忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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 ノンナはちらりとレオンハルトを見てから口を開いた。

「バーデン伯爵令嬢から手紙が来ました。お嬢様に見せていただいたのですが、自分がいかに公爵様に愛されているか事細かに書いてありました。結婚後ずっと領地に置き去りになっている愛されない妻と自分は違うと。疑うなら王宮主催の舞踏会に公爵様にエスコートされていくから確かめろと」

 レオンハルトが怒りを露わにした。

「どう言うつもりだ。失礼にも程がある。あの令嬢とはなんでもない。バーデン伯爵家と取引の可能性が出来てから何度かあっただけで、エスコートを頼まれただけだ」

「本当になんでもないなら断るべきだったでしょう?まだ取引も始まった訳でもない家に考慮してあげる必要ありましたか?レオンハルトに憤る資格はない」

 レオンハルトは強い言い方で諫めるユリアを唖然として見つめてから言葉をこぼした。

「……その通りだ。付け込まれる隙を作るのは隙のある私だな……ダンスを強請られて断った時にせめて一杯一緒に飲んで欲しいと飲み物のグラスを握らせて飲まされそうになった。近くにいた給仕に渡して喫煙室にすぐ行ったが、あれにも何が入っていたかわからないな」

 レオンハルトは首を振って俯いた。

「そもそも私が全て間違えている。ノンナやユリアに何を言われても仕方がない。でも離縁はしない。絶対だ。頼むから捨てないでくれ」

 レオンハルトはノンナがそこにいるのに羞恥もなく言葉を紡ぐ。ノンナが決心したように顔を上げた。

「私は使用人です。ですが長い間お嬢様をお見守りしてきたと言う自負がございます。思い切って無礼を承知で言わせていただきますが、公爵様はどう言うおつもりなのでしょうか」

「どう言うとは?」

「幼い頃の貴族の子息とは思えぬ子女に対する仕打ち。学園入学後の浮気。そして婚姻後二年も放置。他の人が聞いたら持参金で家を立て直させて白い結婚で追い出すつもりだろうと誰でも言います。実際エーレンフェスト家のクラウス様はそう言う意見で直ぐ連れて帰って来いと言われています。それなのにここに来ての振る舞いを見させて頂くと公爵様はお嬢様と婚姻を続けたいご様子」

「結婚した時から離縁なんて考えていない。婚姻後二年放置したのは理由があったけれど、つべこべ言わずに行動すればよかった。こう言うところが隙になるんだろうと思う」

 そう言うレオンハルトをノンナは見下ろして

「お嬢様はバーデン伯爵令嬢からの手紙を読んで、王宮の舞踏会の一週間前にお嬢様に譲られたエーレンフェスト家の別邸に入られました。そしてクラウス様にエスコートをお願いして入場されました。しばらくして控室で待っておりました私のところに血相を変えて戻って来たお嬢様が帰りたいとぐったりされるので、クラウス様に言付けてエーレンフェスト家の馬車で帰りました。その数日後公爵家の邸に訪ねて行かれ、あの女に会ってしまったのです」

 そうかあの夢は本当にあった事なんだ。レオンハルトがバーデン伯爵令嬢をエスコートする姿だけ見て逃げ帰ったのか。情けない。
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