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子爵令息と男爵令嬢
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「マルガ・ヘルマン!きみの差別意識にうんざりした!婚約は破棄させてもらう!
久しぶりに婚約者を呼び出したフリッツは己の婚約者に婚約破棄を告げた。
「フリッツ!婚約は……」
マルガが何か言っていたが、フリッツは聞くこともなく、言ってやったと言う高揚感で一杯になりその場を後にした。
****
子爵令息フリッツと男爵令嬢マルガの婚約は政略でも家の利益のためでもない。
下位貴族の子女を集めた茶話会でフリッツがマルガを見初めたのだ。フリッツが両親に強請りに強請って男爵家に申し込んでもらった。
フリッツの子爵家は領地経営もうまく行っていて、嫡子のフリッツに利益のために結婚相手を求めなくてもよかった。
またフリッツが見初めたマルガの男爵家も領地は少ないが領地の特産物の商会を持っていて裕福なのだ。子爵家が縁を結んで困るような相手ではないので、そんなにフリッツが言うならと申し込んでくれた。
二人は障害もなくスムーズに婚約を結んだ。婚姻は二人が学院を卒業してすぐと決まっていた。
そして同い年の二人は学院に入学した。最初はよかった。相思相愛の婚約者として、周りに認められて、邪魔をするようなものも現れず、仲良くランチを食べるのが決まりだった。
それがフリッツが編入してきた元平民の子爵令嬢に惹かれてしまった。フリッツは本好きで図書委員をしていた。平民出身のため学習が追いつかず、教師から補習と宿題を出されて図書館で迷っていた子爵令嬢レイチェルに声を掛けたのが始まりだ。レイチェルは男女は触れ合わないと言う未婚の貴族令嬢と違って、気さくで天真爛漫でボディタッチも頻繁だった。フリッツは明るい笑顔で勉強を教えてと追いかけてくるレイチェルの裾をからげた時に見える白い脛にドキドキし、レイチェルに夢中になった。そして図書館や中庭で仲良く顔を寄せ合う事が多くなった。
あんなにフリッツから婚約者になってくれるように請い願ったはずのマルガのことは脳裏からいないものとして扱われた。
毎日一緒に取っていたランチも一切誘いに来なくなった。常にレイチェルと一緒だった。
そうなるとマルガという婚約者のいるフリッツと平民出身のレイチェルの仲は学院中の醜聞として囁かれるようになった。
レイチェルが色仕掛けでフリッツをマルガから奪ったというのが周囲の見解だった。
それを聞き及んだフリッツはマルガを呼び出した。
「変な噂が流れているけれど、マルガが言ったの?僕はやましいことは何もしていない。勉強の遅れた同級生に親切にしているだけだ」
「私は誰にも何も言ってないわ。それよりどうして一切私と話さなくなったの?」
うっと痛いところを突かれたフリッツは言葉に詰まった。
「話してるじゃないか。どうせ卒業したらすぐ結婚するんだ。同級生との交流を優先して何処が悪い。これ以上悪い噂を立てるようならこっちにも考えがある」
「考えって?」
「そんなに僕が信じられないのなら婚約を考え直さなくてはいけなくなるということだ」
これだけ言えばマルガも大人しくなるだろうと思っていた。それなのにマルガがレイチェルと歩いているのを見かけた。あれだけ言ったのにと、慌てて追いかけた。
「マルガ!どう言うつもりだ!僕の気持ちは話しただろう!」
そう言ってレイチェル自分の背中に庇った。
「元平民だからって何を言うつもりなんだ!きみはそこまで僕のことに立ち入るつもりか!大体きみは!…」
血相を変えて、マルガに悪口雑言を言うフリッツをレイチェルが止めた。
「やめて!フリッツ!マルガさんは何も言ってない!」
「ああ レイチェルきみは優しいな。マルガ見習え!」
