僕の考えた最強ホラー

からし

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票ノ顔

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「“見た”人間は、選挙で“顔が消える”」
大学時代、政治記者志望だった友人・水野が呟いた言葉が、今でも頭から離れない。

水野は就職して2年で自殺した。
原因は“精神の不調”とされたが、俺は納得していなかった。

なぜなら、彼が死ぬ直前に俺に送ってきたLINEには、
「やつらは人間じゃない。票に“顔”がある」とだけ書かれていたのだから。

俺は今、都内の選挙管理委員会で臨時職員をしている。
期日前投票が終わり、深夜の開票作業が始まる。
関係者以外立ち入り禁止の開票所に、俺はこっそりスマホを忍ばせた。

「水野が見た“何か”を、俺も確かめてやる」
そのつもりだった。

だが、俺はその夜、絶対に知ってはいけないものを見てしまった。

開票所はピリピリとした空気。
深夜2時、職員の一人が投票箱の封を切る。

中から出てきた票を仕分けする瞬間――

ふと、俺の目がある一枚の票に止まった。

その票には、文字の代わりに“人の顔”が描かれていた。

正確には、描かれたのではない。
顔の皮膚のようなものが、紙に張り付いていたのだ。

ぞっとして目を逸らそうとしたが、次の票、また次の票にも……同じように“顔”があった。

どれも、無表情で、薄ら笑いを浮かべた顔。
だが、目だけが動いている。こっちを、見ている。

職員たちは平然と作業を続けている。
いや――顔のある票を、何事もなかったように重ねていく。

「票の顔、見るなよ」
隣の若い職員が、誰にも聞こえないように口だけを動かして囁いた。
「見続けると“選ばれる”ぞ」

その瞬間、強烈な耳鳴りと共に、世界がぐにゃりと歪んだ。
周囲の音が消える。

気づけば、俺は無人の会場に立っていた。

投票箱が一つだけ、中央に置かれている。
中を覗くと――俺の顔が、票の一枚一枚に浮かんでいた。

鏡のように映る、自分自身の顔。
笑っている。笑いながら、何かを言っている。

「君も、これから“選ばれる”。」

翌朝、俺は意識を失った状態で開票所の倉庫で発見された。
警察の調査は「過労による意識障害」と処理された。

だがそれ以降――
どの鏡を見ても、自分の顔が少しずつ変わっている。

昨日と違う。
今日の俺の顔は、あの票の中の“誰か”に似ている。

やつらは人間の形を“票”に焼き付け、
その中から次の“器”を選んでいるのだ。

つまり、今の政界を動かしているのは――

人間のフリをした“票の顔”たちだ。
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