『庭師』の称号

うつみきいろ

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第四章

この歌を伝えるために生まれてきた気がするわ

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「コマドリさんちょっといいですか?」
「あら、スズメくん」

 夕食の後、スズメはコマドリを呼び止めた。昼間、村人の襲撃を受けている時、コマドリの歌でメタセコイアの種が光ったことがどうしても気になっていたのだ。あの時、種は確かに歌に共鳴して輝いていた。ヨルに種を渡されてから何年も経つがこんな現象は一度も無い。しかも光っていたのはメタセコイアの種だけだったのだ。あれから思案してみたがスズメにはその理由が分からなかった。別にどうでもいいことなのかもしれない。しかしスズメにはこの出来事が特別な意味を含んでいるような気がしてならないのだ。

「実はお尋ねしたいことがあって・・・・・・」

 コマドリに聞けば何か分かるかもと思い、寝室に向かおうとするところを捕まえたはいいものの、どこから話せば良いものか。

「あら、お話は好きよ。あちらに座ってゆっくりお喋りしましょう?」
「ありがとうございます」

 コマドリの言葉に甘えて、スズメはコマドリと共に食堂の椅子に座った。

「早速なんですが、これを見ていただきたいんですけど・・・・・・」
「これは何かの種?」
「ええ。メタセコイアの木の種です」

 スズメはメタセコイアの種を取り出してコマドリの前に置いた。コマドリは興味深そうに種を観察していたが、暫く経つと話の続きを促すようにスズメの顔を見詰める。

「実は昼に戦った時、コマドリさんの歌に共鳴するみたいに光ったんです」

 スズメは光ったのはメタセコイアの種だけだったこと、今までこんな事は一度も無かったことを伝えた。コマドリは静かにスズメの言葉に耳を傾けていたが、スズメが「原因に何か心当たりがありますか?」と尋ねると、首を横に振った。

「ごめんなさい。分からないわ」
「そうですか・・・・・・」
「私の能力は歌声で相手を魅了する力。スズメくんのように植物を育てる力はないわ」

 眉根を下げて困った顔をするコマドリにスズメは肩を落とす。当の本人が分からないならきっと答えは迷宮入りだ。落ち込むスズメと何も言えないコマドリ。暫く静寂の時が流れた。食堂には誰もいない。気まずい状況を打破出来るのはスズメかコマドリどちらかだけだ。そしてスズメはコマドリに付き合ってもらった身。ここは自分がお礼を言ってこの場を何とかしなければ。

 スズメがどう声を掛けようと考えていると、
「あっ!」
 急にコマドリが声を上げた。

「そういえば私の歌の歌詞って種の歌なのよね」
「種の歌?」
「そう。誰に教えてもらった訳でもない、いつも頭に勝手に浮かんでくる歌なんだけど・・・・・・その歌の歌詞が種が芽吹く内容なの」

 そう言うと、コマドリは歌を口ずさんだ。

『枯れた砂漠に命が芽吹く―――はじまりの種再び落ちて―――』

『毒は薬に、海は穏やかに―――命の木再び茂らん』

『さぁもどれ諸人よ―――命の木の下に―――』

 コマドリが歌うと、また種が呼応するように光り始めた。今コマドリは能力制御のチョーカーをつけている。つまり『歌姫』の称号の力ではない。種は歌そのものに反応しているのだ。

「命の木・・・・・・」
「スズメくん?」
「メタセコイアの木って、別名『永遠の生命の木』と言われているんです。そういう意味では特別な木だって言えなくもない」
「じゃあ『はじまりの種』や『命の木』はこのメタセコイアってこと?」

 首を傾げるコマドリにスズメは下を向いた。

「分かりません。でも何か・・・・・・しなければいけない事がある気がするんです。私にしか出来ない使命が。それが何なのか知りたい」
「スズメくん・・・・・・」
「その歌、最後まで聞かせてもらえませんか? 今は意味が分からなくても後で何か分かるかも」

 謎の焦燥感に包まれてスズメは気付けばコマドリに懇願していた。コマドリは少し驚きながらも快く頷いて、歌うだけでなく紙に歌詞を書いて持たせてくれる。

「不思議ね」
「コマドリさん?」
「私、貴方にこの歌を伝えるために生まれてきた気がするわ」

 歌詞を書いた紙を渡してくれた時、コマドリはそう言って微笑んだ。紙にはこう記されていた。

『再び滅びゆく大地―――土は砂に、海は荒れ、草花は毒に包まれて―――死が迫ってくる―――怒れる大地よ鎮まれ』
『今一人小さな命立ち上がりぬ―――枯れた砂漠に命が芽吹く―――はじまりの種再び落ちて―――』
『毒は薬に、海は穏やかに―――命の木再び茂らん』
『さぁもどれ諸人よ―――命の木の下に―――』

 まるで予言のようなその歌にスズメの心はざわりと波立った。
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