5 / 8
第2話
その2
しおりを挟む森の中を歩くのは大好き。
元々生まれ育った魔女の隠れ里が森の奥深くにあったから、森はわたし達にとって遊び場のようなもの。
とはいってもこの辺りの森じゃないんだけど。
「確かこの辺りで盗賊と切りあいになったんです」
コーウィさんが神官様に説明している。
「そうだな。間違いない。そこらに跡が残っている」
サージェ様も森の木や草を眺めて同意している。
ああんもう、森の中のサージェ様、ステキ!
もちろん普段の館で会うサージェ様も、神殿で会うサージェ様も素敵なんだけど、森の中のサージェ様はまたひと味違うっていうのかな。
木漏れ日に輝く淡い金色の髪も、緑を映す優しいグレーの瞳も、騎士の装いをしているにも関わらずまるで森の妖精がそこに立っているのかと思っちゃうもの。
ああでも、それもちょっと違うかも。妖精なんかよりもサージェ様の方がガッシリとした素敵な体格だし。不老の妖精は見た目が若いイメージだけど、サージェ様はとってもステキなおじさまなんですもの。
まあどちらにしても、サージェ様に森の緑がとても似合うというのは間違いなしね!
ああ……サージェ様、ス・テ・キ……。
「……さん。エミルさんっ」
「は、はいっ」
呼ばれているのに気が付き、慌てて返事をして振り向く。
「何か気になる事でもありましたか?」
神官様に訊かれて慌てて首を振る。
「いいえ。すみません、ボーッとしてました」
嘘じゃない。ボーッとサージェ様に見惚れてただけだもん。
「……そうですか。では、当日の行動を訊かせてもらって良いですか?」
メモを取りつつ、神官様が言う。ちらりと見ると、サージェ様達も当日の行動の記録を取っているようだ。
わたしは「んー」と考え、思いだしながら伝える。
「当日は朝から薬草採りに森に来ていて……。夢中で採ってたから、どのくらいの時間だったかは覚えてないです。サージェ様を見つけたのは……。風に乗って血の匂いが漂ってきて……。怖かったけど、気になって恐る恐る近づいてみたら倒れているサージェ様を見つけたんです。それで慌てて近づいて。服に血がついていたからせめて傷口をどうにかしなくちゃと思ってたら、コーウィさんが来たんです」
半分以上、ほんとの事だ。
「そうです。私が仲間を呼び戻って来た時、聖女様がサージェ様を癒されていたのです」
コーウィさんがうっとりと、わたしを見つめる。やめてほしい。
「違います。だからわたしが癒したわけじゃないんですってば」
これはウソだけど。
「コーウィさんだって最初駆け付けた時、サージェ様の近くにいたわたしに気が付いて、サージェ様から離れろって剣を突き付けたでしょ?」
これは本当の話。だからその時コーウィさんと一緒にというか、少し遅れて駆け付けた騎士達もその様子を知っている。
「確かにコーウィ殿は最初、エミルさんに剣を突き付けていました」
「コーウィ……。お前女性に対してそんな失礼な事をしたのか?」
ため息交じりにサージェ様が言う。
「サージェ殿はその時は?」
「まだ意識を失っておりました。ですから以前も申し上げました通り、誰が私を癒して下さったのか、私は知らないのです」
まだ何か言いたそうなコーウィさんを置いて、神官様は淡々と事実確認をしている。ていうか、再確認。この辺りの話はもう、散々神殿でもした事。
「ではまず、コーウィ殿がこの場所から神殿まで助けを求めに戻り、再びこの場所まで戻ってくるまでの時間を計ってみましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる