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セレスタ 故郷編
故郷 1
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「のどかな景色だな」
馬を走らせながらヴォルフがのんびりと言う。
それ以外に形容しがたいほど穏やかな景色が広がっている。
広い空と大地がどこまでも続いて見えた。遠くにある山だけが景色の変化を感じさせてくれる。
その他の違いといえば植えられている野菜の種類くらいで、緑の畑が続いているのには変わりない。
「一本道だから間違えるはずがないんだけどね。 こうも同じ景色が続くと不安になってくるわ」
マリナも一回しか通ったことのない道なのでこの道があっているかどうか自信はない。あってるはずだけど。
「まあ間違えることはないだろ」
ヴォルフの言う通りだ。地図の通りに来ているし、分かれ道だってわかりやすかった。
「そうよね」
相槌を打ちながら遠くを見渡す。
本当に景色に変化がない。どこまでも続く大地はどこまでものどかだった。
「なんかあんまり変化がないから眠くなりそう」
陽も風も穏やかであたたかい。日向ぼっこでもしたらあっという間に眠れそうだ。
「そうだな、いいところだ」
「のんびりする時間がないのが残念なところね」
当初の予定と違って遅い時間に出たので休憩の時間はあまり取れない。ぐずぐずしていたら夜になってしまう。
そんな遅い時間に村を訪ねても怪しいだけなので明るいうちに村に入りたい。
話しながらも馬を急がせる。陽が黄色くなり始めた頃、村が見えてきた。
馬の足を緩ませながら観察する。
見たら特別な感慨が浮かんでくると思っていたけれど、特別そういうこともなく。
「なんとなく懐かしいかも?」
くらいの感想しか出てこなかった。
「んー、あんな村だったんだ。 思ってたより大きいかも」
もしかしたら人が増えて村を覆う柵を広げたのかもしれないけれど、そこまで判断は付かない。
ただ見える家の形などには覚えがあり、間違いなく故郷の村だと感じた。
「あそこに見える赤茶色の屋根があるでしょう? 少し赤みの強い。
あそこが一番お世話になったおばさんの家。 今見ると結構大きい家だったのね」
もしかしたら村長の家の次くらいに大きいかもしれない。
確かあそこの家にはマリナと同じ年頃の男の子が一人と小さい女の子が一人いた。名前どころか顔も覚えてるか怪しいが家族構成は覚えていた。
男の子の方は子供たちのリーダーのような感じで、よく河原で遊んでいるのを見た。女の子はまだ小さかったからおばさんと一緒だったり近くの家の子と一緒にいることが多かった気がする。
「結構覚えていることってあるものね」
目の前に近づいてくると村の中の様子もありありと浮かんでくる。
やっぱり少し家が増えたりしているみたいだった。
ここまで来ると村の中にいる人も目に入ってくる。
知った顔はいないかと見ていると男の子と目が合う。
男の子は村を出た頃のマリナのような歳で、まじまじとこちらを見た後ぱっと身を翻して走って行ってしまった。
それほど人が訪ねてくる村でもないので警戒されてしまったんだろうか。
大人を呼びに行ってくれたのならそれはそれで好都合なのでいいけれど。
村の入り口に辿り着く頃、男の子が連れてきたのは彼とよく似た青年だった。
マリナたちは馬を下りて男の子と青年が近づいてくるのを待つ。
見たことのない人間がやってきたと教えに行った男の子は得意気に声を上げた。
「兄ちゃん! この人たち!」
指差してマリナたちを見るように兄らしき人に報告している。
手を引っ張って連れて来られた青年はヴォルフに視線を向け、次いでマリナを見て固まった。
「お前……、マリナ?」
「? そうですが、あなたは?」
同じ年頃なのでマリナを知っていてもおかしくはないけれど、マリナは彼のことを知らない。はず、だ……?
