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第四章
思い出した
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冷たい水の中。暗闇に沈んでいた意識を呼び起こすように歌が聞こえる。
『草花は毒に包まれて―――死が迫ってくる―――怒れる大地よ鎮まれ』
聞き覚えのある歌だ。そうだ。これはコマドリが歌っていた歌。いや、だけれども何か違和感がある。自分はもっと前からこの歌を知っていた。物心つくよりも早くに。
スズメは水の中を揺蕩いながら歌に耳を傾ける。
『今一人小さな命立ち上がりぬ―――枯れた砂漠に命が芽吹く―――はじまりの種再び落ちて―――』
『毒は薬に、海は穏やかに―――命の木再び茂らん』
今一人小さな命。ああこれは自分のことだ。
命の木、これはメタセコイアの木。
はじまりの種を植えて茂らせるのはスズメに託された使命。走馬灯のように遺伝子に刻み付けられた記憶が再生される。
荒廃し、汚染された世界。絶滅しかけた古代人。
真っ白な研究室にまだ命にもなっていないスズメは確かにそこにいた。
まだ息のある者は腐っていく身体を機械に繋ぎ何とか命を繋ぎ止めている。
一人、また一人と倒れる中、最後に残った一人は呟いた。
「やっと、成功した」
その言葉は男の最期の言葉となった。
スズメを創り上げた人間の、最期の言葉だ。
思い出した。自分には使命があった。自然の脅威から世界を守り、自然と共存する未来をつくること。以前間違えてしまった人類に託された希望を現実にすること。そのためにスズメは生み出された。
スズメだけではない。鳥人は皆、古代人により引き継がれた命を生きているのだ。
ああ、だとするならば早く動かねばならない。早くメタセコイアの木を育てなくては。
しかし身体は一切動かせず、息も出来ない。このまま死んでしまうのだろうか。託された使命を果たせないまま。ヨルと約束した平和な未来をつくれぬまま。ロムや仲間たちを置き去りにしたまま。
(スズメ・・・・・・!)
諦めかけたその時、スズメを呼ぶ声が聞こえた。何度も何度もしつこいくらいに必死に。肩を揺さぶられ、ふっと息が出来るようになる。動かなかった四肢も動かせるようになって、漸くスズメは重い瞼を開いた。
(ロム・・・・・・)
目の前には柄にも無く焦った様子のロムがいた。助けに来てくれたのか。
自然と口元が弧を描く。良かった。これで使命が果たせる。
スズメは咄嗟にメタセコイアの木の種を掴み、思い切りロムの身体を突き飛ばした。
再び視界を奪う植物の蔓たち。しかし今度はうまくやってみせる。
スズメはメタセコイアの種に思い切り力を注ぎ込んだ。植物たちが動揺するのが伝わってくる。
『何故滅びに抗う』
語り掛けてきたのは自然そのものを司る何か。しかしスズメは臆することなく種を温め続ける。
『何度滅ぼしても生まれてくる忌々しい生き物』
『私たちを蹂躙し、世界を喰らい尽くす害獣』
『醜く争い合い、すべてを焼き尽くす愚か者ども』
『最後に滅ぼしたあの科学者の人間・・・・・・余計なものを後世に遺したな』
しきりに鳥人のような知的生命体は滅びるべきだと叫ぶ声。しかしスズメは真っ直ぐ前を向いて心の中で念じる。
(もう決して間違えないから。もし間違えたら今度こそ滅ぼしていいから。だから)
(生きることを取り上げないで)
『―――その言葉ゆめゆめ忘れるな』
最後に聞こえた言葉の後、さっと視界が開ける。蔓達が拘束を解いたのだ。
(『庭師』の称号―――生い茂れ、メタセコイアの種よ!)
メタセコイアはスズメの力を受けて瞬く間に地面に根付き、天高く伸びて生い茂った。そして鈍く緑色に輝くと、川の毒素を浄化して群生するスズランを全て枯らしていく。
(やった・・・・・・)
スズメはメタセコイアの木に出来たうろの中でぱたりと倒れる。
その前にいたのは先程水の中で突き飛ばされたロムだった。
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