3 / 3
自信をお探しですか?お客様。
しおりを挟む
カランカラン
来店を知らせるドアベルの音に振り向くが、そこには誰もいませんでした。
おかしいなと首を傾げようとしたら、堪えるような泣き声が聞こえて来ました。
「ふえっ、えっ、ぐっ」
そこにいたのは、黄色の半袖にオーバーオールを着た子供でした。
頭には黄色のとんがり耳の帽子をかぶっています。
泣き始めるその子の話によると、彼は小精霊らしいです。
「触ると鼓動を感じたの二つも……それなのに……ふえ~っ」
住み処の近くで気配を感じて見に行ってみたら、
凄く大きなおじさんが畑の端に腰掛けて休んでいたので、こっそり近づいたけど見つかって、
でも怒られなかったので更に近づいておじさんの足に触ったら中に命の気配があって、
もっとよく知りたくてペタペタ触りまくったとか。
「腰の横辺りに触れたら凄く近くに鼓動を感じて、更に反対の腿太にも小さいのがいたの。
嬉しくって頻繁に畑に行って撫でてたの」
そうキラキラした目で言い募っていたのが、途端に萎れていく。
「でも最近会えなくて、心配で、あの……僕がしつこくしたから嫌われて避けられてるのかな?
そんな事を思ったけど待ってられなくて、頑張って町に探しに行って見たけど、似ている気配しか感じられなくて……」
『こんな小さいのに、一丁前にストーカーですか……』
「あの、僕、本当に心配なだけで、しつこくするつもりなんてちょっと……もなかったの」
「それでもせめてちゃんと生まれているか知りたくて、さ迷ってて、それでここのドアを開けたくなって、開いたら音が大きくてびっくりして固まっちゃったとこです」
捲し立てるようなお話が終わったようです。
「なるほど、ここに入って来た理由はわかりました。
でも、さ迷ってるだけでは見つけられないと思いますよ?」
「うん、わかってる」
「それに、もしかしたら既に誕生していて、貴方に合う必要がなくなったのかもしれませんよ?」
「えっ……」
「その子達に会うまで、君も一人で居たんでしょう?」
「うん」
「他に何か必要に感じなかったのでしょう?」
「……うん」
「誕生するとそう言う思考になるのかもしれませんよ?」
「そんな……」
小精霊くんが落ち込んで俯いて行くと、私の後ろ頭にベシッと何かが叩きつけられて、思わす前のめりになってしまいました。
体勢を立て直して頭を見ると、張り付いていたのはびしょ濡れの布巾でした。
「フォロス~?」
カウンターを振り向くと、空中に濡れた布巾が二つ、まるで拳の様に浮かんでいました。
私と向かい合うと、グルグル回して気合を示してきました。
「気に入らないのね?」
布巾の拳はユラユラゆれています。
まるでボクサーが距離感を図っている姿みたいで不思議です。
「だって、精霊って言ったら気になる物がないと、何に対しても無関心じゃない!
