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セレスタ 故郷編
故郷 3
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入れてくれたお茶を飲みながら家の中を見回す。
懐かしい。食器やテーブルクロスのような小物こそ変わっているものの、家具などは変わっていないので昔も座った椅子の形に懐かしい気持ちが湧いてくる。
昔に比べてずいぶん小さく思えるのは、それだけマリナが成長したということなんだろう。
キッチンを背にする位置におばさんの席がある。マリナがおばさんの向かいに座り、マリナから見て左側にギルが座るところまで昔と一緒だ。
違うのはマリナの隣にヴォルフがいることと、8年前には影も形もなかったカイがいること。
「ねーちゃん、これうまいよ!」
マリナが持って来たお菓子を口いっぱいに頬張って喜ぶカイ。
口に入れたまましゃべるなとギルが注意しているのを見て笑ってしまう。子供の頃は自分も同じように注意されていたのに。
「喜んでもらえて良かったわ」
シャルロッテやミヒャエルさんたちに色々聞いて選んだので喜んでもらえてよかった。
ギルと隣に座ったカイを不思議な気持ちで見つめる。
子供のギルと成長したギルを一緒に見ている気分だ。似ているとはいってもそっくりというわけでもないんだけど。
緊張からギルたちを見ていた視線をおばさんに戻す。
若干居心地が悪いのは、先ほどのおばさんの絶叫を聞いて何事かと様子を見に来た村人たちの顔が時折窓から見えるからだ。
中にはマリナの顔を覚えている人もいるようで、目を瞠った後納得したように頷いて立ち去って行く人もいる。
狭い村ということもあってあっという間にマリナが来たことは伝わっていく。
見に来る人の数がさっきよりも増えている気がした。
「そんなに緊張することもないだろう、昔はよく来てたんだから」
少し強張っているマリナの顔に何を思ったのかおばさんがそんなことを言う。
緊張しているのは窓から視線が突き刺さっているからです、とは言えずに曖昧に笑う。
おばさんはエルザさんという名前だったらしい。エルザさんと呼び方を直そうとしたら照れ臭いからおばさんのままでいいと言われた。
「しかし本当に立派になったねえ……。
それにこんなすてきな旦那さんを見つけてくるなんて驚いたよ」
「まだ結婚してないだろ」
そんなギルの言葉は黙殺される。
「噂だけは時々聞こえてくるからね、元気なのは聞いていたよ」
うれしそうな顔で話される自分の噂話を顔が熱くなる思いで聞く。
王子の話に加えて双翼のことも噂話として人気があると聞かされて恥ずかしさにいたたまれなくなる。
「最近では王子の婚約式の話もあっただろう。
めでたい話だからすぐに噂が回ってきてね」
「ああ、そうですよね」
王族の結婚なんて頻繁にはないので各地で話題になっただろう。
王子の話題になってカイが興味を示す。
「ねーちゃん王子様ってどんな人?」
「ん? そうですね、優しい方ですよ」
王子を思い浮かべて真っ先に浮かぶのはその言葉だ。
「どんな風に?」
「立場に限らず相手をちゃんと見てくれる方かな。
どんな人でも最初から否定したりしないし、人をとても大切にしてるわ」
周りにいる者だけでなく、出会った一人一人を見てその人に向かって話かけるような人だ。
昔災害のあった村に視察に行ったときも村民一人一人の顔を見て、家族の話を聞いたり必要な物はないか声を掛けていた。
直接そんな声を掛けられて感激に涙する村人を見て、初めて王子に仕えていることを誇りに思ったんだっけ。
「ふーん?」
マリナの答えによくわからないという顔をするカイにもう少し噛み砕いて話す。
「人が好きな人なのよ」
簡単に言うとそういうことだ。微笑みながらカイの質問に答えているとおばさんもうれしそうに笑う。
「そうかい、良い方にお仕えできてるんだねえ」
「はい」
笑みを浮かべて答えるとおばさんも目を細めた。
「村を出て行ったときはまさか王子様にお仕えするようになるなんて思いもしなかったよ。
噂に聞いたときは驚いたもんだ」
「そうですよね」
マリナも師匠が王宮に使える魔術師だったから、漠然と頑張れば王宮で雇ってもらえるかもしれないとしか考えていなかった。
多分、誰も想像しなかったと思う。自分自身でさえ考えもしなかった。その頃双翼の存在なんて知らなかったし。
「お師匠さんも元気かい?」
「ええ、変わりなく元気にしてますよ」
不健康な生活をしているわりにとても元気だ。師匠が体調を崩すところなんて見たことがない。
医者が具合の悪そうな顔してちゃいけないんだろうけど。
思い出話や近況の話は尽きない。
カップの中身が二度ほど無くなった頃、そろそろお暇しますと声を掛ける。
「そろそろ父も帰っているかもしれないのでお暇しますね」
「そうかい? まだ話し足りないんだがねえ」
「母さん、マリナは親父さんに会いに来たんだから邪魔したらダメだろ」
引き止めそうな雰囲気のおばさんをギルが止めてくれる。
するとおばさんは良い事を思いついたといった顔で手を叩いた。
「そうしたらせっかくだから夕食は家に食べにおいで。
お父さんに会いにいったら一緒に家に来ればいい」
おばさんの申し出に返事を躊躇う。迷惑にならないのかな。
「ああ、親父さんも大勢の食事の用意なんてないだろうからそうすればいい」
ギルもおばさんの言葉に同意する。
「そうだよ。 うちは育ち盛りがいるからね。
食材も多めに用意してあるし、気にすることなんて何にもない」
「なら……、ありがとうございます」
