双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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最終章

結婚式の朝 2

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 自室の扉を潜り、着ていたローブを脱ぐ。
 本当に朝から忙しくて水も飲む時間もない。
 水を一口飲んで息を吐く。
 ようやくこの日が来た。
 高揚しているのはメルヒオールだけじゃない。セレスタに属する者全てがこの日を待ち望み、今日という日を祝っている。
 マリナも今日が待ち遠しくて仕方なかった。
 一番心待ちにしていたのは言うまでもなく王子だろう。
 掛けてあった礼服に手を伸ばす。
 何度着てもこの服を着るときには気持ちが引き締まる。
 袖を通すと自然と背筋が伸びた。
 背中の中ほどまで伸びた髪を手に取り、鏡の中の自分を見つめる。
 幼い容姿は相変わらずだけど、成人以下に見られることは少なくなった。
 ゼロではないというのが悲しいけれど、間違える人間の見る目がないのだろう。きっと。
 うん、多分。
 化粧をし髪を結って鏡をもう一度覗くと、年相応くらいに変身した自分が映っていた。
「よし、準備できた!」
 水の入ったカップを片し、扉の前に立つ。
 飾られた双翼の紋章を瞳に映し、瞑目する。
 この日を迎えられたのは支えてくれた人たちの力と、自分自身の努力の成果。
 信じてくれた人のためにも、最高の式にしたい。
 目を開け扉を開く。
 口元に浮かんだ笑みは結婚式を祝う気持ちと、とびっきりの仕掛けを楽しむ悪戯心が混ざっていた。





 様子を見に王子の部屋に入ると、落ち着きなく歩き回る部屋の主が目に入った。
「準備万端ですね」
 心の準備以外は、と胸の内で呟く。
「マリナ、戻ってきたのか」
「はい、問題なく最終確認が終わりましたので」
 お茶を入れましょうか?と聞くと頼むと答えが返ってきたので茶器を用意する。
「ああ、落ち着かない。 フェミアの方は滞りないだろうか」
 見に行きたいけれど、女官たちやレイフェミア様本人に用意ができるまでは会いに来てはいけないと言われているようで、王子は律儀に守っていた。
「王子がそんなに落ち着かない様子なのも珍しいですね」
 ヴォルフがそんなことを言う。その口元が笑っているのを見て、王子が抗議の声を上げる。
「そんなことを言ってると自分の結婚式のときに同じような醜態を見せることになるぞ」
 王子の抗議にヴォルフと目を見合わせ、視線を王子に戻す。
「気が早いですよ、まだ先の話です」
 いつにするか決まってもいないのに。お互いに王子の結婚式まではそちらを優先するつもりだったので自分たちの結婚の話はまだしていない。漠然と来年かなあ、と思っているだけだ。
 マリナの答えに王子が困ったような顔で笑う。
「君たちのことに口を出すつもりはないのだけれど、私の結婚式が終わるまで自分たちのことは後回しだと思ってただろう?」
「そうですね」
 マリナたちの考えは王子にはお見通しだったようだ。
「君たちの気持ちはうれしいけれど、自分たちのことも考えなさい。
 侯爵がしびれを切らす前にちゃんと話すんだよ」
「ありがとうございます。 ただ親父もマリナが大変なことはわかっているので、王子の結婚式が終わるまでは待つつもりのようです」
「そうだったの?」
 たまに顔を合わせるけれど全く話題にならないので不思議に思っていたら、そういうことだったとは。
 知らぬ間にヴォルフと侯爵の間で話がまとまっている。
「ああ、式が終わってもしばらく王都に滞在するつもりらしいから、その時に話すつもりなんじゃないか」
 自分の結婚が急に現実味を帯びてきた。
 とはいっても生活が変わるわけではないのだけれど。
 雑談をしていると扉が叩かれる。
 レイフェミア様の準備ができたのかと思ったらヴァルトさんが入ってきた。
「王子、少しよろしいですか」
 ちらりとマリナを見てから王子に向けて話し出す。
 その視線に首を傾げているとマールアからの使者が到着したとヴァルトさんの口から伝えられた。
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