僕の考えた最強ホラー

帰り道

遅い時間、仕事を終えた私はいつものように駅から自宅までの道を歩いていた。
冷たい風が頬をなで、足元は薄暗く、静かな街の雰囲気が心地よい。
帰り道には特に何も変わったことはなく、ただ日常が続いているだけだった。

家に着くまでの道のりは、ほんの数分。しかし、近頃、毎晩この道を歩くたびに、どこか不安を感じるようになっていた。背後から視線を感じることが増えたのだ。最初はただの錯覚だと思い、無視して歩き続けた。

だが、ある夜。いつも通り駅から出た私は、足元の影が妙に長く感じた。振り返ってみても、誰もいない。周囲にはほとんど人影はなく、歩いているのは私一人だ。

「気のせいだ、きっと。」

そう自分に言い聞かせて、歩き続けた。だが、数歩進むと、今度は明らかに足音が聞こえてきた。自分の足音ではない、誰かの足音が。私の後ろから、ぴったりとついてくるような足音。

再び振り返ったが、やはり誰もいない。

「おかしいな…」

私は少しペースを速め、無意識に歩幅を広げた。だが、その足音も次第に速くなっていく。まるで、私の歩調に合わせているかのように。

冷や汗が背中を流れ、足音がどんどん近づいてくるのを感じた。何度も振り返りたかったが、怖くてできない。背後に誰かがいるということが、どうしても信じられなかったからだ。

「もうすぐ家だ、もうすぐだ。」

自分にそう言い聞かせて、歩き続けた。しかし、その足音はますます近づいてきた。とうとう耐えきれず、私はついに振り返った。

その瞬間、目の前に何もいないことが分かり、ホッとしたのも束の間、再び足音が私の真後ろで鳴った。まるで誰かが、今にも背中に触れそうなほど接近している。

驚いて振り返ると、そこにはやはり誰もいなかった。

「もう、やめてくれ…」

私は心の中で叫びながらも、足を速め、家に着くことだけを考えた。そのとき、ふと通り過ぎた暗がりの中に人影が見えた。人影というよりも、ただの黒い塊のようなものだったが、それが私をじっと見つめている気がした。

目を逸らすと、その影がすぐに消えた。その瞬間、冷たい風が吹き抜け、再び背後から足音が聞こえてきた。今度こそ、確実に誰かが歩いている音だった。

「誰だ！」

私は叫びながらも、足を止めずに家に向かって走った。家が見えた瞬間、安堵の気持ちが湧き上がったが、ふと気づいた。

ドアの前に立っている自分がいた。

「え？」

一瞬、目の前が真っ白になった。私は今、ドアの前に立っているのに、後ろからも足音が近づいてくる。振り返ると、そこには…私が見たことのない、見知らぬ自分が立っていた。

その自分もまた、私と同じように恐怖を感じている様子で、目が見開かれていた。私が叫ぶ間もなく、その自分はゆっくりと近づき、私の目の前で立ち止まった。

「…お前、誰だ？」

私は震えながら声を出した。すると、その自分が口を開けた。

「お前…俺なんだ。」

その声が、私の声だった。

その瞬間、全てが暗闇に包まれ、気づくと私はもう家の中にいた。背後のドアは閉まっていて、足音も、見知らぬ自分も、何もかもが消えていた。

だが、何かが違った。部屋の中にあるはずの物が、ひとつだけ無くなっていた。それは、私が帰る前に必ず置いていたはずの、家の鍵だった。

そして、どこか遠くからか、再び聞こえた。

「お前、まだ帰れないよ…」

その声が、あの暗い道からずっと、私を追いかけてきているような気がしてならなかった。

私は深い恐怖に包まれながら、窓の外を見つめた。そこには、夜空を照らす月が、どこか不気味に輝いていた。