遠慮が過ぎるのも失礼だと思って素直にお礼を言う。
本当に好意で言ってくれているのがわかるので固持する気にはなれなかったし、久しぶりにおばさんのご飯が食べれるのが、とても楽しみだった。
懐かしい。食器やテーブルクロスのような小物こそ変わっているものの、家具などは変わっていないので昔も座った椅子の形に懐かしい気持ちが湧いてくる。
昔に比べてずいぶん小さく思えるのは、それだけマリナが成長したということなんだろう。
キッチンを背にする位置におばさんの席がある。マリナがおばさんの向かいに座り、マリナから見て左側にギルが座るところまで昔と一緒だ。
違うのはマリナの隣にヴォルフがいることと、8年前には影も形もなかったカイがいること。
「ねーちゃん、これうまいよ!」
マリナが持って来たお菓子を口いっぱいに頬張って喜ぶカイ。
口に入れたまましゃべるなとギルが注意しているのを見て笑ってしまう。子供の頃は自分も同じように注意されていたのに。
「喜んでもらえて良かったわ」
シャルロッテやミヒャエルさんたちに色々聞いて選んだので喜んでもらえてよかった。
ギルと隣に座ったカイを不思議な気持ちで見つめる。
子供のギルと成長したギルを一緒に見ている気分だ。似ているとはいってもそっくりというわけでもないんだけど。
緊張からギルたちを見ていた視線をおばさんに戻す。
若干居心地が悪いのは、先ほどのおばさんの絶叫を聞いて何事かと様子を見に来た村人たちの顔が時折窓から見えるからだ。
中にはマリナの顔を覚えている人もいるようで、目を瞠った後納得したように頷いて立ち去って行く人もいる。
狭い村ということもあってあっという間にマリナが来たことは伝わっていく。
見に来る人の数がさっきよりも増えている気がした。
「そんなに緊張することもないだろう、昔はよく来てたんだから」
少し強張っているマリナの顔に何を思ったのかおばさんがそんなことを言う。
緊張しているのは窓から視線が突き刺さっているからです、とは言えずに曖昧に笑う。
おばさんはエルザさんという名前だったらしい。エルザさんと呼び方を直そうとしたら照れ臭いからおばさんのままでいいと言われた。
「しかし本当に立派になったねえ……。
それにこんなすてきな旦那さんを見つけてくるなんて驚いたよ」
「まだ結婚してないだろ」
そんなギルの言葉は黙殺される。
「噂だけは時々聞こえてくるからね、元気なのは聞いていたよ」
うれしそうな顔で話される自分の噂話を顔が熱くなる思いで聞く。
王子の話に加えて双翼のことも噂話として人気があると聞かされて恥ずかしさにいたたまれなくなる。
「最近では王子の婚約式の話もあっただろう。
めでたい話だからすぐに噂が回ってきてね」
「ああ、そうですよね」
王族の結婚なんて頻繁にはないので各地で話題になっただろう。
王子の話題になってカイが興味を示す。
「ねーちゃん王子様ってどんな人?」
「ん? そうですね、優しい方ですよ」
王子を思い浮かべて真っ先に浮かぶのはその言葉だ。
「どんな風に?」
「立場に限らず相手をちゃんと見てくれる方かな。
どんな人でも最初から否定したりしないし、人をとても大切にしてるわ」
周りにいる者だけでなく、出会った一人一人を見てその人に向かって話かけるような人だ。
昔災害のあった村に視察に行ったときも村民一人一人の顔を見て、家族の話を聞いたり必要な物はないか声を掛けていた。
直接そんな声を掛けられて感激に涙する村人を見て、初めて王子に仕えていることを誇りに思ったんだっけ。
「ふーん?」
マリナの答えによくわからないという顔をするカイにもう少し噛み砕いて話す。
「人が好きな人なのよ」
簡単に言うとそういうことだ。微笑みながらカイの質問に答えているとおばさんもうれしそうに笑う。
「そうかい、良い方にお仕えできてるんだねえ」
「はい」
笑みを浮かべて答えるとおばさんも目を細めた。
「村を出て行ったときはまさか王子様にお仕えするようになるなんて思いもしなかったよ。
噂に聞いたときは驚いたもんだ」
「そうですよね」
マリナも師匠が王宮に使える魔術師だったから、漠然と頑張れば王宮で雇ってもらえるかもしれないとしか考えていなかった。
多分、誰も想像しなかったと思う。自分自身でさえ考えもしなかった。その頃双翼の存在なんて知らなかったし。
「お師匠さんも元気かい?」
「ええ、変わりなく元気にしてますよ」
不健康な生活をしているわりにとても元気だ。師匠が体調を崩すところなんて見たことがない。
医者が具合の悪そうな顔してちゃいけないんだろうけど。
思い出話や近況の話は尽きない。
カップの中身が二度ほど無くなった頃、そろそろお暇しますと声を掛ける。
「そろそろ父も帰っているかもしれないのでお暇しますね」
「そうかい? まだ話し足りないんだがねえ」
「母さん、マリナは親父さんに会いに来たんだから邪魔したらダメだろ」
引き止めそうな雰囲気のおばさんをギルが止めてくれる。
するとおばさんは良い事を思いついたといった顔で手を叩いた。
「そうしたらせっかくだから夕食は家に食べにおいで。
お父さんに会いにいったら一緒に家に来ればいい」
おばさんの申し出に返事を躊躇う。迷惑にならないのかな。
「ああ、親父さんも大勢の食事の用意なんてないだろうからそうすればいい」
ギルもおばさんの言葉に同意する。
「そうだよ。 うちは育ち盛りがいるからね。
食材も多めに用意してあるし、気にすることなんて何にもない」
「なら……、ありがとうございます」
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