双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 故郷編

旅の途中で 6

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「みっともないですね、たかが酒が零れたくらいで」
「ああん?」
 咎める声に男が首をぐるりと回してマリナを向く。
 酒で濁った眼に映ったのが年若い女だったからか男の顔が油断と嘲りに歪む。
「関係ない奴はすっこんでな。
 それとも嬢ちゃんも混ざりたいのか?」
「ちっとガキくさいが、別嬪さんは大歓迎だぜ」
 それまで笑って見ているだけだった者も同調してきた。
 ぐいっと酒を呷って赤ら顔の男を煽る。
「隣に座ってもらえよ! こんな美人が隣にいたら酒が上手くなるぜ」
「いいねえ、濡れたところを拭いてくれるサービスもしてくれんのか?」
 酒の零れた腿を叩いて男が笑う。下品な冗談に男の仲間たちも声を上げて笑った。
「馬鹿話はそこまでにしてその方から手を離しなさい」
 穏便にどかせる方法が思いつかないので腕を組んで命令する。
 マリナの注意・・は彼らの笑いを誘うだけで伝わらなかったようだ。
「そんな怖い顔してないでこっちに来いよ」
 赤ら顔の男が女性の手を離し、立ち上がる。
 ようやく腕が離され、女性が立ち上がって男から距離を取った。
 とはいえ部外者のように逃げるわけにもいかないようで、数歩ばかり離れた場所でマリナたちの動静を見守っている。
 一応手の届かない場所にいてくれるので一安心だ。
 注意を引かせないよう女性に視線は向けず、男に視線を据えたまま位置を確認する。
 冷ややかな目で見据えるとどう勘違いしたのか男はだらしなく顔を緩ませた。
「いいねえ、そんな情熱的な目で見つめられると堪らねえ」
 馬鹿が。吐き捨てたくなるのを抑えて忠告をする。
「楽しく飲んでいらっしゃったようですが、少しお酒が過ぎるのではありませんか?
 あまり往来で騒ぐものではありませんよ」
 通りを歩く人もちらりと視線を向けて通り過ぎていく。
 大事だとなれば騎士団に通報されるかもしれないのだ。
 適当なところで落ち着いて帰った方が彼らの為だと思う。
 一人でも冷静になって帰ろうと言ってくれればと思ったけど、願い空しく男たちは酒に濁った眼でマリナを見ている。
 頭の芯まで酒に満たされて判断が付かなくなっているみたいだ。
「ごちゃごちゃ言ってないでこっちに来な!」
 赤ら顔の男が酒精の混じった息を吹きかけてくる。
 伸ばされた手を反射的に叩き落としていた。
「触らないでください」
 叩かれた男は酒で染まっていた顔を怒りで赤く染めた。
「優しくしてやってりゃ……。 調子に乗るんじゃねえぞ!」
 男から怒声が飛ぶ。
 酒に酔って制御できなくなっていた思考は怒りで満たされ一瞬で爆発したようだ。
 迫りくる手の平を見ながら冷静に観察する。
 穏便にとか考えたのが間違いだった。
 胸倉をつかもうとした手を避け、たたらを踏んだところで男の足を引っ掛ける。
 地に伏した男は手も出せずに顔を打ち付け痛みに呻く。
「手前!」
 男の仲間たちが一斉に立ち上がった。
 手前にいた男が殴りかかってくる。
 酒と仲間をやられた怒りで拳に躊躇いがない。
 殴られて顔を腫らしたりするわけにいかないので避ける。
 反撃をする前に奥にいた男が掴みかかってきたので懐に潜り込んで魔力弾を放つ。
「ぐはっ!」
 衝撃で男の身体が浮き上がる。
 端から見ていた人には男を投げ飛ばしたように見えるかもしれない。
 視界の端に口元を押さえて絶句するアンネリーさんが映った。
 次いで襲い掛かってきた男の襟首を掴み地面に叩きつけると、背中を踏みつけ動きを封じる。
 魔力で押さえつけているので動けはしないだろう。
「ふざけんな、このガキが!!」
 立ち上がっていた赤ら顔の男が叫び、手近にあった椅子を振り上げる。
 男が凶器を手にしたことに女性から悲鳴が飛ぶ。
 寸でのところで振り下ろされた攻撃を避け、椅子を掴む手に蹴りを入れる。
 痛みに椅子を取り落としかけた隙を見逃さず、同じ手に手刀を叩き込む。
 完全に椅子から手が離れ開いた胴体に拳を突き入れ、悟られないように魔力弾を当てる。
 うめき声も上げずに倒れた男を睥睨して顔を上げる。
 驚きで硬直しているアンネリーさんとばちっと視線が合う。
 視線を逸らされてしまうかと思ったけれど、アンネリーさんは硬直が解けたように瞬きをすると走ってこちらにやってきた。
「マリナさん、大丈夫ですか!?
 ケガは? あんな凶器を持った男たちに向かっていくなんて無謀ですよ!!」
 矢継ぎ早に言葉を繰り出すアンネリーさんにマリナの方が驚いた。
「当たってないから怪我なんてしてませんよ」
 避けられなくても魔力壁で防ぐので怪我なんてしない。
 そんなことを知らないアンネリーさんは力が抜けたように肩を落としていた。
「あんなに強いなんて思いませんでした……。
 だからアンネを助けてくれたときも自然に声を掛けてこられたんですね」
 それもある。自分では無理だと思ったら最初からヴォルフにお願いした。
「この人たち時々こうやって飲みすぎて騒ぎを起こすんです。
 今回のことはいい薬になったかもしれませんね?」
 かねてから困っていた客らしい。
 これに懲りたらいいとアンネリーさんは言うけれど……。
 酒癖って治らないらしいから期待しない方が良いんじゃないかな。
 ただ今後酒量を調整する理性を働かせる可能性はあるので、一応祈っておいた。
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