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方向音痴に道案内は無意味……とは思いたくない その3
しおりを挟むそう思ったら納得出来た。急に現れたオバサンが〈救いの姫〉って形で傍にいるのが気に入らないんだ。
「不安になることなんてないんですよ。姫君の事は私達が全力でお守りします。ですから貴女はただ、〈唯一の人〉を見つけることだけを考えて下さい」
そっとわたしの手に触れ、透見が微笑みかけてきた。
まさか触れられると思ってなかったわたしは、不意打ちに顔が赤くなるのを感じて慌てて誤魔化すように言う。
「えと、彼女って剛毅のカノジョなの?」
こんなオバサンにまでヤキモチ妬くなんて、そうとう剛毅の事が好きなんだろう。もっとも剛毅が攻略相手って考えたら、あながち間違いでもないんだけど。
「違うよ」
透見に尋ねたつもりだったんだけど、慌てて答えたのは剛毅本人だった。その横で彼女は、ちょっと複雑そうな顔をしている。
「こいつらみーんな友達。現在カノジョ募集中」
冗談めかして言う剛毅に彼女以外の女の子達がきゃあきゃあとまとわりつきながら手を挙げる。
「はーい、わたし立候補~」
「わたしもわたしもー。剛毅の彼女になりたいー」
そんな彼女たちを笑顔ではいはいとあしらう剛毅。……なんか思ってたイメージと違うなぁ。剛毅ってわりと寡黙な感じで女の子とこんな風に話できないタイプだと思ってた。
あーでも、笑い上戸ってところからしてゲームとはイメージ違ってたんだった。うんもうゲームのイメージは忘れた方が良いのかも。
「相変わらず剛くんはモテモテね」
微笑ましそうに沙和さんが言う。それを聞きながらなんとなしに透見にも聞いてみた。
「透見はいるの? 彼女」
すると透見は驚いたように目を見開いて、それからすぐにまた笑みを浮かべた。
「いませんよ。私は今も昔も姫君の事だけを思っていますから」
ささやかれた言葉に心臓が飛び跳ねた。
いやいや。これは愛の告白じゃなくてこの地を救う救世主の事を考えてるって意味だから。
慌てて深呼吸して鼓動を整える。
ああ、でもこれって乙女ゲーの夢なんだから本当に愛の告白だったり?
いやいや、フラグ立つには早すぎだよ。ないない。
そんな事ぐるぐる考えてたら、沙和さんがくすくすと笑っていた。
「透見は本当に〈救いの姫様〉に心酔してるわよね。そんなじゃ初恋もまだなのかしら」
「放っておいて下さい」
沙和さんの言葉にうっすら頬を染め顔を背けるあたり、透見、図星なのかな? てことはうん、これはやっぱり恋じゃないよ。
納得すると同時にほんの少し淋しさがわたしを襲う。
そうよね、愛の告白にはまだ早すぎるよね。そう、半分がっかりしながら。
その後、服を選んで着替えたわたし達は店を出て街の案内へと移った。剛毅にくっついてた女の子達も一緒に来たがってたけど、さすがにそれは剛毅が断ってくれた。
別れ際、例の女の子がにこりと笑ってこっそり話しかけてきた。
「〈救いの姫様〉が貴女で良かった」
「どうして?」
「だって……。透見ほどじゃないけど、剛毅も〈救いの姫〉って存在にちょっとあこがれてたところがあって……。けど、失礼だけどどう見ても結構年上、ですよね?」
彼女の言葉がチクリと胸に刺さる。これってわざと言ってんのかな。それとも悪気ないの?
いやいや、さっきの睨みを考えたらどう考えても牽制だよね?
「そうね、早くに結婚した同級生にはあなた達くらいの年の子供のいる子もいるかな」
無理矢理笑顔を作って言う。
せっかくの夢なんだから、こんな現実反映しなくていいのに。だけど夢だからこそ、深層心理がこうやって出て来るんだろうな。
わたしの言葉に彼女はますますホッとした顔になった。
「もし救いの姫様が年が近くてかわいかったら、きっと剛毅も夢中になってわたしたち勝ち目ないと思ってたんです。だからずるいなって。この地を救ってみんなに崇められ感謝されるって決まってるのに、その上剛毅達の心も奪っていくのかって。でも、貴女ならその心配はなさそう」
トゲはあるけれど、彼女の言い分もなんか分かる。だから。
「……わたしは〈唯一の人〉のものです。それが誰かはまだ分からないけど。だから剛毅が〈唯一の人〉でない限り、そんな心配しなくてもいいんだよ」
「そうでしたね。そうですよね」
彼女はわたしの言葉を聞いて本当に嬉しそうに頷くと、ペコリと頭を下げた。
「じゃ、〈唯一の人〉捜し、頑張って下さい」
そう言うと彼女は友達の所へと駆けて行った。最後の言葉は本心からの言葉。そう思うとたぶんこの子も悪い子じゃないんだよなぁ。嫌みを言われたり睨まれたりしたけど、なんだか嫌いにはなれないなぁと思いながらわたしは彼女を見送った。
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