すべてはスライムで出来ている。

霧谷水穂

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救出

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「キュッ」
 一本の倒木の上に乗ったガヤが声を上げた。
 見た感じ、カーク一人では持ち上がりそうもない太さだ。

「ここか。穴の位置は、わかるか?」
 ……ガヤの尻尾が垂れ下がった。
 それを見たカークが木に手を当てて、なたの柄で木を叩いた。

『コッコッ』
 木の中から音が返ってきた。
 カークが位置を変えて、また叩く。

『コッコッ』
 音が近くなった。

「コッコッ」
 同じ音がしたのでそっちを見ると、ガヤが木の幹に前歯を突き立てていた。
 という事は、あの音は中から二匹が位置を教えてくれているのだろう。

「この辺りだ」

「キッキッキッキッキッ」
 何回か幹を叩いてカークが位置を決め、ガヤが中の二匹に向けて警官音を送る。
 どうやって位置を決めたんだ?

「中に空洞、あると、叩いた音、軽くなる」
 なるほど納得した。
 カークの持つ鉈が大きく振り上げられ、木の幹に打ち付けられる。
 中に穴があるとはいえ、一度やそこらでは貫通はしない。
 正面に切り込みを入れたら、左右からそれぞれ切り込み、幹を削り取っていく。

 切込みだけ入れても中から出られないので、穴を作るつもりで切り込んでいるらしい。
 深くなるほどに穴は大きくなっていく。
 腕一本だとなかなか大変な作業だな。

『キッキッキッキッキッ』
 中から警戒音が聞こえてきた。
 カークは手を止めて穴の底を鉈の柄で叩く。
 かなり軽い音がする。

『コッコッコッコッ』
『コッコッコッコッ』
 そして内側から二匹が叩く音がひっきりなしに響き始める。
 穴の底がもこもこ動き始め、小さな穴が開くと二匹の前歯が出たり入ったりすることで穴を広げていく。

 ある程度になると、そこから頭をグイグイ通して顔を出した。
 でもまた引っ込んだ。

「キュッ」

「穴の大きさが、足りなかったな」
 あの大きさの穴から顔が出て来たのさえ驚きだ。
 骨とかどうなっているんだろう。

 再び穴を広げ体が通るサイズになったら二匹ともさっさと出てきた。
 その通る様子はやはりギリギリ感が満載だったが。

「「キュッ!」」
 二匹が片手と尻尾を上げて脱出完了を告げる。

「無事で、良かった」
 本当に二匹とも無事で良かった!
 カークが二匹の頭を指先で撫でる。
 自分は前屈みになったカークの首からぶら下がっている。
 それを見たセキ達が両手をこちらに掲げてくる。

 何を思ったかカークはぶら下がったままの自分を三匹の前にぶら下げた。

「キュッ」
「キュッ」
「キュッ」
 小さく声を上げながら、石である自分にしがみつく三匹。
 何がどうした!?

「怖かったって」
 そうか。
 自分にしがみついて落ち着くなら
 くっついてていい。

「じゃあ、その間に、フェイボアを、どうにかするか?」
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