忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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「お嬢様着きました」

 ノンナがそう言って先に馬車を降り、御者が馬丁に馬を渡していた。
 レオンハルトがさっと馬車を降りユリアに手を差し伸べた。
 記憶が無くなってから普通の仕草だったのでユリアも手を預けて降りようとしたらノンナがびっくりした。

「お嬢様 公爵様がお嬢様に手を差し伸べるのを初めて拝見いたしました」

 と呟いた。小さい声だけれどユリアにははっきり聞こえた。もちろんレオンハルトにも聞こえただろう。バツの悪い顔をしたけれど手を取り腰に手を当て抱きかかえる様に馬車から降ろした。そこに執事らしき男性が出てきた。

「お嬢様お帰りなさいませ。公爵邸に行ってくるとおっしゃってお出かけになってずっと帰っておいでにならないので使用人全員気を揉んでおりました」

「ごめんなさい。記憶が飛び飛びでここの邸の事は何も覚えてないの」

「左様でございますか。ご当主様から経緯は伺っております。私は本邸の時からお嬢様付きでございましたマルコでございます」

 マルコは瞳に涙の膜が出来ていた。本当に心配してくれたのだろう。覚えてないのが本当に申し訳ない。そしてマルコの先導で広いサンルームでお茶を飲むことにした。

「お嬢様がお好きな5番のハーブティーでございます」

 年嵩のメイドが入れてくれる。

「私の好み知ってるのね」

「私も公爵家の領地までお供したノンナほどではございませんが、本邸においでの時のお嬢様付きでございました。こちらのお邸をお嬢様が大旦那様から譲られた時に志望して移りましたハンナと申します」

「じゃあ私を前から知ってるのね。覚えてなくてごめんなさい」

 そう謝るとマルコと同じ様に涙ぐんで見つめてくれた。マルコがレオンハルトの前にガラスのティカップをソーサーに乗せて置いた。

「公爵様 本日はどのようなご用件でございましょうか。お嬢様を送っていただいたのでしょうか」

 どうもここの使用人達はレオンハルトに含むところがあるらしい。それはこれまでのレオンハルトのユリアに対する仕打ちのせいだろう。レオンハルトも流石に感じるのだろう。革張りの豪華なスプリングのソファにもかかわらず居ずらそうだった。

「もちろん 怪我をしたユリアが心配だからついてきたんだ」

「ほおぉぉ ご心配されている?それはようございました。明日ご当主夫妻がこちらにおいでになりますので、公爵様はご心配には及びません」

 さっさと帰れと言われている。ユリアは吹き出しそうだった。相当嫌われているわね。レオンハルトはどう出るかしら?

「クラウスが来るのならちゃんと話したい。ユリアとは別々に暮らすつもりはない。このままここで世話になるよ」

 使用人達の目が驚きで見開かれたようだった。レオンハルトはどうするつもりなのだろう。



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