そう言ってフリッツはレイチェルを抱きしめた。
それを醒めた目で見ていたマルガは黙って立ち去った。
「フリッツ!マルガさんは私にも子爵家のものとして礼儀を取ってくれたの。いい人なんだからなんであんなこというの?」
マルガなんかを庇うレイチェルの優しさに一層のめり込んだ。もうマルガとは無理だと思いマルガを呼び出し、婚約破棄を伝えて、親にも手紙を書いた。最近レイチェルのことをヒソヒソする令嬢達もいなくなったのはマルガとは婚約を破棄して、レイチェルと自分が付き合ってる事が知れたからだろう。レイチェルを幸せにしようと思っていた。
幸せだとフリッツは思っていたが、最近レイチェルを見かけなくなった。あんなに真面目に勉強していたのに、クラスに迎えに行ってもいないことの方が多い。同じクラスの令嬢達に聞いても、意味ありげに目を伏せるだけだ。
その日もレイチェルを探していた。間違って上位貴族の控室がある棟に入ってしまった。そこにレイチェルの肩を抱いて控室に入る第二王子の姿を見た。レイチェルは嬉しそうに第二王子にしなだれかかって
「もう!アルベルト様ったらいやらしいわ」
甘い鼻にかかった声を出していた。
フリッツは足が震えた。自分が信じていた明るくて一生懸命なレイチェルなんて何処にもいないと思った。自分は何を見ていたのだろう。なんとか寮の自室に帰ると父親から手紙が来ていた。
お前のたっての願いであることと、学院で良くない噂が立ち男爵家から抗議が来た事を鑑みてマルガ嬢との婚約はお互いの家の同意を得て解消された。また学院で噂になった令嬢について帰省時に説明するようにと書いてあった。
そうだマルガとの婚約を破棄したのだった。マルガはレイチェルが第二王子に近づいている事を知っていたのだろう。それで忠告してくれていたのに自分は無碍にして、婚約を破棄すると言ってしまった。
もう取り返しは付かない。あの時の自分を殴りたいと思った。
優しく可愛らしいマルガ、自分はもうマルガと共に歩くことはないのだと思うと絶望しかなかった。
久しぶりに婚約者を呼び出したフリッツは己の婚約者に婚約破棄を告げた。
「フリッツ!婚約は……」
マルガが何か言っていたが、フリッツは聞くこともなく、言ってやったと言う高揚感で一杯になりその場を後にした。
****
子爵令息フリッツと男爵令嬢マルガの婚約は政略でも家の利益のためでもない。
下位貴族の子女を集めた茶話会でフリッツがマルガを見初めたのだ。フリッツが両親に強請りに強請って男爵家に申し込んでもらった。
フリッツの子爵家は領地経営もうまく行っていて、嫡子のフリッツに利益のために結婚相手を求めなくてもよかった。
またフリッツが見初めたマルガの男爵家も領地は少ないが領地の特産物の商会を持っていて裕福なのだ。子爵家が縁を結んで困るような相手ではないので、そんなにフリッツが言うならと申し込んでくれた。
二人は障害もなくスムーズに婚約を結んだ。婚姻は二人が学院を卒業してすぐと決まっていた。
そして同い年の二人は学院に入学した。最初はよかった。相思相愛の婚約者として、周りに認められて、邪魔をするようなものも現れず、仲良くランチを食べるのが決まりだった。
それがフリッツが編入してきた元平民の子爵令嬢に惹かれてしまった。フリッツは本好きで図書委員をしていた。平民出身のため学習が追いつかず、教師から補習と宿題を出されて図書館で迷っていた子爵令嬢レイチェルに声を掛けたのが始まりだ。レイチェルは男女は触れ合わないと言う未婚の貴族令嬢と違って、気さくで天真爛漫でボディタッチも頻繁だった。フリッツは明るい笑顔で勉強を教えてと追いかけてくるレイチェルの裾をからげた時に見える白い脛にドキドキし、レイチェルに夢中になった。そして図書館や中庭で仲良く顔を寄せ合う事が多くなった。
