乙女ゲーム関連 短編集

ぐう

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ヒロインが堅実だったら

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 バナナの皮を踏んで頭から突っ込んで転んで、前世を思い出した。
 前世では日本人でした。ごく普通の女子高生。そういえば、試験明けで友達と盛り上がって、カラオケで歌いまくった帰り道に、道路の真ん中で立ちすくむ子猫見かけて、救いに走り出したっけ。そのあと覚えてないなぁ。と言うことはあの時死んじゃって、転生したってこと?
 
 名前はマリア。今までの記憶からいくと、母一人子一人で結構貧しい暮らし。
 前世はひらべったい顔にチョンチョン目鼻だったのに、なんと今世では、ピンクブロンドに綺麗な青い瞳。色白で艶々お肌に整った小さな顔。少し垂れ目のアーモンドの様なくっきり二重の目、そしてピンクの下唇がぷっくりしてる超絶美少女なの。小柄だけど手足がスラリと長くて、今は十二だからわからないけれど、お母さん見る限りでは、ボンキュって身体付きになるんじゃないかなー

 日本で生きていたときのような、便利な暮らしはできないし、病弱で時々寝込むお母さんの稼ぎでは親娘で満足に食べていけなくて、私も十の時から働いてる。これが前世を思い出した今は結構辛い。小学生から働くなんてと。まあ、周りの子供達も似たような環境だけどね。

 でも、十四の年に父親が迎えに来た。
 なんでも平民の母さんは父親の貴族のお屋敷のメイドをしてて、惹かれあったけど所詮身分違いの恋で、私を身籠った母さんが身を引いたんだって。おい、父親手が早いぞ。
 父親は男爵様で一方的に惚れ込まれた家格が上のお嬢様を周りの圧力で断れなかったと言い訳してたけど、それもなんだかね。あまり幸せな結婚生活じゃなかったのが祟ったのか、正妻が持病を拗らせて亡くなってしまったので、ほとぼりを冷ましてから迎えにきたと。
 でもさ、迎えにきたってことは今まで私達がどこにいるか知ってて、放置したってことよね。いくら身分上の正妻の監視が厳しかったとはいえ、当主なんだから養育費を人伝に渡すとか、なんとでもできたんじゃない?引き取ってもらえたけれど、なんか前世を思い出した私には不信感しかない。母さんは嬉しそうだけどね。

 そうして、私生児の私は父親に認知されて、正式に男爵家の娘になったわけよ。この世界では認知すれば、庶子でなく正式な子供として認められるそうよ。何代か前の王様が愛妾の子供で慌てて法律を変えたそうよ。どこの世界でも、偉い人の都合で変わるのね。母さん?残念ながら平民だから愛妾よ。
 男爵家には亡くなった正妻さんが産んだ長男がいるから、私は父親に学園行って、嫁入り先を見つけてこいと言われた。

 礼儀作法も知らない平民ピープルの私は、貴族の礼儀作法を習わされた。たった一年勉強したくらいで、産まれた時から、礼儀作法や勉強を叩き込まれているお嬢さん達に、敵うわけないじゃん。元平民の男爵家の娘に、嫁入り先なんて見つかるわけないし、本人に気に入られても周りが許すわけないよ、きっと。
 きれいなドレスを着せてもらって、鏡に写った私は前世と比べると超絶可愛い。可愛いけれど、そんなことに酔うより、現実はシビアなのだ。

 ああ、面倒くさいと思いながら向かったのは、王立学園。今日は入学式なんだって。馬車で送られて降りたところは、男爵家なんて荒屋に見えちゃう豪華な建物。でも、あれ、なんか見覚えあるここ。
 そんなふうに思って歩いていたら注意散漫で、どんっと誰かにぶつかっちゃった。

「ご、ごめんなさい!」

 貴族のお嬢さんの礼なんてとっさに出なくて、勢いつけて九十度のお辞儀をした。持っていた鞄の中から教科書がバラバラって落ちてしまった。慌てて拾おうとはいつくばると、とってもきれいな手が差し伸べられた。

「大丈夫?お嬢さん。新入生かな。制服汚れるから立ち上がって」

 輝く金の髪をサイドに流して、リボンで結んだ碧眼の超美男子がいた。オーラ出てるような高貴なその人にぽーと見惚れていると、その人が後ろの男性に教科書を拾わせた。

「大丈夫です!自分で拾えます」

 と拾ってくれてる男性を見ると、こっちも違うタイプの超イケメン。凛々しい顔立ちに鍛えた身体。かっこいい!この学園すごいわ。その人達にペコペコお礼を言って別れて、入学式が始まったら、さっきの人が壇上に居た。挨拶を聞くとなんと第二王子様が首席入学者だった。

 あれえ?なんか既視感がある。これって、あの、前世でやっていたスマホアプリの「花咲く学園で出逢ったら~」の画像だ!
 と言うことは、私はヒロインのマリア?
 あの美麗な王子様はメイン攻略対象者の第二王子様。あの凛々しい男性も騎士団長の息子で侯爵家の息子で攻略対象者だったはず。あと、あの王子様の側近の宰相の息子に外相の息子だったかな。
 逆ハーレムを達成すると、あの王子様の兄の王太子が卒業パーティで一目惚れしてくれて、プロポーズされると言う、女子高生の私から言わせてもらっても、突っ込みどころ満載の乙女ゲームだった。でも課金があまりなくて、サクサク進められるし、とにかく出てくる攻略対象者の作画が神で女子高生に人気だった。