青年の横にいる男の子をもう一度見つめる。
なんか昔よく似た子を見た気がする。おばさんの家とかで。
「もしかして、ギル……?」
そう、確かそんな名前だった気がする。
よく他の子に名前を呼ばれていたから思い出せた。かろうじてだけど。
男の子を見ながら言ったせいか彼に違うよ!と怒られた。
「ギルは兄ちゃんだよ! 俺はカイ!」
膨れっ面で抗議されて男の子から視線をギルに戻す。
「ごめんなさい、ギルはこっちよね」
「いや、久しぶりだから間違えるのも当然だろ。
カイはちょうどあの頃の俺たちの年齢だからな」
突然現れたマリナに戸惑った顔をしていたギルもマリナの言葉に我に返る。
「カイもごめんなさいね。 よく似てたから」
「そうか、久しぶりに会うみたいだもんな! 許してやるから気にするなよ!」
やんちゃそうな顔に笑顔を浮かべて答える。なんだか笑い顔も似ていて思わず笑みが零れた。
「ふふ、本当によく似てるのね」
ギルも同じような物言いと笑顔で子供たちの中心にいたことを思い出す。
「…………」
視線に顔を上げるとギルが信じられないものを見たような目で見ていた。
「……?」
「あ、ああ、悪い」
首を傾げるとギルが凝視していたことを気まずそうに謝る。
「それで急にどうしたんだ、そっちの人は?」
ギルに聞かれてヴォルフを紹介してなかったのを思い出す。
ヴォルフは再会を確かめていたマリナたちに割って入ることはせず、一歩離れたところで見ていた。
振り返ってヴォルフを呼び、ギルとカイに紹介する。
随分背の伸びたギルでさえ見上げる身長のヴォルフに見下ろされて、ギルは若干怯んだ顔になる。カイはヴォルフの大きさに感嘆のまなざしを向けていた。
「彼はヴォルフ、私と一緒に働いているわ。
今日来たのは、父に会うためと……」
振り返ってヴォルフを視線で指す。
「彼を紹介するために来たのよ」
口にすると気恥ずかしい。
成人を迎えた娘が父親に紹介したい人がいると言って連れてくるのは大体が恋人や結婚したい人を連れてくるのがお決まりだ。
目を見開いてヴォルフとマリナを交互に見つめるギル。
意味がわからなかったらしいカイは父親に会いにきたというところだけ理解してにこにこと笑っていた。
馬を走らせながらヴォルフがのんびりと言う。
それ以外に形容しがたいほど穏やかな景色が広がっている。
広い空と大地がどこまでも続いて見えた。遠くにある山だけが景色の変化を感じさせてくれる。
その他の違いといえば植えられている野菜の種類くらいで、緑の畑が続いているのには変わりない。
「一本道だから間違えるはずがないんだけどね。 こうも同じ景色が続くと不安になってくるわ」
マリナも一回しか通ったことのない道なのでこの道があっているかどうか自信はない。あってるはずだけど。
「まあ間違えることはないだろ」
ヴォルフの言う通りだ。地図の通りに来ているし、分かれ道だってわかりやすかった。
「そうよね」
相槌を打ちながら遠くを見渡す。
本当に景色に変化がない。どこまでも続く大地はどこまでものどかだった。
「なんかあんまり変化がないから眠くなりそう」
陽も風も穏やかであたたかい。日向ぼっこでもしたらあっという間に眠れそうだ。
「そうだな、いいところだ」
「のんびりする時間がないのが残念なところね」
当初の予定と違って遅い時間に出たので休憩の時間はあまり取れない。ぐずぐずしていたら夜になってしまう。
そんな遅い時間に村を訪ねても怪しいだけなので明るいうちに村に入りたい。
話しながらも馬を急がせる。陽が黄色くなり始めた頃、村が見えてきた。
馬の足を緩ませながら観察する。
見たら特別な感慨が浮かんでくると思っていたけれど、特別そういうこともなく。
「なんとなく懐かしいかも?」
くらいの感想しか出てこなかった。
「んー、あんな村だったんだ。 思ってたより大きいかも」
もしかしたら人が増えて村を覆う柵を広げたのかもしれないけれど、そこまで判断は付かない。
ただ見える家の形などには覚えがあり、間違いなく故郷の村だと感じた。
「あそこに見える赤茶色の屋根があるでしょう? 少し赤みの強い。
