リンバース公爵領の教会で

聖 りんご

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シスターの想い人(前編)

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その日、シスターは珍しく自分から司祭に相談を持ちかけた。

「司祭様。私、恋をしたみたいです。」

その言葉に司祭は頬を染めた。

「シ、シスター。私には、クララさんという想い人がいまして…」

「違います。勘違いです。有り得ません。目を覚まさして下さい。」

シスターに冷たくあしらわれた司祭は心臓を刃物で刺されたかのような痛みに崩れ落ちた。

「どうしたらそんな勘違いができるんですか?司祭様と私は十以上離れてますし、司祭様は私の好みではありません。」

「シスター……私の心はそんなに強くないのですが……」

「そんなことより聞いて下さい。」

シスターは司祭に恋をした相手について話していく。

出会いは数日前に孤児院の子供たちと街に出かけた日。
市場に行き買い出しをしていた時にぶつかって来た男の子がシスターの財布を盗んだそうです。

「すぐに気がついた私は追いかけようと荷物を子供たちに預け走り出そうとしました。
すると横から男性が走って行き、財布を奪い返してくれたんです。」

「それは、とても素晴らしい人ですね。」

「はい。その瞬間、私は彼に心を奪われました。」

シスターは頬を染めてうっとりと話ました。
それはまさに恋する乙女の顔。

「それで、シスターは私に相談しかったのですか?」

「実は…助けて頂いたのにロクにお礼もできず、名前も名乗らないで去ってしまった彼を探したいのです。」

「なるほど。手がかりはあるのですか?」

司祭がそう問うとシスターは一枚の絵を出した。
それは孤児院の子供が描いた絵なのか、人と認識は出来るが人相までは分かりそうにないものだった。

「この絵では見つけるのは難しそうです。」

「頑張って描いたのですが……厳しいですか……」

司祭は顔を強ばらせた。
以前、自分は才能が無いとシスターに言いきられたのにシスターが描いた絵だってひどいものだ。
あそこまで言われる必要は無かったのでは無いかと心の中は荒れ放題だ。

「まずは髪の色など覚えている事を教えて下さい。」

司祭はシスターから丁寧に特徴をきいていった。

「髪は赤みがかったブラウンで身長は私とあまり変わらないくらいでした。腕がとても逞しくってチェーンのネックレスをしていました。」

司祭はきいた特徴の内の一つに心当たりがありました。

「チェーンのネックレスというのはプレートが付いたものですね?」

「そうです!シルバーの!!」

「その方はきっと兵士か警備の仕事をしているのでしょう。シルバーのプレートは身分証ですね。」

「では何処に行けば会えますか!!」

「私では分かりません。兵士の顔に詳しい方に聞くのが一番です。」

そう言って司祭が訪ねたのは街の酒場でした。
酒場の女将に聞きこみをすると、似た髪の色の兵士が常連に居るというので待ち伏せする事にした。
もちろんお酒を飲む訳にはいかないので紅茶を嗜みながら。
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