 今朝会った王子様との出会いはフラグ?でもおかしいな?婚約者の悪役令嬢が一緒にいて、高貴な方にぶつかるなんて不敬だと悪役令嬢に罵倒されて、それを王子が学園では平等とか言って咎めて、入学式会場に案内されるはず。騎士団長の息子も別の出会いがあるはず。なんかおかっしいなー。

 まあ、でも、なんでもいいか。前世では、悪役令嬢にザマァされる二次創作も出てたし、私もヒロインにはなりたくない。
 攻略対象者全員高位貴族だもの。「花咲く学園で出逢ったら~」には商会の跡取り息子とかは出てこない。前世の知識を持っていても、たかが女子高生だもの。できることなんてない。あったらお母さんとの暮らしをもう少し豊かにできたはず。おとなしーくだれも攻略しないでおこうっと。




 ゲームの中のヒロインはチートでクラスはAクラスだったけれど、私は残念ながらたった一年しか勉強してないから最下位のEクラスだ。だから全員Aクラスの攻略対象者と接点はない。なーんだ、わざわざ近づかない!なんて意気込むことはなかったわ。はーやれやれ。

 学園に入って知ったけれど、学園を一定の成績で卒業すれば、学園の推薦書を貰って、王宮の文官試験に応募できるそうだ。男爵家や子爵家の子女は、文官になって成り上がる人もいるとか。私は成り上がらなくてもいいけど、王宮の文官って前世で言う公務員だよね。一生食いはぐれなさそう。あの信用できない父親だったらとんでもないとこに嫁がされそうだと猛勉強を始めた。

 そういうわけで私は図書館の常連になった。男爵家の蔵書なんてたかが知れていて、学園は参考書や参考文献は沢山あるのだ。常連になって同じような文官試験を目指す友達ができた。カトリーナは子爵家のお嬢さんだけど、私が元平民でも馬鹿にせずに、いろいろ面倒をみてくれた。
 カトリーナに聞いたのだが、この国は高位貴族でも幼い頃からの婚約者などいないとか。ということは悪役令嬢はいないということだ。なんだ、ここは「花咲く学園で出逢ったら~」の世界に似ていて非なる世界かもしれない。
 ゲームで悪役令嬢とされていた公爵令嬢や侯爵令嬢は学園に在籍するようだが、婚約者ではないらしい。

 一年目はEクラスだったけれど、猛勉強の甲斐があって二年ではCクラスになれた。目指すは三年でBクラスである。そこまで行けばなんとか推薦書をもらえるのだ。
 そんなふうに勉強に没頭しているせいか、攻略対象者とのフラグ回収などもない。
  たまに学園の行事で攻略対象である高位貴族の人達を見るけれど、悪役令嬢とされていた公爵令嬢とかと一緒のところも見ない。
 悪役令嬢がいなければヒロインは攻略対象に近づくきっかけはないのだ。

 王妃や高位貴族の奥様なんてとんでもないし、逆ざまぁされたくない。
 私は平凡な一生を勝ち得るのだ!


 三年で思いかけずAクラスに上がれた。朝から晩まで勉強漬けの毎日だから、努力が報われた!とカトリーナと喜びあったが、攻略対象者と同じクラスは嫌だなぁと思っていた。
 が、男爵家の私から高位貴族に声をかけられないし、あちらも私に興味ないから声はかからない。
 もちろん高位貴族の令嬢にいじめられることもなく、身分差があり過ぎるから高位貴族の方々と交流もなく一年間は終わった。

 そして無事、学園から推薦書を貰って、文官試験に合格した。文官の女子寮にも入れた。
 信用ならないと思っていた父親が反対するかと思ったら、喜んでくれたのは意外だった。父親が言うには私の将来も決まったので、長男が学園を卒業したら、爵位を譲って、街中に家を買って母さんと夫婦として住むそうだ。長男は亡くなった正妻の生家が後ろ盾になってくれるから、心配はないのだ。
 愛妾になんかにして、すまなかったと母さんに泣いて謝る父親を見て、いろいろなわだかまりも、まっいいかと思える様になったよ。


 そして、新米文官は第二王子様の執務室付きになってしまった。と言っても第二王子は別室で執務してるから、私達下級文官はひたすら申請書類の処理をして上にあげるだけの毎日で会うことも稀。
 そんな毎日が続いていたら、入学式で会った騎士団長の息子で今は第二王子の護衛騎士のクラウスに声をかけられた。

「同じクラスだったマリアだよね?」

 凛々しいイケメンが微笑んで近づいて来た。

「入学式に出会った時からずっと気になっていた。頑張り屋で謙虚な君がいつの間にか好きになった。結婚を前提に付き合ってくれないか」

「わ、私、男爵家の娘で元平民です。身分が……」

 あまりに意外な申し出にパニックになりそうになった。とにかく思ったのは母さんになりたくない!それだけ。

「俺は侯爵家の生まれでも三男だし、爵位はないよ。身分違いなんかじゃない」

 えーそうなの!そうだっけ?そんなわけないけど、私の前に跪くクラウスの凛々しい美しさに思考はブラックアウトして気絶しそうになった。

 それから何故か私達は付き合って、仲を深めて、今日は結婚式である。何故こうなったかさっぱりだけど、クラウスは見た目がいいだけでなく誠実で素敵である。いつも私を後ろからそっと支えてくれる。文官も辞めなくてもいいと言うし、一応ハッピーエンドだよね?

 騎士の正装に身を包んだクラウスは素敵で目がチカチカする。べそべそ泣いている父親にエスコートされて、クラウスの所まで歩み寄る。

 私!幸せになるからね!前世の私見てて!
  


 

 

 
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