いらっしゃいませお客様。何をお探しですか?

霧谷水穂

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自信をお探しですか?お客様。

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 カランカラン

 来店を知らせるドアベルの音に振り向くが、そこには誰もいませんでした。
 おかしいなと首を傾げようとしたら、こらえるような泣き声が聞こえて来ました。

「ふえっ、えっ、ぐっ」

 そこにいたのは、黄色の半袖にオーバーオールを着た子供でした。

 頭には黄色のとんがり耳の帽子をかぶっています。

 泣き始めるその子の話によると、彼は小精霊らしいです。

「触ると鼓動を感じたの二つも……それなのに……ふえ~っ」
 
 住み処の近くで気配を感じて見に行ってみたら、
凄く大きなおじさんが畑の端に腰掛けて休んでいたので、こっそり近づいたけど見つかって、
でも怒られなかったので更に近づいておじさんの足に触ったら中に命の気配があって、
もっとよく知りたくてペタペタ触りまくったとか。

「腰の横辺りに触れたら凄く近くに鼓動を感じて、更に反対の腿太ももたにも小さいのがいたの。
 嬉しくって頻繁に畑に行って撫でてたの」

 そうキラキラした目で言い募っていたのが、途端に萎れていく。

「でも最近会えなくて、心配で、あの……僕がしつこくしたから嫌われて避けられてるのかな?
 そんな事を思ったけど待ってられなくて、頑張って町に探しに行って見たけど、似ている気配しか感じられなくて……」

『こんな小さいのに、一丁前いっちょまえにストーカーですか……』

「あの、僕、本当に心配なだけで、しつこくするつもりなんてちょっと……もなかったの」

「それでもせめてちゃんと生まれているか知りたくて、さ迷ってて、それでここのドアを開けたくなって、開いたら音が大きくてびっくりして固まっちゃったとこです」

 まくし立てるようなお話が終わったようです。

「なるほど、ここに入って来た理由はわかりました。
 でも、さ迷ってるだけでは見つけられないと思いますよ?」

「うん、わかってる」

「それに、もしかしたら既に誕生していて、貴方に合う必要がなくなったのかもしれませんよ?」

「えっ……」

「その子達に会うまで、君も一人で居たんでしょう?」

「うん」

「他に何か必要に感じなかったのでしょう?」

「……うん」

「誕生するとそう言う思考になるのかもしれませんよ?」

「そんな……」

 小精霊くんが落ち込んで俯いて行くと、私の後ろ頭にベシッと何かが叩きつけられて、思わす前のめりになってしまいました。
 体勢を立て直して頭を見ると、張り付いていたのはびしょ濡れの布巾ふきんでした。

「フォロス~?」

 カウンターを振り向くと、空中に濡れた布巾が二つ、まるで拳の様に浮かんでいました。
 私と向かい合うと、グルグル回して気合を示してきました。

「気に入らないのね?」

 布巾の拳はユラユラゆれています。
 まるでボクサーが距離感を図っている姿みたいで不思議です。

「だって、精霊って言ったら気になる物がないと、何に対しても無関心じゃない!
 生まれたての精霊に生まれる前に出来た縁を押し付けるべきじゃないわよ!」

「あ……」

 小精霊くんはやっと気付いたみたい。精霊の宿主には会ったけど、精霊自身にはきっと認識されていなかっただろうこと。

 私が濡れ布巾の端を持って振り回し、フォロスの拳を叩きまくっているうちに、小精霊の子は何かを決心した顔を上げていました。

「あ、あの!」

「はい?」

 私は布巾を振るのをやめて返事をします。
 フォロスも拳をカウンターの上に置いています。

「遠くからでも、様子を知る事は出来ないでしょうか!」

「やっとそこに気が付いたのね?」

「はい?」

「ここはフォロスと言ってね、いろんな人が探し物をしに訪れるところなの。
 そして今日のお客様はあなた」

 私はニッコリ笑顔で言い切る。

「ここに来れたのなら求めている探し物が見つかるはずなの。
 でも、あなたはオロオロ探すばかりでその後の行動を考えていなかった」

「そうでした?」

「それが今決まったのよ」

 そう言って私は一枚の粘土板をシートを引いたテーブル上に乗せます。
 小精霊くんは急いで備え付けの椅子によじ登ります。

「この板は、念じるとその思いに答える形が浮き出てくるのですって」

「?」

「もとは占い師さんの持ち物で、魔力を注がないといけないみたいなの。
 その点、体そのものが魔力の精霊なら使えると思いますよ」

 前に占い師さんが対価に置いて行った粘土板です。
 どんなことが知りたいのか、明確に意識しないと形が出来ないと聞いていて、実は喜怒哀楽のテキストをいただいていたんです。

