想いを力に。それが作られたものでも

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藍色の少女

出会い

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「こ、これで3匹」
 額に軽く汗を滲ませ、腰のホルダーに木槌をしまう。現実と見まがうほど精巧に作られたこの太陽は東に一つ南に一つある。 花や草臭いまでもが現実とそっくりであるが、先ほど少年が倒した丸鳥もすでに光の粒となって消えていた。
 ここは地球ではない。いや現実ですらない。
 その証拠に彼の頭の上には、白地でヒーゴという文字が浮かんでいる。

「しっかし、このソートていうアイテム?
 通貨でもないし、使い道わかんねーな」
 ToFソーツオンザフォース という作られた世界で、ヒーゴは呟く。
 このゲームはユーザーに最大限楽しんでもらうため、攻略は掲載禁止。基本的な操作以外の説明はNPCが担当する、という徹底したつくりになっている。故にソートいう不可思議なアイテムがなにかというのは、ToFを初めて5分でクエストを受諾したこの少年にはわからなかったのだ。
 ソートシステム。思いを力に、がコンセプトとなったこのアイテムは、様々な色のソートがあり、取得条件に共通して心を大きく動かされたかが関係してくる。食べ物を食べたり、物を見たり聞いたり、命のやり取りをしたりと。
 クエストを終わらせたヒーゴは、三枚の毛皮と幾ばくかの鉱石資源と木の皮をポーチの中にデータとして持ち、初めの町ローランドへ戻る。
「リコール」
 ヒーゴが唱えると、彼の体は青い光に包まれました数秒たった後光の粒となって東へ飛んでいった。
 ローランド、中世の雰囲気があるこのまちでは、ファンタジーにある店は概ね揃っている。西から噴水広場を通り、果物屋や八百屋などの販売NPCの声を聞きながらギルドへ向かう。
「クエストの報告ですか?換金ですか?」
 建物の中に入らず簡易窓口で足を止めたヒーゴにやや無機質な、一世代前のボイスロイドのような声で語りかけてきた。
「報告で、素材はクラフトで使うので」
 そう坦々と答え、初級クエストの報酬で100ゴルドを受けとった。初級であれば10ゴルドで1食付きの宿に泊まれるため、難易度を考えれば実入りのいいクエストだ。
「メニュー、バッグ」
 ヒーゴが呟く。音声入力があるため発声する方が、わざわざ指で操作するよりはやいのだが周囲の目をきにして使わないプレイヤーは多い。
 だが機械的に発声し操作する姿は、異世界の魔術師のようで、虚空から物体を取り出す姿に憧れ好んで使うものもいる。彼もその一人だが、憧れるような年齢層のプレイヤーよりはいささか大人に見える。
「お、ビギナーメイジか」
「あら、魔法使い君にしては少し大人ね」
「ん?中学生にしては大人びてるな」
 ギルドの周りがざわつく。ヒーゴはアイテムを簡単に整理した後、ここを離れ逃げるように噴水広場へ足を向ける。噴水広場ならば個人商店や販売NPCも多く、また様々な場所への中継点であるためそう注目されることはない。
「別に人が何してようと、いいだろうが」
 一人呟いた後ヒーゴは、空いてるベンチを見つけ指でバックを開き、先ほど手に入れた素材を確認する。
 丸鳥の羽、スギの原木、ツル、丸鳥の砂肝。なんの役にもたちそうにない本来は売るものではあるが、ヒーゴは満足そうな顔で一つ一つ確かめている。
「よし、これだけあれば」
「私の歌をきけー!」
 急に音楽が流れ始め、ヒーゴは慌ててアイテムをいくつか落としてしまう。
  2010年代を感じさせるような軽快な音楽、到底この世界には存在しないような電子音。しかし広場全体に広がる凛とした声、空まで響くような透き通った高音。中世の風景に違和感を覚える暇もなく、多くの人を魅了していく。
 藍色の髪にくっきりした翠の目、弾力のある肌は彼女がまだみずみずしい少女であると溢れんばかりに伝えてくる。
 ヒーゴはアイテムを拾いつつ、その歌声を聴いていた。綺麗。そう単純な感想しか彼は思い付かなかった。
 彼女は歌っている、だから吟遊詩人なのだろうとヒーゴは思う、だが戦闘もお荷物で生産もできないようなそんな職。フレーバー職と揶揄され野良ではPTお断りが当たり前。それをあんな綺麗な人が歌っている。
「あ、あれ?紫のソートが増えてる。
 っていうか!増え続けてる!バグなのか?ヤバイ!」
 慌てて指を動かし、ヒーゴはバックの画面を消した。何をしたかわからないが貴重なアイテムが一気に増えれば、MMOである以上アカウント停止になる恐れがある。捨てることはできないのかと彼は声に出して操作を続ける。
「バッグ!えーとトラッシュパープルソート! 
 くそ!ダメか」
「みんなー!聞いてくれてありがとう!
 きょうはここまでよ。」
 2曲ほど披露して彼女のライブは終わりのようだ。伴奏をしていた人形達を手際よく声に出してバッグにしまい、何時もの通りにソートを確認する。
「今日はいくつ増えたかなー♪最近はマンネリだし
 50増えてれば御の字だよね 。ってなにこれ!
 5000も増えてるじゃない!一体誰が?」
 慌てて周囲を見回すミンメイ。そうすると何度もバッグと叫び何かを捨てようとする青年を見つける。頼りがいがなさそうだが、身長も程よく高いし、顔立ちも彫りが深く町の雰囲気にあっていた。
「ねぇ、君」
 笑顔で話しかける少女間近で見ると本当に魅力的だ。ただその笑顔のしたには何かを隠していそうで。
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