双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
214 / 368
セレスタ 波乱の婚約式編

誕生日の贈り物 4

しおりを挟む
 通信機を興味深そうに見ていたヴォルフがマリナに顔を向けて厳しい顔を作る。
「で、これを作るために夜更かしをしていたんだな」
 いきなり話が変わって言い訳する台詞が浮かばない。
「えっと……、ごめんなさい」
 ちょっと考えて素直に謝ることにした。
 心配しているのがわかっていて夜更かしをしていたのは悪かったと思う。
「ちょっと興が乗ったというか、止められなくて」
 カチッと嵌るように理論が形になっていくおもしろさは他に代えがたい。
 考えていたことと手元の動き、そして完成した時の性能が一致したときの感動が魔道具作りの醍醐味だ。
 今回の魔道具は作ってきた中でも渾身の作品だった。
 作った期間を思うと我ながらすごいと思う。
 こつこつ作るのが苦手なのもあって集中したら手を止められない。
 途中でヴォルフに入って来られた時は焦ったけれど、作業していたのが奥の部屋だったので見られずに済んで良かった。
 殊勝に言葉を待っているとぽふっと頭に手が乗せられる。
「ありがとな」
 優しく撫でられて口元が緩む。
「良かった、喜んでもらえて」
 夜更かしした甲斐があった。もうしないけど。
 眠るまで見張られるのは落ち着かなかった。
「どこに入れて持ち歩くかな」
 通信機は小さい魔道具なのでそれほど場所を選ばない。
 鎖が付いているので首にかけてもいいけれど、指輪もあるので邪魔になりそう。
 丁度騎士服を着ていたので胸元の合わせに手を伸ばす。
 寛げてあった襟の隙間に指を掛けボタンを外していく。
 上部から何個目かのボタンを外すと丁度心臓の上くらいに隠しがある。
 マリナとしてはここが一番取り出しやすいと思う。
「取り出して見ることを考えたらこことか」
 騎士服の内側にある隠しに指を掛けて考えを述べる。
「後は普通にズボンのポケットでもいいと思うけど、チェーンが目立つからおすすめはしないかな」
 チェーンには留め具があり、衣服に留められるようになっている。
 通信機が落ちないように留めておけば気兼ねなく走れると思う。
 隠しは結構深いから落ちないかもしれないけど、万が一があったら困る。
「……?」
 返事がないので顔を上げると眉間に皺を寄せたヴォルフと目が合う。
 なんでそんな顔をしているのかわからなくて一瞬首を傾げ、はっと気づく。
 これは身を乗り出してヴォルフの服の合わせを(勝手に)開き内側に指を指し込んでいる状態、と。
 襟を掴んでいた左手をぱっと離す。
 マリナの顔が赤くなっていくと同時にヴォルフの顔が険しくなっていく。
「ゴメン!! わざとじゃないの!」
 意識してたら絶対できない。無意識だからやってしまったことに酷く慌てる。
「…………。 その方がたちが悪いだろ……」
 ヴォルフが何か呟いたけど小さすぎて聞こえない。
 あわあわしてるとヴォルフの手がマリナの手を掴む。
 引っ張られて抱き止められる。
「……!」
 どうやって怒りを鎮めようか焦っていると耳元で低い声が聞こえた。
「あの酒に続いて二度目だ」
 思い出したくない恥ずかしすぎる記憶を出されて身悶えする。
(あれは悪かったと思ってるけど! 仕方ないじゃない?!)
 ヴォルフの忍耐を試すようなことになるとは思わなかったし。
 結果、ヴォルフはとても忍耐強かった。
 額に優しいキスをくれただけでそれ以上のことは何もしなかった。
 ……けれど、何も感じなかったわけではなく根に持っていたらしい。
「覚えてろよ、今度お前が素面の時にやり返すからな」
「えっ!?」
 とんでもないことを言われた。
 顔を引きつらせるマリナを見てヴォルフが口元を吊り上げる。
「楽しみだな」
 言葉の通り楽しそうに笑うのを見て、マリナはかつてない危機感を募らせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた 公爵令嬢アイシス・フローレス。 ――しかし本人は、内心大喜びしていた。 「これで、自由な生活ができますわ!」 ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、 “冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。 ところがこの旦那様、噂とは真逆で—— 誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……? 静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、 やがて互いの心を少しずつ近づけていく。 そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。 「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、 平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。 しかしアイシスは毅然と言い放つ。 「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」 ――婚約破棄のざまぁはここからが本番。 王都から逃げる王太子、 彼を裁く新王、 そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。 契約から始まった関係は、 やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...