すべてはスライムで出来ている。

霧谷水穂

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焦げた鍋

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 あ、厨房から焦げ臭い臭いがしてきた。
 大丈夫だろうか。
 カークも厨房への勝手口を見やっだけれど、芋剥きに戻った。まずは仕事の完遂だな。

 芋がするすると剥かれる。スライムが下で受け止める。
 カークは料理に慣れてるな。
「自炊、基本」
 そうか。蛇捌くのも手慣れてたものな。
「あ、あれ、乾燥、させなきゃ」
 包んだまま保管するのかと思ってた。
「端から、腐る」
 それは大変だ!さっさと芋剥き終わらせて干しに行こう!
「はい」

 カークが黙々と手元を見て刃物を動かしていると、ガチャとドアのノブが回される。
 突然の音にカークがビクッとした。
 出てきた人間の手には炒め用の平たい鍋。
「何?」

「ああ、カークさん。お鍋焦がしちゃって。落とすの時間かかるから井戸の傍に置いておいて、後でやるわ」

「ああ」

 ここから見える位置にある井戸の横に鍋を置き、水を入れて戻ってきたのは教会の人間に食事を作る人間の一人だ。
 ちなみにメスだ。
 教会に来てからスコラと違い、人間の雌は大人になると胸が飛び出すと教わった。
 しかしそれはメスの前では言ってはいけないことらしい。
 あの時もこの勝手口の外で聞いた。

「あ」

「ん?何?」
 中に戻ろうとドアに手をかけていたところにカークが声を上げた。
 その手が井戸を指差す。

「鍋、俺、洗ったら、しばらく、借りて、いい?」

「良いけど、何に使うの?」

「干物、作る」

「そう。お天気が良かったら二三日ってところかしら?」

「そう」

「わかったわ。皆にも言っておく」

「ありがとう」
 メスがドアの奥に入っていき、カークは皮剥き再開。
 鍋で干物が出来るのか?
「鍋に貼る、日光、当てる、早い」
 そうなのか。

 皮剥きを終わったカークは部屋からカバンを持ってきた。
 なぜカバン?
 井戸の教会から見えない位置に移動して、カバンを開けて取り出したのはケイとセン。
 なんか、久しぶり感。
 ……二匹が羽根をグルグル振る。
 すまなかった。

 そうして水を張った黒い物がこびりついた鍋の中にセンが入れられる。
 本人の向きは何となく羽根が回転しているのでわかる。
 体の側面(前面?)を鍋に擦りつけている模様。
 鍋の水が濁って黒くなっていく。
 でもセンの体の分が丸く透明。おもしろい。

 ……羽根の動きが変わった。
 さっきまで前後運動だったのに横に振ってる。
 終わったのか?
 ……羽根がピンと立つ。

 センを取り出して、真っ黒な水を捨てようと思ったら鍋をつかんで止められた。
 そこにいたのは緑のスライム。
 元は野菜だろうが、こんな真っ黒なものを……良いのか?
 スライムは縦に伸びてから沈んで器の形になった。
 器用だな。

 ……隣でケイとセンが真似している。伸びが足らないのか器が小さい。可愛い。
 しかし黒い水は緑スライムの器に流し入れる。
 受け取ると蓋をするように全体で包みこんだので体積が倍以上になったように見えた。

 空になった鍋に新しい水を注いで、今度はケイを入れる。
 焦げた野菜は取れたが鍋自体も黒ずんでいるから、前にケイに磨かれたことがある自分としても良い采配だと思う。
 考えたのはカークだろうが。
 スライム同士って意思疎通が明確なんだよなぁ。うらやましい。

 ケイの羽根がピコピコ動く様子を見ていると、カークに撫でられた。
「俺ら、動けるの、アーサー、おかげ」
 ……足元でセンが羽根を回すように振っている。
「アーサー、いないと、困る」
 そう言ってもらえると少し安心する。ありがとう。

 ケイの仕事が終わり、鍋の内側のくすみが消えて輝いている!
 裏返して底の上に再びケイが乗せられる。
「干物、裏に、乗せる」
 そうなのか!
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