双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 故郷編

旅の途中で 3

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「まったく。 付いてきてよかったわ。
 これに懲りたら一人で大丈夫なんて言うんじゃないわよ?」
 女性が女の子に注意をする。
 厳しい口調なのはそれだけ友人を心配しているんだろう。
 マリナの目から見ても女の子の方は危なっかしく見える。
「でもアンネ、いつも一緒に来てもらうのは悪いわ。
 あの人だって仕事があるんだしそんなに心配しなくても……」
「甘いわよ、アンネ!
 今日会ったのだって偶然とは限らないのよ?
 ついて来られるのが気になるなら買い物は他の人に任せて家にいなさいよ」
 心の中で首を傾げながら二人の横を歩く。
 ヴォルフはマリナの隣で黙っている。
 黙って二人を見つめていると視線に気づいた女性が慌てて謝罪をした。
「すみません、見苦しいところを見せてしまって!」
「仲がよろしいんですね」
「アンネとは子供の頃から一緒なので。
 あ、すみません。 私はアンネリーと言います。 この子はアンネ」
 茶色の髪をまとめた女性の方がアンネリー。
 青い瞳の女の子がアンネ。
 とてもよく似た名前だ。アンネリーだからアンネと呼ばれていたのかと納得する。
「紛らわしいので親たちからはネリーって呼ばれてます」
 アンネはアンネのままでアンネリーはネリーと呼ばれているらしい。
 彼女をネリーではなくアンネと呼ぶのはアンネだけだとか。
 うん、紛らわしい。
「そうなんですか、私はマリナと言います。 こっちはヴォルフ」
 名前を教えてもらったのでこちらも礼儀として答える。
「マリナさんもヴォルフさんもありがとうございます。
 あの人かなりしつこかったから私では引いてくれなかったもの」
「そうみたいですね」
 声を荒げるくらいなら感情が高ぶったらあるだろうけれど、女性に拳を振り上げるのはいただけない。
「ヴォルフさんみたいな体格の良い男性がたまたま通りかかってよかったです。
 敵わないって思ったから引いてくれたんです、きっと」
 男性の表情を見た限りではそうだろうなとマリナも思う。
「しつこい男性に想われるのは大変ですね。
 余計なお世話だと思いますが、度が過ぎるようならご両親から相手のご両親か雇い主に注意をしてもらった方が良いと思いますよ」
 恋の炎を燃やしているようだし、あの状態が黙っていて冷めることはない。
「でも、あまり大事にしたくないんです」
 アンネさんに視線を向けると小さな声で彼を悪者にしたくないと答える。
「気持ちはわかるがそれが一番穏便に済む方法だ。
 信頼する年長者から諭されれば落ち着くこともある。
 不毛な思いなら引導を渡してやる方が相手の為だ」
 ヴォルフがアンネさんを諭す。
 相手がか弱そうな少女なので普段よりも穏やかな口調を心掛けて話しているのが妙におかしい。
 口元が緩みそうになるのを抑えているとアンネリーさんもヴォルフに同調の声を上げる。
「そうよ、アンネ。
 ああいうヤツにははっきりと言ってやらなきゃ駄目なんだから」
「でも……」
 か細く呟いて俯くアンネさんはためらう気持ちの方が大きいみたいだった。
「それが嫌ならアンネさんから気持ちには答えられないと伝えた方がいいと思います」
 驚いたアンネさんが足を止めてマリナを見つめる。
 彼女は青い瞳を驚愕に見開いてどうして?と訴えていた。
「想いに応えることが出来ないのに答えもあげずに曖昧な態度を取り続けるのは、誠実とは言えないのでは?」
 責めるつもりはなかったのだけれどアンネさんは瞳を潤ませる。
 余計なことを言ってしまったと後悔がちらりとよぎるが、出した言葉は消せないので全部言ってしまうことにした。
「傷つけたくない、と思っているのかもしれませんが、それは無理です」
 好きな相手に応えてもらえないのは苦しいし悲しい。
 けれど、それはどうしようもないことだ。
 応えられないのも辛いかもしれないが、それも仕方ないことだし。
 曖昧な態度で諦めさせてもくれないのも残酷だと思う。
 苦しくても諦めないことを彼が選んでいるのならまた別だけど。
 潤んだ涙を零さないように耐えているアンネさんに罪悪感が湧く。
 本当に、余計なことを言った。
 表情は変えないまま内心で反省していると、アンネさんがぎこちなく微笑んだ。
「ありがとうございます」
「え……?」
 意外な返答に目を瞬く。
「本当はわかってたんです。
 応えることはできないって。 だからちゃんと断らなければって。
 でも、勇気が出なくて……!」
 零れそうになる涙を指で拭ってアンネさんがはっきりと口にする。
「私、ちゃんと言います。
 好きな人がいるからって。 だって、私が同じことされたら嫌だもの」
 自分の思いを口にして、アンネさんはマリナに微笑んでみせた。
 きれいな微笑みに一瞬見惚れ、マリナも笑みを返す。
「失礼、要らぬ世話でしたね。
 アンネさんは私が余計なことを言わなくても、きっとご自分で答えを出せましたから」
 軽く謝罪をするとアンネさんが首を振る。
「いいえ、ありがとうご……」
 重ねてお礼を言おうとしたアンネさんの言葉がアンネリーさんに遮られた。
「ちょっと待って、アンネ!
 好きな人って誰?! 聞いてないわよ!?」
「言ってないもの」
 恥ずかしそうに頬を染めたアンネさんがそっと視線を逸らす。
「誰なの?! 私の知ってる人?!」
「言わない!!」
 友人の追及にそっぽを向いて早足で歩き出すアンネさんと追いかけるアンネリーさん。
 ヴォルフと目を合わせふっと笑いあう。
 言い合いながらも楽しそうなふたりにおせっかいをしたと重くなっていた心が軽くなっていった。
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