独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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方向音痴に道案内は無意味……とは思いたくない その4

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 再び三人になって街案内をしてもらったんだけど、正直道順はあんまり頭に入ってこなかった。

「大まかな道はこれで終わりですけど、大丈夫ですか?」

 透見に尋ねられ、ギクリとした。

「その反応、姫さんまさか、覚えられなかったとか?」

 わたしの頭の悪さを楽しむように笑いながら剛毅が言う。被害妄想かもしれないけど。

「……ごめん。実はわたし、学生時代学校で迷ったことあるくらい方向音痴だったりして」

 恥ずかしい事にこれ、ホントの話。もちろん入学したての頃の話ではあるけど。だけど方向音痴なのは間違いない。

 そして今回はその上、他のこと考えてたから道なんて覚えていられなかった。

 他の事ってのは、さっきの女の子の事。剛毅が好きって事は、もしわたしが彼を選んで剛毅ルートに入ったら、きっとあの子何らかの形で関わってくるんだろうなぁ。棗ちゃんみたいに友達キャラ……というか、身近なキャラじゃなかったことは救いだけど、それでもやっぱライバルキャラがいるのは、ちょっとつらい。

 出来ればみんな幸せになんて甘い考えかもしれないけど、夢の世界でくらい誰もがハッピーになってもいいじゃない?

 そんな事考えてる裏で、彼女に突きつけられた事実にちょっと、いやかなりショックも受けていた。

 彼女に突きつけられたってのは間違いか。でも、彼女によって再認識させられたってのは本当だよね。

 そう、年齢の事。わたしがおばさんだって事は忘れてなんかなかったし、みんなが若いって事も分かってた。つもりだった。でも、さっきの会話で同級生に同じくらいの年の子供のいる子もいるって言って、ガンと現実が迫ってきた。漠然とした年齢差じゃなくて、友達の息子を好きになるようなもんなんだよ? って現実。

 これがゲームや夢だから許されるんだけど、本当に現実だったとしたら大問題だよね。相手おそらくみんな未成年だし、犯罪だよ。

 そんな事あれこれ考えながら歩いてたもんだから、道なんて覚えてるはずもない。

「まあ、何度も歩けば覚えられますよ。……近い内に地図も用意しておきましょうか」

「そうそう、そんなに広い島じゃないからその内嫌でも隅々まで覚えるさ」

 かばってくれるように透見と剛毅が言ってくれたその時だった。突然、物陰から何かが飛んで来た。

 驚いて身をすくめるのと同時に剛毅がわたしの腕を引き、かばうように背に隠す。透見も何かの呪文を唱え、障壁のようなものを張った。

「誰だ?」

 剛毅が叫ぶけど相手が答えるはずもなく、再び何かがヒュンと飛んで来る。透見の作った障壁に甲高い音を立ててぶつかり落ちたそれは、細い金属の棒のようなものだった。

 突然恐怖心が湧いて出た。狙われてるって聞いて頭では分かってるつもりでいた。乙女ゲーの夢でファンタジーっぽい設定なんだから、それもありだよねって。一緒にカッコ良く闘うなんてのは無理だとしても、邪魔にならないようがんばって逃げたり隠れたりしよう。そんな風に思ってた。

 だけど実際に襲われて、足がすくんだ。頭が真っ白になった。

 目の前では透見が何かの呪文を唱え、剛毅がいつの間にかナイフを手に持ってどこからか飛んでくるそれに対応している。

 だけどわたしは、何も出来なかった。逃げることも、隠れることも。

 ただ恐怖に足をすくませて、そこに立ち尽くしているだけだった。

 どのくらいの間、そうしていただろう。急に、剛毅がゲラゲラと大声で笑いだした。

 なに? いったいどうしたの? 何が起こってるの?

 訳が分からず透見を見ると、いつもの優しい笑みをわたしに向けた後、ちょっと怒ったような顔をして見えない相手に呼びかけた。

「もうそのくらいにしておいて下さい。姫君が怯えてるじゃないですか」

「そーそー。実践練習のつもりかもしれんけど、こんな所でドンパチやってたら沙和姉ぇに叱られるぞ」

 剛毅も笑いながら親しげに呼びかける。

 するとスルリと物陰から小さな姿が出て来た。

「〈救いの姫様〉が降臨された今、いつ空の小鬼達が襲ってくるとも限らないもの。二人が不意打ちされてもちゃんと姫様を守れるかどうか、試したまでよ」

 にこりと笑ってそう言ったのは、棗ちゃんだった。



 近くの喫茶店に入り、一息つく。

「ほんと、びっくりしたぁ」

 ちょっと恨めしそうに棗ちゃんを見ると、彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。

「姫様を怯えさせるつもりではなかったのですが……。申し訳ありません」

 改めてお詫びされると、ちょっと居心地が悪い。

「いやいや、ごめん。そんなつもりじゃ……。棗ちゃんの事情も分かったし……」

 棗ちゃんとしては二人がちゃんとわたしを守れるのかを試したかったらしい。だから予告なく襲いかかってみたのだと。

「もちろん万が一姫様に当たっても大怪我などなさらぬように、得物は刃の付いていない物を使いましたけど」

 言われてみればナイフとかそういう刃物じゃなかった。それでも当たったら痛そうだけど。でもちゃんと二人が守ってくれたから、ひとつも当たる事はなかったんだよね。

「そうそう、それで変だなって思ったんだよな。で、よく見りゃ昔、訓練用に使ってたやつじゃん。あれって思ってさ」

「ええ。それに気づいたら攻撃パターンもすぐに棗さんのものだと分かりましたよ」

 剛毅と透見の言葉に、感心した。さすが仲間とでもいうのかな、信頼しあってるんだろう。あんな事されても全然気にしてなさそうだし。

「で、これって戒夜さんや園比も知ってんの?」

 剛毅の問いに棗ちゃんは首を振ってにっこりと笑う。

「だって明日は二人が姫様を案内するんでしょ? だったらもちろん明日も奇襲かけるわよ」

 ……笑顔で怖いこと言う娘だなぁ、棗ちゃん。

「あ、二人共。あの二人には内緒にしといてよ? 本当に姫様のこと守れるか、確かめたいから」

 やる気満々で男子二人に釘を刺すと、棗ちゃんはコーヒーをひと口。それから思い出したように顔を上げるとわたしにも釘を刺した。

「姫様ももちろん言わないで下さいね」

 にっこり笑う顔はかわいいのに。有無を言わせぬ怖さはなんだろう。

 ひきつるわたしを余所に、剛毅がヒョイと身を乗り出す。

「なあ、それなら明日俺たちも参加していい?」

 剛毅はまるでいたずらを思いついた子供のようにニヤニヤとしていた。

「ああ、それは良いですね。襲ってくる空鬼の仲間は一匹とは限らないですから」

 優しげな笑みは変わらないのに透見までがそんな事を言う。

「いいわよ、じゃあ後で打ち合わせしましょう。姫様、くれぐれも二人には悟られないようにして下さいね」

 嬉しそうに棗ちゃんも頷き、わたしにも笑みを向ける。

 ああ、なんだ。きっとみんないつもこんな感じなんだろうな。外から見てるとヒヤヒヤしても、中に入ってしまえば仲間内だけで通じる楽しい遊び。そんな感じ。

 そう思うとさっき襲われた時は怖かったのにその怖さは薄れてしまって、楽しげな雰囲気にわたしも顔がほころんだ。


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