忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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 王宮の従僕に導かれて、公爵と侯爵家が使う控室に、レオンハルトにエスコートされて向かったその時に


「レオン様!」

 と言う甲高い若い女性の声が響き、ピンクブロンドに茶色の瞳で童顔で可愛いと言えなくもない女が二人の前に、ドレスの前をめくり上がらせて駆け込んできた。

 そのあまりにも無礼な態度に従僕や王宮の護衛をしている近衛騎士達まで眉を顰めて、その女を見た。
 公爵夫妻が歩んでいるのだ、声をかけて足を止めさせることができるのは、同格の公爵家か格上の王族だけ。その他に夫人の実家のエーレンフェスト侯爵夫妻ぐらいだろうにと、皆が思っていた。

 そんな周りの思惑などお構いなしに、その女はレオンハルトの前に行き、レオンハルトの腕にすがろうと上半身をレオンハルトに向かって傾けた。
 が、レオンハルトに邪険に腕を払われ、身体を横に避けられたため前にたたらを踏んだ。ユリアの方に向かったので、すいっとユリアが身体を逸らすと、その女はそのまま廊下に這いつくばった。

「ひっどーい、ユリア様、何をするの!」

 避けたのはレオンハルトだが、その女の中では、ユリアが突き飛ばしたことになっているようだ。

「レオン様の愛が私にあるからって、暴力に訴えるなんて最低よーーー」

 レオンハルトはちらりと脛まで捲れ上がった裾をそのままに、叫んでいる女を見て

「護衛、この痴れ者をつまみ出せ」

 と脇で護衛をしている近衛騎士に命令した。

「はっ」

 二名の近衛騎士が、その女の腕を両側からつかんで立ち上がらせて、連れて行こうとしたが、その女は腕を無茶苦茶に振り回して叫んだ。

「レオン様、私よ、あなたのマリアよ。あなたの妻になる女よ!」

「頭がおかしいようだ。私には五年前に婚姻を結んだ最愛の妻がいる。そんな小娘の言うことなど誰も信じないだろう」

「うそ!この前夜会でエスコートしてくれたじゃないの!」

「娘!公爵閣下に向かってなんて失礼な物のいいよう。貴族では無いのか。こんな女が入り込んだとわかったら、国王陛下主催の舞踏会が台無しだ。連れて行くぞ!」

 リーダーらしき騎士が周りの騎士に命じる。

「ああ、そう言えば、夜会で入口で迷っている女性を中に入れたことがあったな。そのあと付き纏われて困ったものだ。やはりおかしい女だ。連れて行ってくれ」

「はっ」

 まだなにか叫んでいるマリアが、近衛騎士に引きずられて行った。公爵夫妻に無礼を働いた事で、これからマリアにまともな縁談は来ないだろう。

「そう言うことにしたんですね」

 ユリアが声を顰めると、エスコートを再開したレオンハルトがユリアの耳元に囁いた。

「リリアンヌ夫人が考えてくれた」

 自分で考えたわけじゃ無いのかと、ユリアはひっそりとため息をついた。

 さあ、中に入れば、もっと手強い貴族達がいる。学園で、レオンハルトがユリアになにをしたか、見ている貴族も来ている。
 何をどう言われるか、これからが本番だ。
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