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第四章
成る程!面白い!
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◆
次の日、ロムたちは村人の回復を待ってから食料と水を分け、東の都を目指すように言い含めた。そして自分たちもスズメの能力で補給を済ませると更に東を目指して出発した。予定ではこの先にある村で自警団中央本部が派遣した研究者と落ち合う手筈になっている。
「次の村が最後の村ですね」
「ええ。酷いことになってないといいけれど」
地図によると次の村が人の住む最東端の村だ。一人でも多くの人が生き残っていたらいいのだが。
しかしその期待は最悪の形で裏切られる。
「なんだこれは・・・・・・!」
そこに広がっていたのは正しく地獄だった。あちこちに人が倒れ、腐敗して異臭を漂わせている。とてもじゃないが、生きている者がいるとは思えない。
ロムたちが絶句していると、
「やぁ来たね」
後ろから若い男の声が響いた。
ばっと振り向けば自警団員の制服。しかもその上に白衣を羽織っている。毛先が外跳ねしている茶髪に大きな眼鏡。金色の瞳。大きな四角い器具を背中に背負い、ゴム手袋をつけて佇んでいる。まさかこの男が。
「中央から派遣された研究者!?」
「いかにも」
男は頷くと、座面に覆い被さっている遺体をどかして椅子に座った。
「ちょっ! あんた何やってんだ!」
慌ててハークが怒鳴るが、研究者はどこ吹く風だ。涼しげな顔で笑ってすらいる。
「この村はもう駄目だ。全員死んでる」
「だからって遺体を乱暴に扱うなよ!」
「何を怒っているんだい? もう死んでいるんだよ。どう扱ったって生き返る訳でもない」
冷たい声で言って男は片手を差し出した。
「僕はフクロウ。君たちのサポートをするように言われて派遣されてきた。まぁ僕個人としては・・・・・・」
黄金色の瞳がきゅっと細められる。その視線の先にはスズメがいた。
「『庭師』の称号ってのを研究したくてやってきたんだけどね」
「・・・・・・!」
ロムがその視線から守るようにスズメとフクロウの間に割り込む。そして無理矢理笑顔を顔に貼り付けると、差し出された手を握り返した。
「君の役割はスズメの研究じゃなくて川の水の研究だろう?」
「あっちの彼はスズメくんというのか。よろしく頼むよ。何せ植物を育てる能力なんて今まで聞いた事がない! 研究意欲が湧くってものさ!」
フクロウはロムの言葉など聞こえていないのか、興奮した様子で捲し立てた。ロムの額に青筋が浮かぶのをスズメだけが視認する。やばい相当怒ってる。スズメは思わず後退りした。隣を見ればハークも歯軋りしてフクロウを睨みつけている。一触即発な空気にスズメは却って冷静になった。どうしよう。悩んでいたら後ろからスッとコマドリが進み出た。
「とにかく遺体を埋葬して川の上流に向かいましょう」
「遺体を埋葬? そんな事して一体何の意味があるんだい?」
成る程フクロウという男はモラルというものを何処かに落としてきたらしい。もう死んでいる、無意味な行為だと主張して引こうとしない。仕方ない。スズメは大きく息を吸い込んだ。
「遺体を埋葬し終わったら、フクロウさんに私の力を見せてあげてもいいですよ!」
「スズメ!」
「だってここで押し問答してる時間勿体無いじゃないですか」
咎めるロム。しかしスズメは大丈夫だとロムを宥めた。フクロウからは強烈な好奇心は感じるものの、敵意は感じない。恐らく悪気はないのだろう。ロムたちを煽っているのも無意識なのかもしれない。
「ふむ、死体を土に埋めて養分にするということかね?」
「そういう危険思想は抱いていないです」
「成る程面白い! 是非やってみよう!」
「話聞いてます?」
先程と打って変わって嬉々としてシャベルを持ち地面を掘り始めるフクロウにスズメは溜め息を吐く。この人全然他人の話聞かないな。ロムとハークはといえば納得いかないとでかでかと顔に書いたまま、ハークが能力で出したシャベルで同じく土を掘っている。コマドリが一人遺体を引き摺っていたので、スズメはそちらを手伝うことにした。
「手伝います」
「あら、ありがとう」
「大分腐敗が進んでますね。コマドリさん大丈夫ですか?」
虫が集っている遺体を運ぶのは心にくる。スズメはコマドリを心配して尋ねた。しかしコマドリは悲しげにしながらも「大丈夫よ」と続ける。強い人だ。
