想いを力に。それが作られたものでも

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歌姫と鍛冶見習い

不遇職と言われる由縁

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「あなた達に食材をとってきてほしいわ」
 紫燕亭の主人から告げられた簡単な言い回し、序盤のお使いみたいなクエストと二人は考えていた。しかし実際はゲーム時間にして2時間ばかりが過ぎている。
 白い光に包まれて二人は町の東の門の側に現れる。来ている服はボロボロ、けれども傷一つない不思議な格好で。
「これで五回目かー私たちがやられるの」
「ただの羊なのに」
 二人はぼやくが、そもそも二人とも戦闘職ではないのだから当たり前である。ソートの入手量は人によってまちまちであるが、大体この辺りの敵ならば、一戦闘で八程は得られ二百程までは手に入らなくなることはない。しかし彼らが得られる
ソートによるステータスボーナスは、ウォーリャや、メイジなどの戦闘職に比べて三分の一程度なのである。
「ミンメイって攻撃スキルとかないの?私の歌をきけー!って、突進する羊に
 向かえばそりゃやられるよ」
「某アニメならそれでなんとかなってた。ここでも人型ならいけた」
 ぶれないミンメイだがこのままでは不味い。二人は対策を練った。まずソートを集めることしかし今対峙している羊が、ここローランド周辺で二番目に弱く丸鳥ではもうソートを得られない。次は吟遊詩人のスキル『バトルソング』を使って戦うこと、これもヒーゴの木槌では羊の毛に防がれ思ったほどのダメージ増加はない。
 十分ほど考えミンメイはヒーゴにこう提案した。「武器新しくすればいいんじゃない?」簡単なことであった。ローランドでは武器は初期武器しか扱っていないしかし、ヒーゴは鍛冶師なのだ。そうして二人は工房へ向かった。
 鍛冶には鋳造と鍛造がある。鋳造は矢じりなど大量に必要であるものに使われることが多く、鍛造は剣や盾の持ち手等、強度が必要なものに使われる。この世界での製作は型をNPCから買い、工房にて『クラフト』することで始められる。
 工房へ来た二人はNPCからお目当ての型を買う。
「槍の型ならソート五十で交換だ。何色でもいいぜ」
 身体の一部分が涼しそうな壮年の男性に紫のソートを渡す。すると自動的に買ったものは『バッグ』にはいっていく。「剣何て使ったことないし、槍が無難だよね」とヒーゴが呟きながら『クラフト』を始める。
「羊を倒す槍か……」
 首を捻り目を固くつぶって悩んでいたかと思うと、急に明るくなり『バッグ』から丸鳥を倒し手に入れた石を取り出す、そしてその石から青銅を『製錬』し槍の穂先を『鍛造』し始める。一心不乱に金槌を振り何やら呟きながら作ってゆく、次第に槍の形が光に包まれて不定形であったのが、形をなして、槍が完成する。

||||||||||||||||||||||||||
『農家の槍』      ……ATK+8DEF+2
 憎悪の対象(種族:羊) ……羊に20%の追加ダメージ
 変形機構 (鋏)    ……スキル追加『カッティング』
||||||||||||||||||||||||||

 完成した槍が光を帯びて、性能を示すメッセージが二人の視界に移っている。槍の穂先は閉じていれば槍に見えなくもないが、刃が普通の槍と違い中にも付いているのだ。長さは2メートルほどで、後端には開閉部を操作するため掴めるよう造られていて、そこを掴むと刃が閉まる仕組みになっている。
「マジックハンドじゃん!」
 光が弱まり全体像が見えるなり、ミンメイが叫ぶ。先端に刃のついた不可思議なマジックハンドを掲げて自慢げな顔をしたヒーゴはガションガションとならしながら、「リベンジだ!」と宣言し、唖然しているミンメイを引き擦るかのように東門へ向かう。
 


 一面の緑、澄んだ空気は冒険者の心を落ち着かせ、北から緑の風が時々ふんわりとした花の香りを運び、鬱屈さを吹き飛ばす。未だ穢れを知ることのない、青い冒険者の始まりの草原。その名は『スイの草原』



「新製品のお披露目だ!今度は勝つ!」
 街から少し離れたところで二人は羊と対峙している。『レッサーシープ』こいつは名前の通りただの羊。大きさもバイクと変わらない、普通の羊。しかしこれが六回目の再戦。
「私の歌をきけー!」
 ミンメイが支援スキル『バトルソング』を奏でヒーゴのSTR をあげる。軽快なドラムと爽快な歌声はパラメーター上昇だけでなく、聴いたものの心から戦闘に対する渇欲を生み出していく。
「まずはそのモコモコがじゃまだー!」
 手元にあるグリップの固定を外し、スキル『カッティング』を発動させる。羊の背中に当て数度刃を開閉させるとジョキジョキと音をたてながら、毛がすべて刈られた。『カッティング』は発動させ相手に規定回数当てると、設定してある部位が破壊される。
「よし!これで終わりだ!」
 急に身軽になった羊は驚き立ち竦んでいる。そこへヒーゴの槍による鋭い突きが入り、『レッサーシープ』は光の粒へと姿を変え……ない。
「うそ!クリーンヒットしたはずよ」
 いかに武器やスキルが強くても、ヒーゴの攻撃力は剣を生業とするものの半分しかない。たかだか人間の一撃で、獣は息絶える訳がないのだ。
 羊は傷つけられたことに怒り、ヒーゴに突進する。角こそないが、決して小さくはない身体から繰り出される頭突きは強く、二人は何度もやられている。
「そう、何度も、当たってたまるか!」
 槍を使っていたため、今までよりほんの一瞬早く回避行動に移れた。羊のスレスレを身体が交わした感覚が残っている。
 ミンメイが演奏する曲が終盤に差し掛かり、サビの部分に入る。『バトルソング』には攻撃力増加のブレがあり、曲の盛り上がる部分では最大の効果を発揮する。
「ヒーゴいまよ!」
 ミンメイの声に合わせて、木槌に持ちかえ、上段に構える。基本槌スキル『スタンプ』単純な技であるが、攻撃倍率が高く誰でも使える。当たればの話だが。
「くらぇ!怒りの鉄槌『スタンプ』』
 必殺技でない普通の技を繰り出すヒーゴそれでも、フラフラな羊には効果的だったようで光の粒へと姿を変え、アイテムがいくつか二人の『バッグ』へと渡った。
「やった!勝ったー!」
 手を取り合って喜ぶ二人。満身創痍な二人だが、後四匹ばかりは倒す必要があるし、この『レッサーシープ』はソードマンのチュートリアルクエスト対象だったりする。ただ一匹を狩るのに、この調子な二人は当然のように、羊を狩り終える頃には、既に夕方をすぎていた。

 
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