えるためにどうしたらいいか。
 それを解消するために考えたのが、人ではなく魔道具に文章を送るという方法。
 これなら人は浮かんだ文字を読むだけでいいため、魔術が使える必要はない。
「頻繁に使える物じゃないけど、役に立ちそうでしょう?」
 この前のレグルスみたいに離れて行動するときにはとても便利だと思う。
「頻繁に使えないというのはどういう意味だ?」
 欠点を上げるマリナにヴォルフの質問が飛ぶ。
「正確に言うとこの王宮内では頻繁に使えないってこと。
 王宮内には不審な魔力を感知する魔道具があるから、不用意に使うと引っかかっちゃう」
 不審な魔力を感知したと、真面目に警備している騎士たちを脅かしてしまうことになる。
「後はヴォルフからは送れないってこととかが欠点といえば欠点かしらね」
 仕様です、と言ってしまえばそれまでだけど、魔術が使えない人からはメッセージを送ることができない。
「まあ、それは仕方ないな」
 ヴォルフはあっさり納得する。
「お前が持っている方とこっちの魔道具は機能自体は同じなのか?」
「一応そうよ」
 付いている鎖が違うだけで魔道具は同じ物だ。
「なら、仮に魔術師がいればこちらからもメッセージを送ることが可能なんだな」
「そうね」
 誰でもとは言わないけど王宮魔術師なら可能だろう。
 一つの魔石を割って作った対の魔道具なので、別の石を使った物より相手の場所を補足しやすいはず。
 対の魔道具にメッセージが送れるということがわかれば、失敗して壊すこともないと思う。
「効果範囲は王宮内なら余裕で送れて、王都の端っこまで行くと人によっては上手く送れないと思う。
 試してないけどね」
 王都から王宮に向かって送ったら間違いなく警戒対象になるので試したりはしない。
 やったら怒られるのが目に見えている。
「お前なら?」
「王都内なら問題ないけど、隣町までとかは流石に無理ね」
 そんな遠くまでは魔力が飛ばない。
 個人の魔力に頼る以上、それほど使える範囲は広くならないだろう。
 携帯のように誰でも使える便利な道具ではないが、マリナは魔道具の出来に満足していた。
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