「コマドリさんて儚いイメージだったんですけど、芯の強い方ですよね」
先程のフクロウとの会話といい、今といい、コマドリはその見た目に反して心が強い。しっかりとした芯が一本スッと通っている。スズメはその姿を純粋に格好良いと思った。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも前途多難ね。あのフクロウって人、ハークと支部長とは相性が悪いみたい」
「そうですね・・・・・・」
ロムとハークは完全にフクロウを嫌っているし、このまま五人で任務にあたらないといけないとなると頭が痛くなる。一体どうなることやら。
全員で遺体を埋め終わると、フクロウは早く能力を見せてくれとスズメを急かした。
スズメは仕方なく果実の種を取り出すと、『庭師』の称号の能力で育ててみせる。
「素晴らしい! 一瞬にして林檎が実った!」
フクロウは感心してぐるぐると林檎の木の周りを回り、観察する。そして実を捥ぐとナイフを取り出し、一部を切り取った。そのまま食べるのかと思いきや、背中に背負っている怪しげな機械を下ろして切り出した実をセットする。スイッチを入れると、甲高い音がして計器の針が右に左にと振れ出した。
そうして暫くすると、計器は再び零の値を指して沈黙する。
「これは興味深い・・・・・・ここで育つ作物はみな毒素を持っていた。もちろん林檎もだ。水だけでなく土壌全体が毒で侵されているからな。しかしスズメくんの能力で出来たこの林檎には一切毒が含まれていない」
「それは・・・・・・いい事なのでは?」
「僕は物事を良い悪いで語るつもりはない! そんなのはナンセンスだ! つまり僕が言いたいのはだね、スズメくんの能力は周りの環境に左右されない力だということさ!」
これは凄い発見だよ! と騒ぐフクロウにスズメたちは完全に置いてけぼりをくらう。
「もっとたくさんデータが欲しい! こうしてはいられない! 早く川の上流へ行こうじゃないか!」
「お前が仕切るなよ!」
ハークが怒鳴るがフクロウの耳には届かない。一人でどんどん先の道へ進んでいく。
「ああもう! 仕方ねぇな!」
ハークは悔しがりながらもその後を追う。暫く呆けていたロム、コマドリ、スズメも慌ててそれに続いて、一同はスズランが植っていると思われる場所を目指した。
次の日、ロムたちは村人の回復を待ってから食料と水を分け、東の都を目指すように言い含めた。そして自分たちもスズメの能力で補給を済ませると更に東を目指して出発した。予定ではこの先にある村で自警団中央本部が派遣した研究者と落ち合う手筈になっている。
「次の村が最後の村ですね」
「ええ。酷いことになってないといいけれど」
地図によると次の村が人の住む最東端の村だ。一人でも多くの人が生き残っていたらいいのだが。
しかしその期待は最悪の形で裏切られる。
「なんだこれは・・・・・・!」
そこに広がっていたのは正しく地獄だった。あちこちに人が倒れ、腐敗して異臭を漂わせている。とてもじゃないが、生きている者がいるとは思えない。
ロムたちが絶句していると、
「やぁ来たね」
後ろから若い男の声が響いた。
ばっと振り向けば自警団員の制服。しかもその上に白衣を羽織っている。毛先が外跳ねしている茶髪に大きな眼鏡。金色の瞳。大きな四角い器具を背中に背負い、ゴム手袋をつけて佇んでいる。まさかこの男が。
「中央から派遣された研究者!?」
「いかにも」
男は頷くと、座面に覆い被さっている遺体をどかして椅子に座った。
「ちょっ! あんた何やってんだ!」
慌ててハークが怒鳴るが、研究者はどこ吹く風だ。涼しげな顔で笑ってすらいる。
「この村はもう駄目だ。全員死んでる」
「だからって遺体を乱暴に扱うなよ!」
「何を怒っているんだい? もう死んでいるんだよ。どう扱ったって生き返る訳でもない」
冷たい声で言って男は片手を差し出した。
「僕はフクロウ。君たちのサポートをするように言われて派遣されてきた。まぁ僕個人としては・・・・・・」
黄金色の瞳がきゅっと細められる。その視線の先にはスズメがいた。
「『庭師』の称号ってのを研究したくてやってきたんだけどね」
「・・・・・・!」
ロムがその視線から守るようにスズメとフクロウの間に割り込む。そして無理矢理笑顔を顔に貼り付けると、差し出された手を握り返した。
「君の役割はスズメの研究じゃなくて川の水の研究だろう?」
「あっちの彼はスズメくんというのか。よろしく頼むよ。何せ植物を育てる能力なんて今まで聞いた事がない! 研究意欲が湧くってものさ!」
