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第2話
その1
しおりを挟む神殿は、正直あんまり好きじゃない。だって魔女だもん。
あ、別に神様が怖いとかそういうんじゃないよ? 悪い事しようとかも思ってないわけだし。
けどね、世の中には偏見ってものがあって、悪い事が起こると魔女のせいにされちゃう事がある。
大昔、実際に悪い事に力を使っちゃった魔女もいたらしいけど、それはその魔女が悪い人だっただけで、魔女全員が悪いわけじゃないのに。
それでも魔女は、人にはない不思議な力を持っているから、その力で悪さをしていると思われているらしい。
変だよね。聖女様だって人にはない不思議な力を持っているのに、聖女様の力は良い事だけに使われ、魔女の力は悪い事に使われると思ってるだなんて。
「さてエミルさん。ここに萎れかけた花がある。この花を美しく咲いている状態に出来るかね?」
眼の前に出されたのは小さな鉢植えの花。差し出したのは、この神殿のトップらしい神官様。
「さあ……? 土がカラカラみたいだから、水をやれば少しは持ち直すんじゃないですか?」
神官様が力を使ってこの花を治せって言ってるのは分かったけど、わたしはやらない。っていうか、出来ない。
魔女の力は何でも出来るけど、何でも叶うわけじゃないから。
「それは、聖なる力を持っているけどこれは出来ないのですか? それとも使わないのですか? もしくは、力を持っていないのですか?」
静かに神官様が尋ねる。
「聖なる力ってのが、分かりません」
何の力も持ってませんとは言わない。だってうっかり魔女の力を使ってる時に見られたら、「じゃあそれは何の力だ」って話になっちゃうから。魔女だってバレて騒ぎになっちゃうのが怖い。
ちなみに、聖女様が使う聖なる力っていうのがどんな力なのかは、本当に知らない。魔女の不思議な力については多少、子供の頃に聞きかじったけど。
「困りましたね。これでは判断のしようがない」
「エミルさんは最初から自分は聖女ではないと言っているのですから、力など持っていないのでは?」
「しかしコーウィは真面目な若者です。嘘をつくとも思えない」
「ではエミルさんが嘘をついていると?」
「聖女様が嘘をつくのですか?」
「エミルさんが無自覚に聖女の力を使っていたという可能性は?」
「いや、エミルさんは自分がサージェ殿の所に来た時には彼の傷はもう癒えていたと言っていませんでしたか?」
「それが本当ならば別に聖女様が居て、サージェ殿を癒やして立ち去ったのでは?」
「幾ら傷は癒えたとはいえ、意識のない者を聖女様は置き去りになどしないでしょう?」
「それこそエミルさんが来た気配を察して聖女様はどこかへ去られたのかもしれません」
ヒソヒソと下っ端の神官たちが話してるのが聞こえる。
そうそう。その方向でよろしく。あくまで聖女様は別に居て、わたしはその後通りかかっただけ。ただの村娘です。
あ、でも。聖女候補じゃなくなったら、サージェ様の館から出ていかなくちゃならなくなっちゃう? それはイヤだなぁ。何か理由をつけてサージェ様の館に置いてもらわないと。
そんな事を考えてたら、神官様がパンッと手を叩き、他の若い神官達を黙らせた。
「これは検証する必要があるでしょう。日を改めまして現場へ行き検証を行います。よろしいですか、エミルさん」
検証って何をするんだろう? 分かんないけどこれを拒否したらまた何故ダメなのかってグダグダ言われちゃうんで、とりあえず頷いておく。
「では日付が決まりましたら追って連絡します」
「あ、わざわざコーウィさんを寄越さなくてもサージェ様伝いで良いですよ」
一応神官様にも伝えておく。この間コーウィさん、渋々納得はしてくれたけど、神官様が頼んだらこれ幸いとまたやって来そうだもん。
せっかくのサージェ様との会話の機会、逃してなるものですか!
そんな訳で後日、現場検証とやらをする事になって、その日の面談は終わりになった。
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