生まれたての精霊に生まれる前に出来た縁を押し付けるべきじゃないわよ!」
「あ……」
小精霊くんはやっと気付いたみたい。精霊の宿主には会ったけど、精霊自身にはきっと認識されていなかっただろうこと。
私が濡れ布巾の端を持って振り回し、フォロスの拳を叩きまくっているうちに、小精霊の子は何かを決心した顔を上げていました。
「あ、あの!」
「はい?」
私は布巾を振るのをやめて返事をします。
フォロスも拳をカウンターの上に置いています。
「遠くからでも、様子を知る事は出来ないでしょうか!」
「やっとそこに気が付いたのね?」
「はい?」
「ここはフォロスと言ってね、いろんな人が探し物をしに訪れるところなの。
そして今日のお客様はあなた」
私はニッコリ笑顔で言い切る。
「ここに来れたのなら求めている探し物が見つかるはずなの。
でも、あなたはオロオロ探すばかりでその後の行動を考えていなかった」
「そうでした?」
「それが今決まったのよ」
そう言って私は一枚の粘土板をシートを引いたテーブル上に乗せます。
小精霊くんは急いで備え付けの椅子によじ登ります。
「この板は、念じるとその思いに答える形が浮き出てくるのですって」
「?」
「もとは占い師さんの持ち物で、魔力を注がないといけないみたいなの。
その点、体そのものが魔力の精霊なら使えると思いますよ」
前に占い師さんが対価に置いて行った粘土板です。
どんなことが知りたいのか、明確に意識しないと形が出来ないと聞いていて、実は喜怒哀楽のテキストをいただいていたんです。
「じゃあ、今元気か知りたいです」
「では、精霊の卵の鼓動を思い出しながら、元気ですか?って問いかけながら魔力を流してみてください」
「はい!」
小精霊くんは板の端に両手の指をついて、目を閉じて周流を始めます。
すると明確に粘土版の真ん中が盛り上がってきました。
ぴょこんと草が生えました。色が粘土の色なので本物じゃないです。
そのまま育って蕾を付けて花が開いたところで成長が止まりました。
「わかりやすい形で良かったですね」
「これはどういう意味があるんですか?」
「植物の形は感情や体調を表現しやすいって、このテキストに書いてあるわ。
それで、開いている花は『絶好調』ですって」
「そうですか!良かった……まだ続けてもいいですか?」
「いいけれど、今度はどうするの?」
「僕の事を覚えているか……知りたいです」
「……やってみるのね?」
「はい」
「いいわよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
小精霊くんが再び魔力を送り始めるが、今度は花の蕾が全く現れなかった。
いわゆる雑草止まり。
「僕はその辺の雑草と一緒……」
つまり、全く気にされていなかった。
それが目に見えてわかってしまったみたい。
「僕はこんなに心配していたのに……」
あ~小精霊くんの気配がどす黒くなってきてませんか?
フォロスどうしようっっ!
思わずカウンターに向かって目を潤ませてしまいました。
少しの間があり、私の上にお皿の乗った盆が飛んできました。
皿に乗っているのは半透明な衣に包まれた巾着状の飴玉。
「これは……いいの?」
布巾の手がグッジョブの形になっています。
それを確認したので、私はうずくまる小精霊くんの肩を叩いて顔を上げさせると、鼻をつまみあげます。
「ふがっ?」
驚いて開いた口の中に巾着飴を思い切って二つ放り込みます。
薄くて柔らかい表面の巾着幕が口の中ですぐ溶けている事でしょう。
以前いただいた透明化の薬と解毒剤とを蜂蜜で練り合わせて作ってみた飴です。
フォロスによると、存在感を上げる効果があるそうです。
様子を見ていると、小精霊くんのふさふさの尻尾がぽとりと床に落ちました。
「ヒィッ!」
ホラーです!
そんな怖い感じに存在感上げなくてもいいです。
尻尾から小精霊くんの背中に視線を戻すと、あれ?大きくなってます?
さっきまで抱っこできる犬サイズだったのに、人の子供サイズになってます。
「育ち過ぎじゃないですか?」
硬質化した尻尾を拾った小精霊くんが立ち上がって私を見ます。
何て事でしょう。私と同じくらいの背です!
「ありがとうございます。これなら、気配を見つけられるし気付いてもらえそうです」
ストーカーする気は満々なんですね。
これは言っても聞かないでしょう。
「もう、自信が付いたのかしら?」
「はい!」
「じゃあ、お代をいただいてもいいかしら?」
「お代、ですか?」
「悩みが解消したお礼。お金じゃないと助かるわ」
「……では、この杖をもらってください」
「杖って、これ、貴方の尻尾よね?」
「小精霊は成長すると尻尾がなくなって中位精霊になるんです。これは弱い自分一部ですが、精霊の力を使う媒体になります」
体から取れて落ちたのを見ていたから、あまり受け取りたくないけど、仕方ないのかな?
「わかりました。お代としてお預かりしますね」
「お世話になりました」
小精霊くんもとい、中位精霊くんは元気にドアを開けて出ていきました。
体格は成長した彼の内面が成長していないところが心配だけれど、しかたないですね。
「まずはお掃除よね」
何故か、動物の換毛気よろしく床には毛がいっぱいです。
嫌な落とし物です。舞い上がって掃除しずらいのです。
キレイにして次のお客様に備えないと!
