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第一章 前世
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しおりを挟むそう言ってギルバートは、国王が退場したから呆然と立っているローゼンベルガーを見据えて、片手を挙げた。ローゼンベルガーの後ろから数人が走り込み、ローゼンベルガーのローブを脱がせて取り上げた。
「おまえら何をする!」
油断していたのかローゼンベルガーは易々と己を守る魔術陣のローブを失った。ギルバートが無言でローゼンベルガーに向かって魔術陣をぶつけた。ローゼンベルガーはそのショックで後ろに倒れ込んだ。
「これであなたはもう魔術を展開できない」
ギルバートはローブを取り上げた魔術士達に、ローブを焼却するように伝えて、尻餅をついているローゼンベルガーの前に立った。
「アネットはコンラート殿下が悩んでいることを察して、自分の研究を手にして、あなたに魔道具を作れないか相談した。でも、あなたはアネットの研究を見て、相談されても内心手伝う気など起こさなかった。そう、あなたはアネットに嫉妬していたのです。自分が成し遂げる事ができないことを、十代半ばで成し遂げようとしていたアネットに。だから魔道具を作るアドバイスどころか、邪魔をしたのだ。コンラート殿下が婚約破棄する時までに、間に合わなかったアネットは焦って自分を魔道具に使うしか無くなった。それにあなたは、アネットに自分が魔術士の才能があることを、コンラート殿下に黙っているように言いましたね。器が魔術士だと魔力を利用すると誤解されて、公爵家が反逆罪に問われると。それでアネットは怖くて誰にも相談できなくなった!」
ギルバートは床に座り込んで、立てないローゼンベルガーの手の甲を靴のかかとでぎりぎりと踏み付けた。
「全て、あなたのちっぽけな自尊心をまもるために!あの子を見殺しにしたのだ。その上アネットの魔術陣を、周りに知られない様に秘匿した。国王とはその点で利害が合ったのだろうな」
ギルバートは血を吐くように叫んだ。それを見ていた王太子が声をあげた。
「ローゼンベルガー!魔術庁長官を罷免する。この男を牢につなげ!」
衛兵達に連行されながらローゼンベルガーは叫んだ。
「器のくせに才能にあふれているなどと生意気だ!器は利用されていればいいんだ。私の魔術士としてのプライドを打ち砕いたあの女が悪いんだ!」
その言葉はその場にいる各家当主達の心を一層頑なにさせるに充分だった。
それから、その場に残された各家当主達は他言しない魔術を魔術士達と取り交わして、解散していき、残ったのは王太子とギルバートのみだ。
「ギルバート卿、アネットと兄上の身体を使わなくてもいいように魔道具の開発を急がないとな。あなたに次の魔術庁長官を任せたい」
「結界の魔道具ができるまでは、お引き受けいたします。一刻も早く魔道具を発明して、あの二人を輪廻の輪に戻してやりたい」
王太子は頷きながら、懐から手紙を取り出してギルバートに渡した。
「このアネット嬢の遺書をお返しする」
「これはアネットの残した大事なものです。各家に根回しして、王太子殿下とも打ち合わせてやっとスタートに立てました。……コンラート殿下が目覚める時と同じくするとは思っていませんでしたが、これもアネットの導きかもしれません。アネットは愛するコンラート殿下と一緒に眠れて幸せでしょう」
ギルバートはドミニクから手紙を受け取り、去って行った。
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