Perky!!

にゃんまる

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「お前たちは、金を置いてここまで来た。それでいい。十分だ。後は帰れ」

サリードスは端的にそう言った。
そう言って、椅子に腰かけたまま、両腕を組みだした。
相変わらず平然として無表情のままだ。
ビンセントはしばらく混乱していた。
目の前のこの男は一体何者だ?
なんだこいつは?
武器も持っていないようだった。
空手で、なんでこんな態度を取っていられる?
リゼットはなぜいない?
この男はリゼットの仲間か?
それとも無関係の者か?
一体どういうことだ?

「おいおい……お前、自分で何言ってんのかわかってんのか?」

ビンセントはもはや笑っていなかった。
代わりに彼はスーツの内側のポケットから拳銃を取り出した。
右手にそれを持ったまま、サリードスの眼を睨みつけた。
これ以上は限界だった。
この男が何者なのかはわからないし、その意図もわからない。
しかし、こちらも取引を潰されて帰れるわけはない。
サリードスは両腕を組んだ姿勢のまま、睨んでくるビンセントの眼を静かに眺めていた。
まるで、興味のないガラス細工を眺めているようだった。
サリードスはもう何年もこのようなシチュエーションを自ら作り出し、そして退屈を紛らわしているのだ。
しかし、もはや退屈しのぎにもなりそうにない、と彼は感じてきていた。

「おい……聞いてんのか?死ぬか?」

ビンセントはそう言うと、拳銃を持ち上げて、銃口をサリードスに向けた。
ビンセントは頭に血が上っていた。
が、しかし、彼はここまできても冷静ではあった。
まだ引き金を引く気はなく、最低限の情報だけは聞き出そうと考えていた。
この男の正体と、リゼットとの関係性である。
でないと、この状況の意味が全く不明のままだ。
この目の前にいるイカれた男が単独で取引を潰しに来ているとは思えない。
リゼットが仕組んだものなのか?
にしても、その意図がわからない。
この目の前にいる男の行動も、自殺行為だ。
何がしたいのかわからない。
何らかの企みがあって自分たちをハメたのならもっと生産性のあることをするはずだ。
目的も意図もわからないだけあって、ビンセントは目の前の男を不気味に思っていた。

「死ぬのが怖いか?」

サリードスは口を開いた。

「あ?」
「怖いか?」
「何言ってんのお前……」
「眼を見ればわかる……不安、恐怖、困惑、焦り、猜疑心……今にも泣きそうだ……まるで赤子の様に」

サリードスはそう言って、無表情のまま顔を左に傾かせた。
顔を傾かせたまま、ビンセントの眼を覗き込むように見つめている。
人間の困った眼をサリードスは何度も見てきた。
皆、恐怖や不安、焦りなどが込められていた。
それらはすべて死の予感に基づいている。
サリードスはそれを何度も観察してきた。
ビンセントの眼もその一つだった。

「マジで……意味わかんねえよお前……なんのつもりだ?リゼットの仲間か?」

ビンセントは言葉を詰まらせながらも、銃口をサリードスに向けながらそう言った。

「お前も同じだ……死ぬとき、皆赤子のようになる……そのまま金を置いて帰ることもお前にはできるがな」
「……はあ?……おい……狂ってんのかお前?」

ビンセントは限界だった。
こめかみから汗が流れ落ちる。
この男の声、表情、不気味な言動すべてが理解不能だった。
この状況は現実なのか?
この男は本当に人間か?
いや、人間ではない。
ビンセントにはそれだけはわかった。
この男は人間ではないのだ。
では、いったい何なのか?
わからない。
わからないから——。

「わからないから、怖い。そうだろ?」

サリードスが口を開いた。
左に顔を傾けたまま、無表情でビンセントの眼を見ている。
サリードスの眼には、恐怖と不安で緊張しているビンセントの姿が映っていた。

「……な、なんだお前……お前は……お前は……何者なんだ?」

ビンセントの持つ拳銃がわなわなと震える。
彼は持ち前の冷静さをほとんど失っていた。
目の前のこの男は明らかに異常だった。
そして、この男は人間ではない。
人間ではない、何かと自分は喋っている。
いったいこの男は何が目的でここにいるのか?
ビンセントにはそれを知る必要があった。

「引き金を引いてみろ……それでわかる」

サリードスは両腕を組んだまま、そう言った。
冷めた表情のまま、サリードスは銃口を向け続けるビンセントを眺めていた。
サリードスからすれば、拳銃を握りしめる男など、母親の小指を握る赤子と同然だった。
拳銃をこちらに向けることも、引き金を引くことも、彼の前では何の意味も持たない。

「あ?ああ?……そんなに、死にてえのか?ああ?リゼットはどうした?ブツは?どこだ?お前は何だ!」

ビンセントは怒鳴り声を上げながら、そう言った。
一歩、二歩とサリードスに近寄ると、銃口をさらに近づけた。

「リゼットはここにはいない。ブツもない。俺のことを知りたければ引き金を引け」

サリードスがそう言った時だった。
ビンセントが引き金を引いた。
炸裂音とともに拳銃から弾丸が放たれる。
しかし、その銀色の弾丸がサリードスの額を打ち抜くことはなかった。
その銀色の弾丸はサリードスの額のほんのわずかなところで止まったのだ。
空中で止まった弾丸は、まるで時が止まったかのようにそこに浮かんでいた。
それは横から見ると、不思議な絵画のようにも見えた。
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