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本編
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しおりを挟むそれから水族館を見終わって、ハンバーガーでも食べようかっちゅうことになった。店内で食べるか外で食べるか迷ったんじゃけど、海見ながら食べようかっちゅう事になって、お持ち帰りで二人分買い込んだ。
「どっかええとこ空いちょるとええんじゃけど」
水族館近くの海辺をぐるりとまわってみる。けどやっぱぁ日曜日じゃけぇ、海辺のベンチは他のカップルやら観光客で全部埋まっちょった。
「神社の方に行ってみようや」
すぐ近くにある神社のほうをタカキが指さした。
「うん」
そこやったらそんな観光客もおらんじゃろうし、今日はなんの行事もないはずじゃけぇ空いとるじゃろ。
そんな事思いながらタカキに手ぇひかれて、神社へと続く階段を昇った。
「お正月以外で来たん初めてじゃ」
なんか新鮮な気持ちがした。
初詣ん時は人が多ぉてゆっくり上がるけぇ思わんかったんじゃけど、神社って結構高いところにあるけぇいっきに階段昇ったら、けっこうえらい。息がきれる。じゃけどその分、一番上まで上がったら見晴らしが良うて気持ちが良かった。
「お、あそこ空いちょおぞ」
タカキが境内のすみっこにあるベンチを指さす。二人でそこに座って、しばらく無言でバーガーをぱくついた。
水族館におる時は人がいっぱいおったけぇ、多少黙っちょっても気にならんかったんじゃけど、ここはやたら静かなもんじゃけぇ沈黙が妙に気になりだした。
どうしよう何か喋らんと。
慌てて話題探しよったら境内や屋根の上に鳩がいっぱいおるんに気がついた。
「ここ鳩がおるんやね」
話すことが見つかって、ホッとした。
あれって神社に住み着いちょるんじゃろうか、それとも飼っちょんじゃろうか。
「あれ? 知らんかった? ここ、鳩のエサも売りよんぞ」
タカキが笑うて指さしたんは、初詣ん時にお守りとか売りよったちっさい小屋。今は閉まっちょる。そんでその横をよう見たら、木箱が置いちゃってハトのエサ五十円ってマジックで書いちゃる。
へぇ、そんなんがあるんじゃあ。知らんかった。
感心してまじまじとそのエサ箱を見た。
「前、一緒に来んかったっけ?」
タカキが首を傾げながらそう言うた。けどうち、初詣以外でここに来た事なんかないんじゃけど。
「あー、そうか。あん時夏休みでお前田舎に帰っちょったけぇ、ふみかと二人で来たんじゃった」
タカキの言葉にびっくりした。そんなん初耳。ふみかと二人でここに来たん?
「そうなんじゃ……」
急に気持ちが暗うなる。
まだ付き合い始める前の話じゃし、三人で遊べん時はうちもふみかと二人やったりタカキと二人で遊びよったけぇ、怒るんはおかしいって分かっちょる。じゃけど、タカキがふみかと二人でここに遊びにきたんじゃあと思うと、なんかすごいもやもやした。
けど、タカキはそんなうちに気が付きもせん。
「あん時ふみかが鳩にエサやったんじゃけどさぁ。なんか鳩が飢えちょったみたいで、ふみかのやつ山程の鳩に襲われてから、ひっかき傷だらけになってのぅ。慌てて下の商店街の薬局に駆け込んで、消毒液買う羽目になったんちゃ」
楽しそうにタカキが喋りよる。
「じゃけどふみかのやつ、そんだけ鳩がお腹空かせちょるんじゃけぇかわいそうっちゅってのう、またここに来て鳩のエサ買いよるんちゃ」
ほんとに楽しかった思い出なんじゃろう。目をキラキラさせながらタカキが教えてくれる。
「ふみからしいね」
低い声で答えた。
ねぇ、うちが不機嫌になっちょるん、気が付いてくれる?
けど、タカキは気がつかん。
「そうそう、ほんとふみかっちゃあお人好しじゃけぇの。結局四、五回鳩のエサ買ったいや」
笑いながら言うタカキの瞳が、なんか大事な思い出を語りよるみたいで嫌じゃった。
タカキは、その頃からもうふみかを好きじゃったんじゃろうか?
嬉しそうにふみかの事を話すタカキを見て、ぶち不安になった。
今はうちの事を好きになっちょるはずなほに。
胸が苦しゅうなってきた。なんか食べる気ものうなってしもうて、持っちょったポテトをもてあそぶ。そしたらそれを見た鳩が一羽、チョコチョコとそばに寄ってきた。
「食べる?」
なんの気なしにぽいとポテトを放たったら、鳩は嬉しそうにつつき始めた。それ見て他の鳩もバサバサ寄って来て、ひとつのポテトを取り合いし始めた。
「おお? ケンカしよう。もいっこやろうか」
見ちょったタカキが笑いながら、自分のポテトを放たる。するとますます鳩がたかってきた。
ぼけっとそんなタカキと鳩を見ちょったら。
「うわっ? 鳩がっ」
いつの間にか手に持っちょおポテトの袋ねらって鳩がわさわさ来ちょった。遠くにいっぱいおるんは見た事あったけど、こんな風にたかられた事なかったけぇびっくりした。どねぇしたらええんか分からん。
「なんしょんか、あみー」
大笑いしながらタカキがその様子を見ちょる。
「見ちょらんで、追い払ってぇねーっ」
腹立ち半分泣き半分でタカキに助けを求める。うちが手で払ったくらいじゃあ、飛びのいてもすぐまた飛んでうちの方に来る。
まだいっぱい残っちょおポテト狙ってわらわらうちの手やら頭やらにとまってくるもんやけぇ、鳩の爪が痛いっ。
「バカじゃのう、ポテト向こうに投げりゃあええやん」
まだ笑いながら、タカキも鳩を払うん手伝うてくれる。
うちは慌てて言われた通り、ポテトを放った。そしたらいっせいに鳩はそっちに飛んでってしもうた。
あとに残ったんは、ボロボロになってしもうたうち。
「もおっ、ぐしゃぐしゃやんーっ」
泣きとうなりながら怒る。タカキはそれ見てまた笑いよる。なんで笑うん。
「ほんとお前はしょうがないのう。ほら、来いいや。下の薬局行くぞ」
笑いをこらえながらタカキが手を差し出す。その手を取りながら、ふみかん時もこんな風に手ぇつないだんじゃろうかって邪推してしもうた。そんな自分が嫌んなる。じゃけど止められん。
「ええよ、血ぃ出ちょらんし。それより、ちょっとトイレ行ってきてええ? 髪とかくしゃくしゃになってしもうたけぇ」
このままふみかとおんなし行動しよったら、どんどん嫌な風に考えるけぇ、違うところに行きたかった。
「あみもやっぱぁ女の子なんじゃのぅ。ふみかとおんなじこと言いよる。じゃあ俺、その間薬局行って消毒液買うとくけん、行って来いーや」
タカキはうちの気持ちに気付きもせんと、笑いながらそう言った。
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