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第11話 三十六計逃げるに如かず
しおりを挟むそしてテーブルに並べた本日のディナーはウサギのステーキとサラダ、そしてオニオンのスープである。
この国では割とポピュラーな献立であり、日本で言えば魚、煮物、味噌汁と言った感じである。
しかしそのポピュラー感がより一層何気ない日常、リーシャがいる日常という幸せをより一層感じてしまう。
「それじゃぁ、頂きましょうか」
この何気ない日常を噛み締めていると奥の方からエプロンを外しながらリーシャがパタパタとやって来るとテーブルへ着く。
「それじゃ、頂きます」
「はい、どうぞ」
そして本日も眩い笑顔のリーシャの返事を聴きながら食事が始まるのであった。
◇
「先生、お早う御座います」
「おう、お早うさん」
今日も今日とて学園へと徒歩にて出勤をする。
リーシャはというと授業数の多い魔法学科の教師だけあって授業の準備の為に先に学園へと出勤している。
昨日あれ程激しく乱れていたと言うのに俺より先に起きて軽い朝食を作ってくれた上で優しく起こしてくれる。
これが毎日であるのだからどこの関白宣言だと言いたくなるのだが、代わりに「出来る範囲で良いから」と言ってあげる事で一人納得していたりする。
そんな事を考えながら元気よく挨拶してくる生徒達へ適当に返事を返していく。
「………」
そんな中でも一人明らかに俺をコソコソ隠れながら尾行している小娘がいるのだがそこはあえて気付かないフリをして無視を決め込む。
どうせあの小娘の事である。
俺の正体について聞いているのではないから大丈夫とか思っていそうだし、実際聞けばそう答えるだろう事が容易に想像出来る。
しかしそれを咎める事もなんだか違う様な気がする上に、怒るという事すらめんどくさい。
であるならば三十六計逃げるに如かずであると言えよう。
むしろそれこそが答えであると言えよう。
そして俺は角を曲がった瞬間姿を消すと「あのオッさんどこに行ったんですかっ!?」という叫び声が聞こえて来た。
まったく、この俺のどこをどう見ればオッサンに見えるのか一度じっくりと小一時間ほど問いただしたいほどである。
確かに、成人が二十歳である前世と違いこの世界の成人が十五歳である事から、前世ならばまだまだクソガキ扱いされる年齢でもこの世界ではお兄さんと言える年齢であろう事は理解できる。
よってオッサンという表現は俺の見た目に関した呼称ではなく単なる悪口、坊主頭をハゲと呼ぶそれであると言えよう。
そう考えればアイツが俺の事をオッサンと呼ぶ事にもしっくり来るというものである。
「見つけた」
「嘘だろ……」
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