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 テオバルトは立ち上がって、私の手を握ったまま、顔をリヒャルトの方に向けた。

「リヒャルト、私は決めたぞ」

 どうでもいいから、手を離してくれ。と思うが弱小国の王女の悲しさ。言いたいことは言ったが、流石に手を振り払うことはできない。でも、これ以上触ったら、また、扇で殴って…あれ?すでに殴っていた。今更だなと手を引き抜こうとしたが、ぬ、抜けない。私がテイバルトから手を引き抜こうと頑張っていると、リヒャルトが霜柱を立てながら、テオバルトと向き合っていた。

「決めたとは?」

「おまえ達が開発してくれた番を感知できなくなる魔道具を身につけることをだ」

「番はもういいのですか」

「本能に従えば良くない。だが、私は動物ではない。動物にはない義務がある。そしてエレオノーラに出逢ってこんなに惹かれるということは、これは人間の恋愛感情なのだと悟った。エレオノーラにしてきたことは消えないが、番を感知できない魔道具を身につけることで、エレオノーラが安心してくれて、私との婚姻に前向きになってくれる材料の一つにしたい」

 それを聞いて霜柱があっという間に水も残さすずに溶けて消えた。優しいな。いや、甘いのではないか。もっと怒りをぶつけて欲しい。テオバルトに諫言できる数少ない一人なんだから。

「よくこんなに短い間に決心が付きましたね。ああでもない、こうでもないと数年は待たされるのかと思いましたよ」

 あ、霜柱は消えても結構辛辣だ。もっと言ってくれ。

「エレオノーラのおかげだな」

 そういえば、なにか、さっきから私のことを呼び捨てにしてない?図々しいな。文句言ってやると思って口を開こうとしたら、テオバルトの力強い声にかき消された。

「それで、その魔道具はいくつから身につければ番への本能とさよならできるのか?」

 今度はニックの方を向いて尋ねた。急に声をかけられたが、ニックは飄々とした雰囲気のまま銀縁眼鏡の縁を持ち上げて答えた。

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