あそこが一番お世話になったおばさんの家。 今見ると結構大きい家だったのね」
もしかしたら村長の家の次くらいに大きいかもしれない。
確かあそこの家にはマリナと同じ年頃の男の子が一人と小さい女の子が一人いた。名前どころか顔も覚えてるか怪しいが家族構成は覚えていた。
男の子の方は子供たちのリーダーのような感じで、よく河原で遊んでいるのを見た。女の子はまだ小さかったからおばさんと一緒だったり近くの家の子と一緒にいることが多かった気がする。
「結構覚えていることってあるものね」
目の前に近づいてくると村の中の様子もありありと浮かんでくる。
やっぱり少し家が増えたりしているみたいだった。
ここまで来ると村の中にいる人も目に入ってくる。
知った顔はいないかと見ていると男の子と目が合う。
男の子は村を出た頃のマリナのような歳で、まじまじとこちらを見た後ぱっと身を翻して走って行ってしまった。
それほど人が訪ねてくる村でもないので警戒されてしまったんだろうか。
大人を呼びに行ってくれたのならそれはそれで好都合なのでいいけれど。
村の入り口に辿り着く頃、男の子が連れてきたのは彼とよく似た青年だった。
マリナたちは馬を下りて男の子と青年が近づいてくるのを待つ。
見たことのない人間がやってきたと教えに行った男の子は得意気に声を上げた。
「兄ちゃん! この人たち!」
指差してマリナたちを見るように兄らしき人に報告している。
手を引っ張って連れて来られた青年はヴォルフに視線を向け、次いでマリナを見て固まった。
「お前……、マリナ?」
「? そうですが、あなたは?」
同じ年頃なのでマリナを知っていてもおかしくはないけれど、マリナは彼のことを知らない。はず、だ……?
青年の横にいる男の子をもう一度見つめる。
なんか昔よく似た子を見た気がする。おばさんの家とかで。
「もしかして、ギル……?」
そう、確かそんな名前だった気がする。
よく他の子に名前を呼ばれていたから思い出せた。かろうじてだけど。
男の子を見ながら言ったせいか彼に違うよ!と怒られた。
「ギルは兄ちゃんだよ! 俺はカイ!」
膨れっ面で抗議されて男の子から視線をギルに戻す。
「ごめんなさい、ギルはこっちよね」
「いや、久しぶりだから間違えるのも当然だろ。
カイはちょうどあの頃の俺たちの年齢だからな」
突然現れたマリナに戸惑った顔をしていたギルもマリナの言葉に我に返る。
「カイもごめんなさいね。 よく似てたから」
「そうか、久しぶりに会うみたいだもんな! 許してやるから気にするなよ!」
やんちゃそうな顔に笑顔を浮かべて答える。なんだか笑い顔も似ていて思わず笑みが零れた。
「ふふ、本当によく似てるのね」
ギルも同じような物言いと笑顔で子供たちの中心にいたことを思い出す。
「…………」
視線に顔を上げるとギルが信じられないものを見たような目で見ていた。
「……?」
「あ、ああ、悪い」
首を傾げるとギルが凝視していたことを気まずそうに謝る。
「それで急にどうしたんだ、そっちの人は?」
ギルに聞かれてヴォルフを紹介してなかったのを思い出す。
ヴォルフは再会を確かめていたマリナたちに割って入ることはせず、一歩離れたところで見ていた。
振り返ってヴォルフを呼び、ギルとカイに紹介する。
随分背の伸びたギルでさえ見上げる身長のヴォルフに見下ろされて、ギルは若干怯んだ顔になる。カイはヴォルフの大きさに感嘆のまなざしを向けていた。
「彼はヴォルフ、私と一緒に働いているわ。
今日来たのは、父に会うためと……」
振り返ってヴォルフを視線で指す。
「彼を紹介するために来たのよ」
口にすると気恥ずかしい。
成人を迎えた娘が父親に紹介したい人がいると言って連れてくるのは大体が恋人や結婚したい人を連れてくるのがお決まりだ。
目を見開いてヴォルフとマリナを交互に見つめるギル。
意味がわからなかったらしいカイは父親に会いにきたというところだけ理解してにこにこと笑っていた。
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