「じゃあ、今元気か知りたいです」

「では、精霊の卵の鼓動を思い出しながら、元気ですか?って問いかけながら魔力を流してみてください」

「はい!」

 小精霊くんは板の端に両手の指をついて、目を閉じて周流を始めます。
 すると明確に粘土版の真ん中が盛り上がってきました。
 ぴょこんと草が生えました。色が粘土の色なので本物じゃないです。
 そのまま育って蕾を付けて花が開いたところで成長が止まりました。

「わかりやすい形で良かったですね」

「これはどういう意味があるんですか?」

「植物の形は感情や体調を表現しやすいって、このテキストに書いてあるわ。
 それで、開いている花は『絶好調』ですって」

「そうですか!良かった……まだ続けてもいいですか?」

「いいけれど、今度はどうするの?」

「僕の事を覚えているか……知りたいです」

「……やってみるのね?」

「はい」

「いいわよ。どうぞ」

「ありがとうございます」

 小精霊くんが再び魔力を送り始めるが、今度は花の蕾が全く現れなかった。
 いわゆる雑草止まり。

「僕はその辺の雑草と一緒……」

 つまり、全く気にされていなかった。
 それが目に見えてわかってしまったみたい。

「僕はこんなに心配していたのに……」

 あ~小精霊くんの気配がどす黒くなってきてませんか?
 フォロスどうしようっっ!
 思わずカウンターに向かって目を潤ませてしまいました。

 少しの間があり、私の上にお皿の乗った盆が飛んできました。
 皿に乗っているのは半透明な衣に包まれた巾着状の飴玉。

「これは……いいの?」

 布巾の手がグッジョブの形になっています。
 それを確認したので、私はうずくまる小精霊くんの肩を叩いて顔を上げさせると、鼻をつまみあげます。

「ふがっ?」

 驚いて開いた口の中に巾着飴を思い切って二つ放り込みます。
 薄くて柔らかい表面の巾着幕が口の中ですぐ溶けている事でしょう。
 以前いただいた透明化の薬と解毒剤とを蜂蜜で練り合わせて作ってみた飴です。
 フォロスによると、存在感を上げる効果があるそうです。

 様子を見ていると、小精霊くんのふさふさの尻尾がぽとりと床に落ちました。

「ヒィッ!」

 ホラーです!
 そんな怖い感じに存在感上げなくてもいいです。
 尻尾から小精霊くんの背中に視線を戻すと、あれ?大きくなってます?

 さっきまで抱っこできる犬サイズだったのに、人の子供サイズになってます。

「育ち過ぎじゃないですか?」

 硬質化した尻尾を拾った小精霊くんが立ち上がって私を見ます。
 何て事でしょう。私と同じくらいの背です!

「ありがとうございます。これなら、気配を見つけられるし気付いてもらえそうです」

 ストーカーする気は満々なんですね。
 これは言っても聞かないでしょう。

「もう、自信が付いたのかしら?」

「はい!」

「じゃあ、お代をいただいてもいいかしら?」

「お代、ですか?」

「悩みが解消したお礼。お金じゃないと助かるわ」

「……では、この杖をもらってください」

「杖って、これ、貴方の尻尾よね?」

「小精霊は成長すると尻尾がなくなって中位精霊になるんです。これは弱い自分一部ですが、精霊の力を使う媒体になります」

 体から取れて落ちたのを見ていたから、あまり受け取りたくないけど、仕方ないのかな?

「わかりました。お代としてお預かりしますね」

「お世話になりました」

 小精霊くんもとい、中位精霊くんは元気にドアを開けて出ていきました。
 体格は成長した彼の内面が成長していないところが心配だけれど、しかたないですね。

「まずはお掃除よね」

 何故か、動物の換毛気よろしく床には毛がいっぱいです。
 嫌な落とし物です。舞い上がって掃除しずらいのです。

 キレイにして次のお客様に備えないと!
 ほうきを天井にオーッと掲げ持って気合を入れる私、フォリアでした。

 夢ネタ――――――――――---‐20181209
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