フクロウはロムの言葉など聞こえていないのか、興奮した様子で捲し立てた。ロムの額に青筋が浮かぶのをスズメだけが視認する。やばい相当怒ってる。スズメは思わず後退りした。隣を見ればハークも歯軋りしてフクロウを睨みつけている。一触即発な空気にスズメは却って冷静になった。どうしよう。悩んでいたら後ろからスッとコマドリが進み出た。
「とにかく遺体を埋葬して川の上流に向かいましょう」
「遺体を埋葬? そんな事して一体何の意味があるんだい?」
成る程フクロウという男はモラルというものを何処かに落としてきたらしい。もう死んでいる、無意味な行為だと主張して引こうとしない。仕方ない。スズメは大きく息を吸い込んだ。
「遺体を埋葬し終わったら、フクロウさんに私の力を見せてあげてもいいですよ!」
「スズメ!」
「だってここで押し問答してる時間勿体無いじゃないですか」
咎めるロム。しかしスズメは大丈夫だとロムを宥めた。フクロウからは強烈な好奇心は感じるものの、敵意は感じない。恐らく悪気はないのだろう。ロムたちを煽っているのも無意識なのかもしれない。
「ふむ、死体を土に埋めて養分にするということかね?」
「そういう危険思想は抱いていないです」
「成る程面白い! 是非やってみよう!」
「話聞いてます?」
先程と打って変わって嬉々としてシャベルを持ち地面を掘り始めるフクロウにスズメは溜め息を吐く。この人全然他人の話聞かないな。ロムとハークはといえば納得いかないとでかでかと顔に書いたまま、ハークが能力で出したシャベルで同じく土を掘っている。コマドリが一人遺体を引き摺っていたので、スズメはそちらを手伝うことにした。
「手伝います」
「あら、ありがとう」
「大分腐敗が進んでますね。コマドリさん大丈夫ですか?」
虫が集っている遺体を運ぶのは心にくる。スズメはコマドリを心配して尋ねた。しかしコマドリは悲しげにしながらも「大丈夫よ」と続ける。強い人だ。
「コマドリさんて儚いイメージだったんですけど、芯の強い方ですよね」
先程のフクロウとの会話といい、今といい、コマドリはその見た目に反して心が強い。しっかりとした芯が一本スッと通っている。スズメはその姿を純粋に格好良いと思った。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも前途多難ね。あのフクロウって人、ハークと支部長とは相性が悪いみたい」
「そうですね・・・・・・」
ロムとハークは完全にフクロウを嫌っているし、このまま五人で任務にあたらないといけないとなると頭が痛くなる。一体どうなることやら。
全員で遺体を埋め終わると、フクロウは早く能力を見せてくれとスズメを急かした。
スズメは仕方なく果実の種を取り出すと、『庭師』の称号の能力で育ててみせる。
「素晴らしい! 一瞬にして林檎が実った!」
フクロウは感心してぐるぐると林檎の木の周りを回り、観察する。そして実を捥ぐとナイフを取り出し、一部を切り取った。そのまま食べるのかと思いきや、背中に背負っている怪しげな機械を下ろして切り出した実をセットする。スイッチを入れると、甲高い音がして計器の針が右に左にと振れ出した。
そうして暫くすると、計器は再び零の値を指して沈黙する。
「これは興味深い・・・・・・ここで育つ作物はみな毒素を持っていた。もちろん林檎もだ。水だけでなく土壌全体が毒で侵されているからな。しかしスズメくんの能力で出来たこの林檎には一切毒が含まれていない」
「それは・・・・・・いい事なのでは?」
「僕は物事を良い悪いで語るつもりはない! そんなのはナンセンスだ! つまり僕が言いたいのはだね、スズメくんの能力は周りの環境に左右されない力だということさ!」
これは凄い発見だよ! と騒ぐフクロウにスズメたちは完全に置いてけぼりをくらう。
「もっとたくさんデータが欲しい! こうしてはいられない! 早く川の上流へ行こうじゃないか!」
「お前が仕切るなよ!」
ハークが怒鳴るがフクロウの耳には届かない。一人でどんどん先の道へ進んでいく。
「ああもう! 仕方ねぇな!」
ハークは悔しがりながらもその後を追う。暫く呆けていたロム、コマドリ、スズメも慌ててそれに続いて、一同はスズランが植っていると思われる場所を目指した。
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