あんなにフリッツから婚約者になってくれるように請い願ったはずのマルガのことは脳裏からいないものとして扱われた。
毎日一緒に取っていたランチも一切誘いに来なくなった。常にレイチェルと一緒だった。
そうなるとマルガという婚約者のいるフリッツと平民出身のレイチェルの仲は学院中の醜聞として囁かれるようになった。
レイチェルが色仕掛けでフリッツをマルガから奪ったというのが周囲の見解だった。
それを聞き及んだフリッツはマルガを呼び出した。
「変な噂が流れているけれど、マルガが言ったの?僕はやましいことは何もしていない。勉強の遅れた同級生に親切にしているだけだ」
「私は誰にも何も言ってないわ。それよりどうして一切私と話さなくなったの?」
うっと痛いところを突かれたフリッツは言葉に詰まった。
「話してるじゃないか。どうせ卒業したらすぐ結婚するんだ。同級生との交流を優先して何処が悪い。これ以上悪い噂を立てるようならこっちにも考えがある」
「考えって?」
「そんなに僕が信じられないのなら婚約を考え直さなくてはいけなくなるということだ」
これだけ言えばマルガも大人しくなるだろうと思っていた。それなのにマルガがレイチェルと歩いているのを見かけた。あれだけ言ったのにと、慌てて追いかけた。
「マルガ!どう言うつもりだ!僕の気持ちは話しただろう!」
そう言ってレイチェル自分の背中に庇った。
「元平民だからって何を言うつもりなんだ!きみはそこまで僕のことに立ち入るつもりか!大体きみは!…」
血相を変えて、マルガに悪口雑言を言うフリッツをレイチェルが止めた。
「やめて!フリッツ!マルガさんは何も言ってない!」
「ああ レイチェルきみは優しいな。マルガ見習え!」
そう言ってフリッツはレイチェルを抱きしめた。
それを醒めた目で見ていたマルガは黙って立ち去った。
「フリッツ!マルガさんは私にも子爵家のものとして礼儀を取ってくれたの。いい人なんだからなんであんなこというの?」
マルガなんかを庇うレイチェルの優しさに一層のめり込んだ。もうマルガとは無理だと思いマルガを呼び出し、婚約破棄を伝えて、親にも手紙を書いた。最近レイチェルのことをヒソヒソする令嬢達もいなくなったのはマルガとは婚約を破棄して、レイチェルと自分が付き合ってる事が知れたからだろう。レイチェルを幸せにしようと思っていた。
幸せだとフリッツは思っていたが、最近レイチェルを見かけなくなった。あんなに真面目に勉強していたのに、クラスに迎えに行ってもいないことの方が多い。同じクラスの令嬢達に聞いても、意味ありげに目を伏せるだけだ。
その日もレイチェルを探していた。間違って上位貴族の控室がある棟に入ってしまった。そこにレイチェルの肩を抱いて控室に入る第二王子の姿を見た。レイチェルは嬉しそうに第二王子にしなだれかかって
「もう!アルベルト様ったらいやらしいわ」
甘い鼻にかかった声を出していた。
フリッツは足が震えた。自分が信じていた明るくて一生懸命なレイチェルなんて何処にもいないと思った。自分は何を見ていたのだろう。なんとか寮の自室に帰ると父親から手紙が来ていた。
お前のたっての願いであることと、学院で良くない噂が立ち男爵家から抗議が来た事を鑑みてマルガ嬢との婚約はお互いの家の同意を得て解消された。また学院で噂になった令嬢について帰省時に説明するようにと書いてあった。
そうだマルガとの婚約を破棄したのだった。マルガはレイチェルが第二王子に近づいている事を知っていたのだろう。それで忠告してくれていたのに自分は無碍にして、婚約を破棄すると言ってしまった。
もう取り返しは付かない。あの時の自分を殴りたいと思った。
優しく可愛らしいマルガ、自分はもうマルガと共に歩くことはないのだと思うと絶望しかなかった。
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