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しおりを挟むテオバルトは視線をうろうろとさせた。落ち着きのないこと。何だこいつ、国の英雄なんじゃ無いのか。
「は、母上とどんな……」
「全部です」
「ぜ、全部」
「王妃とは名ばかりで、公務だけして離宮に監禁。国王陛下とは、あなたを身籠ってから、閨を共にしてないと」
「ね、閨!乙女がなんて言葉使いを!」
なんだ、こいつカマトトか。顔が赤いぞ。
「王妃陛下の同じような立場になる王女殿下へのご配慮ですよ」
そこにリヒャルトが、冷静に突っ込む。
「そうです」
リヒャルトの言葉に私が頷くと、テオバルトは捨てられた子猫のように、目を潤ませてこっちを見た。
「だから、私は婚約者とは……」
「距離を置いていたと言うことでしょう?」
私が突っ込むとテオバルトがぐっと詰まる。
「あなたが先祖返りで、番を探していることは知っています。ですから、国内であなたと契約で結婚してくれる人を見つけて、子供を作って下さい。もちろんその人にメリットがあるように取り計らってですよ。それを望まない他国の王女を、生け贄にするのは、もうやめて下さい」
これは真剣なお願いだ。王女に生まれたら政略結婚は定めでもある。でも最初から望まれない、しかもいつ夫に番が見つかるかびくびくと怯える生活は嫌なのだ。
「……生け贄……」
テオバルトは呆然として、私の言った言葉を繰り返す。
「王太子殿下は現在軍を掌握していらっしゃる。はっきり言って、軍事大国のこの国の根幹を握っている。そんな方が番至上主義なのなら、なぜ自分の権力を使わないのです。周りに押し付けられた弱小国の王女から逃げ回ってる場合じゃない!」
バンっと壁を叩いてやった。地味に手のひらが痛い……。
その音にテオバルトがびくりとした。
「王女殿下の言われる通りですね。番でないと嫌なら、他国の王女殿下との婚約は解消するべきです。そして子供の少ない王族の義務として、子供を作るだけ、愛情は無いと言うことを受け入れてくれる貴族令嬢を探すべきです。アデリナは駄目ですが」
リヒャルトに重ねて言われて、立っていたテオバルトがどさりと腰からソファに崩れ落ちた。
「……番の見つからない事に気を取られて、全く周りに気を使っていなかった。母上の置かれた立場も知っていたのに、何もしなかった。権力か……たしかに私に強く意見できるのは、リヒャルトとアーダルベルトくらいだな」
訥々と言うけれど、アーダルベルトって誰?
「あのう、呼んでおいて僕のこと忘れていませんか」
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