Perky!!

にゃんまる

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ビンセント含め、六人の部下たちは固まっていた。
目の前の状況に理解できた者はいなかった。
拳銃から放たれた銀色の弾丸は、サリードスの額の前で止まっている。
空中に浮かんだままのその弾丸は、まるで空気と一体化しているかのように微動だにしない。

「ふん……下らんなあ……このような殺傷能力の低い兵器を未だに人間は武器としている」

サリードスはため息をつきながらそう言った。
床の木材に視線を落とし、サリードスは退屈そうな表情をした。

「な……な……なんだこれは……」

ビンセントは訳が分からなかった。
なぜ弾丸が男の目の前で止まっているのか。
なぜ空中に浮かんだまま、微動だにしないのか。
ビンセントの部下たちも、全員困惑していた。
一体何が起こっているのか、わかる者がいるはずもなかった。

「お、おい、お前ら!何ぼさっとしてんだ!撃て!おい撃て!」

ビンセントは声を荒げながら、周りの部下たちにそう言った。
部下たちは言われたまま、すぐに拳銃を取り出し、次々と発砲した。
小屋の中で、炸裂音が何度も響き渡る。
ビンセントも必死に引き金を何度も引いた。
椅子に腰かけているサリードスにいくつもの弾丸が放たれていく。
しかし、その弾丸すべてが、サリードスを貫くことはなかった。
それどころか、最初と同じようにサリードスの身体の周りに止まってしまったのだ。
サリードスの身体の周りには無数の銀色の弾丸が空中で浮かんでいた。
どれもサリードスの身体に当たることなく、その目の前の空中で止まっているのだ。

「こ、こんな……こんなこと」

ビンセントの口は震えていた。
拳銃を持つ手にもはや力はほとんどなかった。
一歩二歩と後ずさりしながら、ビンセントはサリードスから離れていった。
あり得ない状況が立て続けに起き、もはやパニックだった。
この状況から逃げたい。
ビンセントの思考はもはやそういったものでいっぱいだった。

「下らん……やはり遊びにもならんな」

サリードスはぼそりとそう呟いた。
そして次の瞬間だった。
サリードスの身体の周りに浮かんでいた弾丸が勢いよく、スーツ姿の男たちに向かって放たれたのだ。
それは一瞬だった。
拳銃のように発射音が無いため、男たちの倒れる音だけが部屋の中に響いただけだった。
放たれた弾丸は、ビンセントの部下たちそれぞれの急所に命中していた。
ビンセントは即死し、倒れている部下たちを見ながら震えていた。
彼には一体何が起きているのか理解できなかった。

「何だ……何なんだこれは?お、お前……何なんだ?」

ビンセントはついに右手から拳銃を落とし、後ずさりした。
後ろにあるキッチン台にお尻が当たり、後退も止まった。
彼は身体を震わせながら、椅子に腰かけているサリードスを見ていた。
サリードスは依然として変わらず、無表情のままだった。

「ふん……別の遊びを考えないとな……つまらん」

サリードスがそう言った時だった。
彼のズボンのポケットに入っている携帯電話が鳴った。
すぐに彼はそれを取り出すと、右耳に当てた。

「サリー。もうそろそろ列車の時間よ」

電話口で女がそう言った。
女の口調は少しふざけた感じだった。
この女がリゼットである。

「やっとか……退屈してたとこだ」
「三両目にいるわ……」
「わかった。すぐに行く」

サリードスはそう言うと、電話を切り、ポケットにそれをしまった。
椅子から立ち上がると、サリードスはビンセントの方へ歩き出した。
ビンセントはキッチン台にもたれかかるように震えて立っていた。
サリードスが近づいてくると、ビクッと体を震わせた。

「金の入ったカバンはどこだ?」

サリードスはビンセントのすぐ目の前でそう聞いた。
彼の無慈悲で無表情な顔がビンセントの恐怖で涙ぐんだ眼に映っている。

「え、え、っと、あ、あそこ」

ビンセントは震えながら左手の人差し指でカバンの場所を指さした。
黒のカバンが小屋の玄関の方に置かれていた。
サリードスはそれを見た後にため息をついた。

「ふん。命拾いしたなお前」

そう言うと、サリードスはビンセントの肩を叩いて黒のカバンのところまで歩き出した。
黒のカバンを持ち上げると、サリードスは今度は小屋の窓の方へ歩いて行く。
そしてそのまま何事もなかったの様に窓を開けて、外へ出て行ってしまった。
小屋の窓から外を出ると、そこは崖だった。
灰色の山、ロールドマウンテンの頂上にあるその場所は、ちょうど頂上からの崖となっている。
サリードスは黒のカバンを肩にかけて持ったまま、しばらく崖からの景色を眺めていた。
山頂はかなり標高が高く、白い霧でよく地上の方はよく見えない。
が、それは常人の話であって、サリードスには見えていた。
さらに言うと、山の三合目付近にある線路に近づいてくる列車の進む音まで聞き取れていたのだ。
列車はロールドマウンテンの三合目付近の線路をもうすぐで通るところだった。
そして次の瞬間だった。
サリードスは何のためらいもなく、山頂の崖から飛び降りた。
サリードスの身体は一瞬にして山頂から姿を消し、勢いよく落下していった。
小屋に残るビンセントはその一部始終を見ていた。
震えた体を力なく落として、その場でビンセントはへたり込んだ。

「一体……なんなん……だ」

ビンセントはそう言ってキッチン台にもたれかかったまま、窓の外の景色を眺めていた。
窓の外からは、薄い霧で覆われた山頂の景色が広がっているだけだった。
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