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【4】ひと休みしましょうじょ?
4-4
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◇
『それからのご主人サマは何処か上の空でした。
気が付けばベランダで煙草を吸って、四六時中使っていたパソコンはここ数日電源すらいられていません。
元気づけてあげようと夕食にオムライスを作ってあげようとして、電子レンジの中で卵を爆発させてしまっても、静かな物です。面倒な顔もせずに黙って片付けをしてくれるのです。
変な話なのですが、怒らないご主人サマはなんだかご主人サマらしくないのです。
私はどうすれば良いんでしょう?』
そんな書き込みを見つけたのが夕食の準備を終えて、そろそろ圭介さんがお風呂から出て来るかな? って頃でした。私はキーボードをしばらく叩いて文字を打ち――、少し悩んで「クリア」のボタンを押します。
「どうして上げれば良いか、なんて私が言えた義理じゃないわね……」
同じマンションに派遣されて来たマキちゃんは私よりも幼い子で、最初は色々と心配だった。それもなんだか無愛想で、目つきの悪いご主人様だったから余計に――、まぁそれもすぐ杞憂に終わったのだけど。
「……良いご主人様で良かったね」
あの日、岸田様のお家にお邪魔した日。佐々木様はマキちゃんの手を取ってあの部屋から出て行った。戸惑う彼女を連れて……。
その事が何を意味するのかは明白であり、閉ざされた扉が圭介君との違いを明白に物語ってる様に思えた。
私達の本分は契約した相手に尽くし、その心の傷を癒して上げる事。
マキちゃんの場合、何かの手違いであの人の元に派遣されたんだろう。聞いた話だと奥さんを亡くして落ち込んでるらしい。なら、「奥さん」の代わりになるパートナーが派遣されるべきで、あの子の年代の子が派遣される訳が無い。その重荷を彼女の小さな体で背負えって言うのは余りにも無茶な話だ。
本当ならいますぐにでも本社にコールを入れて、新しいパートナーを派遣してもらう所なのだけど――そうはしなかった。彼女なりにご主人様に何かをしたいと相談して来た事を思うとそうは出来なかった。
「……オムライスは失敗しちゃったみたいだけどね」
けれどその事実が何となく、チクりと胸に突き刺さった気がした。
「みこのー? おーい、ミコノ―」
「ぁ、はーい」
お風呂場から圭介君の声に慌てて立ち上がり、タオルを持って向かう。
彼が求めていたのは「恋人」。自分に従順な恋人――だから私はそのように振る舞う。
「遅いよミコノ、寒いじゃないか」
「ごめんなさい、圭介さん。さあこちらに」
言ってタオルを広げ、彼を包み込む。湿った髪が頬にくっつき、お風呂場からの湯気で少し息苦しい。夜になると少し冷えるからその熱気は寧ろ心地よかったりするのだけど――、
「なぁ、ミコノ――、」
「ぁっ……」
突然圭介さんの腕が後ろに回され、驚いて小さく悲鳴を上げた。
「このまま、いい?」
彼が言わんとしている事はこれまでの経験で知っている。それに密着した彼の体からは固い物が腹部にぶつかって来ていて、私には小さく頷く。
「――はい……」
同時に彼の腕が私の体を抱きしめ、ほんのり湿った体に包まれると何故か胸の奥が苦しくなる。
敏感に反応し続ける体に反して、頭は冷静で、ぼんやりと岸田さんの部屋にある人形の事を思い出して――、扉の向こう側に消えて行くマキちゃんの姿を思い浮かべていた。
……きっとあの子なら、こんな事許さないんだろうな……?
チクリ、チクリと痛み続ける何かに、その日の私は、少しだけ涙を流してしまいました。
◇
『それからのご主人サマは何処か上の空でした。
気が付けばベランダで煙草を吸って、四六時中使っていたパソコンはここ数日電源すらいられていません。
元気づけてあげようと夕食にオムライスを作ってあげようとして、電子レンジの中で卵を爆発させてしまっても、静かな物です。面倒な顔もせずに黙って片付けをしてくれるのです。
変な話なのですが、怒らないご主人サマはなんだかご主人サマらしくないのです。
私はどうすれば良いんでしょう?』
そんな書き込みを見つけたのが夕食の準備を終えて、そろそろ圭介さんがお風呂から出て来るかな? って頃でした。私はキーボードをしばらく叩いて文字を打ち――、少し悩んで「クリア」のボタンを押します。
「どうして上げれば良いか、なんて私が言えた義理じゃないわね……」
同じマンションに派遣されて来たマキちゃんは私よりも幼い子で、最初は色々と心配だった。それもなんだか無愛想で、目つきの悪いご主人様だったから余計に――、まぁそれもすぐ杞憂に終わったのだけど。
「……良いご主人様で良かったね」
あの日、岸田様のお家にお邪魔した日。佐々木様はマキちゃんの手を取ってあの部屋から出て行った。戸惑う彼女を連れて……。
その事が何を意味するのかは明白であり、閉ざされた扉が圭介君との違いを明白に物語ってる様に思えた。
私達の本分は契約した相手に尽くし、その心の傷を癒して上げる事。
マキちゃんの場合、何かの手違いであの人の元に派遣されたんだろう。聞いた話だと奥さんを亡くして落ち込んでるらしい。なら、「奥さん」の代わりになるパートナーが派遣されるべきで、あの子の年代の子が派遣される訳が無い。その重荷を彼女の小さな体で背負えって言うのは余りにも無茶な話だ。
本当ならいますぐにでも本社にコールを入れて、新しいパートナーを派遣してもらう所なのだけど――そうはしなかった。彼女なりにご主人様に何かをしたいと相談して来た事を思うとそうは出来なかった。
「……オムライスは失敗しちゃったみたいだけどね」
けれどその事実が何となく、チクりと胸に突き刺さった気がした。
「みこのー? おーい、ミコノ―」
「ぁ、はーい」
お風呂場から圭介君の声に慌てて立ち上がり、タオルを持って向かう。
彼が求めていたのは「恋人」。自分に従順な恋人――だから私はそのように振る舞う。
「遅いよミコノ、寒いじゃないか」
「ごめんなさい、圭介さん。さあこちらに」
言ってタオルを広げ、彼を包み込む。湿った髪が頬にくっつき、お風呂場からの湯気で少し息苦しい。夜になると少し冷えるからその熱気は寧ろ心地よかったりするのだけど――、
「なぁ、ミコノ――、」
「ぁっ……」
突然圭介さんの腕が後ろに回され、驚いて小さく悲鳴を上げた。
「このまま、いい?」
彼が言わんとしている事はこれまでの経験で知っている。それに密着した彼の体からは固い物が腹部にぶつかって来ていて、私には小さく頷く。
「――はい……」
同時に彼の腕が私の体を抱きしめ、ほんのり湿った体に包まれると何故か胸の奥が苦しくなる。
敏感に反応し続ける体に反して、頭は冷静で、ぼんやりと岸田さんの部屋にある人形の事を思い出して――、扉の向こう側に消えて行くマキちゃんの姿を思い浮かべていた。
……きっとあの子なら、こんな事許さないんだろうな……?
チクリ、チクリと痛み続ける何かに、その日の私は、少しだけ涙を流してしまいました。
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