箒を天井にオーッと掲げ持って気合を入れる私、フォリアでした。
夢ネタ――――――――――---‐20181209
来店を知らせるドアベルの音に振り向くが、そこには誰もいませんでした。
おかしいなと首を傾げようとしたら、堪えるような泣き声が聞こえて来ました。
「ふえっ、えっ、ぐっ」
そこにいたのは、黄色の半袖にオーバーオールを着た子供でした。
頭には黄色のとんがり耳の帽子をかぶっています。
泣き始めるその子の話によると、彼は小精霊らしいです。
「触ると鼓動を感じたの二つも……それなのに……ふえ~っ」
住み処の近くで気配を感じて見に行ってみたら、
凄く大きなおじさんが畑の端に腰掛けて休んでいたので、こっそり近づいたけど見つかって、
でも怒られなかったので更に近づいておじさんの足に触ったら中に命の気配があって、
もっとよく知りたくてペタペタ触りまくったとか。
「腰の横辺りに触れたら凄く近くに鼓動を感じて、更に反対の腿太にも小さいのがいたの。
嬉しくって頻繁に畑に行って撫でてたの」
そうキラキラした目で言い募っていたのが、途端に萎れていく。
「でも最近会えなくて、心配で、あの……僕がしつこくしたから嫌われて避けられてるのかな?
そんな事を思ったけど待ってられなくて、頑張って町に探しに行って見たけど、似ている気配しか感じられなくて……」
『こんな小さいのに、一丁前にストーカーですか……』
「あの、僕、本当に心配なだけで、しつこくするつもりなんてちょっと……もなかったの」
「それでもせめてちゃんと生まれているか知りたくて、さ迷ってて、それでここのドアを開けたくなって、開いたら音が大きくてびっくりして固まっちゃったとこです」
捲し立てるようなお話が終わったようです。
「なるほど、ここに入って来た理由はわかりました。
でも、さ迷ってるだけでは見つけられないと思いますよ?」
「うん、わかってる」
「それに、もしかしたら既に誕生していて、貴方に合う必要がなくなったのかもしれませんよ?」
「えっ……」
「その子達に会うまで、君も一人で居たんでしょう?」
「うん」
「他に何か必要に感じなかったのでしょう?」
「……うん」
「誕生するとそう言う思考になるのかもしれませんよ?」
「そんな……」
小精霊くんが落ち込んで俯いて行くと、私の後ろ頭にベシッと何かが叩きつけられて、思わす前のめりになってしまいました。
体勢を立て直して頭を見ると、張り付いていたのはびしょ濡れの布巾でした。
「フォロス~?」
カウンターを振り向くと、空中に濡れた布巾が二つ、まるで拳の様に浮かんでいました。
私と向かい合うと、グルグル回して気合を示してきました。
「気に入らないのね?」
布巾の拳はユラユラゆれています。
まるでボクサーが距離感を図っている姿みたいで不思議です。
「だって、精霊って言ったら気になる物がないと、何に対しても無関心じゃない!
生まれたての精霊に生まれる前に出来た縁を押し付けるべきじゃないわよ!」
「あ……」
小精霊くんはやっと気付いたみたい。精霊の宿主には会ったけど、精霊自身にはきっと認識されていなかっただろうこと。
私が濡れ布巾の端を持って振り回し、フォロスの拳を叩きまくっているうちに、小精霊の子は何かを決心した顔を上げていました。
「あ、あの!」
「はい?」
私は布巾を振るのをやめて返事をします。
フォロスも拳をカウンターの上に置いています。
「遠くからでも、様子を知る事は出来ないでしょうか!」
「やっとそこに気が付いたのね?」
「はい?」
「ここはフォロスと言ってね、いろんな人が探し物をしに訪れるところなの。
そして今日のお客様はあなた」
私はニッコリ笑顔で言い切る。
「ここに来れたのなら求めている探し物が見つかるはずなの。
でも、あなたはオロオロ探すばかりでその後の行動を考えていなかった」
「そうでした?」
「それが今決まったのよ」
そう言って私は一枚の粘土板をシートを引いたテーブル上に乗せます。
小精霊くんは急いで備え付けの椅子によじ登ります。
「この板は、念じるとその思いに答える形が浮き出てくるのですって」
「?」
「もとは占い師さんの持ち物で、魔力を注がないといけないみたいなの。
その点、体そのものが魔力の精霊なら使えると思いますよ」
