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第10話 気付けたのだから良しとしよう
しおりを挟むしかし、なんだかんだでこの二十分も嫌いではない為馬は買わずにそのまま徒歩でもいいような気もする。
前世で自転車が好きだと言って一時間かけて自転車通勤をしていたいた友人の気持ちが今なら少しわかる。
「ただいま」
「おかえりなさい。意外と早かったのね」
「意外とって何だよ」
「いえ、彼女もそのまま手籠めにしてくるのかと」
「何度も言うがそれは無い。俺はロリコンに魂を売った覚えは無いからな」
家に帰るなり我が家の我が儘姫はご機嫌斜めのようで妬いているのかチクチクと少し棘のある声音と言葉で出迎えてくれる。
しかしながら普段は見れない彼女の妬いている姿はそれはそれでギャップもあり可愛いいものだと目に焼き付けておく。
それと同時にリーシャにすっかり惚れてしまっている自分に少し情けなく思い思わず苦笑いをしてしまう。
男のプライドであるとか、始めは拒んでいた奴隷契約も蓋を開ければ惚れている事実だとか、しかしながらそれら感情を圧倒的に押しのけて彼女と出会えて幸せであると思ってしまう自分がいることに。
「はぁ、惚れた方が負けとはよく言ったものだな」
「ええ、本当にね。まさかこの私が小娘一人にここまで感情を乱されてしまうなんて考えもしなかったですわね………どうしました?」
「いや、何でもない」
「? ……そうですか。とりあえず晩御飯にしましょうか」
そんな俺の独り言を聞きリーシャは自分の事だと勘違いしてしまった様だがそこは最早残りカス程度しか残っていない俺のプライドが自分の事を言っているのだと訂正せずにそのまま誤魔化す。
それに、口では平常心を装いながらも顔を真っ赤にして頬に両手を当てながら「私恥ずかしいです」と言ったリーシャの表情が可愛いのでそれをもっと見ておきたいという理由もある。
間違いなく彼女はそれが可愛いと分っていながらの計算されたあざとい反応であったとしても、実際可愛いのだから仕方ない。
とりあえずそんなリーシャを横目に見つつ食事の準備に取り掛かる。
と言ってもすでにリーシャは晩御飯を作ってくれているので食器を運び、この国に米は珍しい為代わりに主食であるパンを出すだけなのだが。
そしてリーシャは俺が時おり口ずさんでいた前世での流行歌の一つを鼻歌で奏でながら本日の食事をお皿によそっていくのでそれを食器とパンを並べたテーブルへと持っていく。
そんな何気ない日常こそが幸せなのだと心から、今なら言える。
前世から含めて大分遠回りしてしまってはいるのだが気付けたのだから良しとしよう。
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