前に占い師さんが対価に置いて行った粘土板です。
どんなことが知りたいのか、明確に意識しないと形が出来ないと聞いていて、実は喜怒哀楽のテキストをいただいていたんです。
「じゃあ、今元気か知りたいです」
「では、精霊の卵の鼓動を思い出しながら、元気ですか?って問いかけながら魔力を流してみてください」
「はい!」
小精霊くんは板の端に両手の指をついて、目を閉じて周流を始めます。
すると明確に粘土版の真ん中が盛り上がってきました。
ぴょこんと草が生えました。色が粘土の色なので本物じゃないです。
そのまま育って蕾を付けて花が開いたところで成長が止まりました。
「わかりやすい形で良かったですね」
「これはどういう意味があるんですか?」
「植物の形は感情や体調を表現しやすいって、このテキストに書いてあるわ。
それで、開いている花は『絶好調』ですって」
「そうですか!良かった……まだ続けてもいいですか?」
「いいけれど、今度はどうするの?」
「僕の事を覚えているか……知りたいです」
「……やってみるのね?」
「はい」
「いいわよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
小精霊くんが再び魔力を送り始めるが、今度は花の蕾が全く現れなかった。
いわゆる雑草止まり。
「僕はその辺の雑草と一緒……」
つまり、全く気にされていなかった。
それが目に見えてわかってしまったみたい。
「僕はこんなに心配していたのに……」
あ~小精霊くんの気配がどす黒くなってきてませんか?
フォロスどうしようっっ!
思わずカウンターに向かって目を潤ませてしまいました。
少しの間があり、私の上にお皿の乗った盆が飛んできました。
皿に乗っているのは半透明な衣に包まれた巾着状の飴玉。
「これは……いいの?」
布巾の手がグッジョブの形になっています。
それを確認したので、私はうずくまる小精霊くんの肩を叩いて顔を上げさせると、鼻をつまみあげます。
「ふがっ?」
驚いて開いた口の中に巾着飴を思い切って二つ放り込みます。
薄くて柔らかい表面の巾着幕が口の中ですぐ溶けている事でしょう。
以前いただいた透明化の薬と解毒剤とを蜂蜜で練り合わせて作ってみた飴です。
フォロスによると、存在感を上げる効果があるそうです。
様子を見ていると、小精霊くんのふさふさの尻尾がぽとりと床に落ちました。
「ヒィッ!」
ホラーです!
そんな怖い感じに存在感上げなくてもいいです。
尻尾から小精霊くんの背中に視線を戻すと、あれ?大きくなってます?
さっきまで抱っこできる犬サイズだったのに、人の子供サイズになってます。
「育ち過ぎじゃないですか?」
硬質化した尻尾を拾った小精霊くんが立ち上がって私を見ます。
何て事でしょう。私と同じくらいの背です!
「ありがとうございます。これなら、気配を見つけられるし気付いてもらえそうです」
ストーカーする気は満々なんですね。
これは言っても聞かないでしょう。
「もう、自信が付いたのかしら?」
「はい!」
「じゃあ、お代をいただいてもいいかしら?」
「お代、ですか?」
「悩みが解消したお礼。お金じゃないと助かるわ」
「……では、この杖をもらってください」
「杖って、これ、貴方の尻尾よね?」
「小精霊は成長すると尻尾がなくなって中位精霊になるんです。これは弱い自分一部ですが、精霊の力を使う媒体になります」
体から取れて落ちたのを見ていたから、あまり受け取りたくないけど、仕方ないのかな?
「わかりました。お代としてお預かりしますね」
「お世話になりました」
小精霊くんもとい、中位精霊くんは元気にドアを開けて出ていきました。
体格は成長した彼の内面が成長していないところが心配だけれど、しかたないですね。
「まずはお掃除よね」
何故か、動物の換毛気よろしく床には毛がいっぱいです。
嫌な落とし物です。舞い上がって掃除しずらいのです。
キレイにして次のお客様に備えないと!
箒を天井にオーッと掲げ持って気合を入れる私、フォリアでした。
夢ネタ――――――――――---‐20181209
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる