独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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今度は透見と美術館デート? その3

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 言いながらあれ? と思った。

 空鬼退治して元の世界に帰るって事は、〈唯一の人〉と会えなくなるって事で、それってもしやバッドエンドじゃん? この絵はバッドエンドのスチルですか。

「帰…られるのですか……?」

 わたしの言葉に透見が言葉を詰まらせ、言う。

「それはそうでしょう。〈救いの姫〉はこの世界の住人ではないのですから」

 永嶋さんが当然でしょうと言わんばかりに頷く。だけど透見はそんなこと考えた事もなかったって顔してショックを隠しきれないようだった。

 これってもしかして、透見が〈唯一の人〉として覚醒しつつあるのかな? 少しはわたしの事好きになってくれていて帰ってほしくないって思ってるのかな?

 そうだったら嬉しい。やっぱりバッドエンドはやだもんね。

 だから透見の瞳をしっかり見て、言う。

「確かにわたしはこの世界の人間じゃあないけど、元の世界に帰るかどうかは〈唯一の人〉次第だと思う。〈唯一の人〉が傍にいる事を望んでくれるなら、この世界に残るっていう選択もあると思うよ」

「そう…なのですか?」

 透見もじっとわたしを見つめる。…なんか照れる……。

 そんなわたし達に呆れるように永嶋さんが咳払いする。

「〈救いの姫〉は元の世界に帰るものだと私は思っていますが。でないと次の空飛ぶ赤鬼の来襲時、〈救いの姫〉の召還が叶わなくなってしまうのではありませんか?」

 永嶋さんのこの言葉に、ちらっと考えてた彼が隠しキャラかも、という考えがわたしの中で無くなった。

 この永嶋さんの台詞は、島の未来は考えてるんだろうけどわたしの気持ちは考えてくれてない。もちろん最初の内は気に入らないことを言うキャラがストーリーが進むにつれて変化してくるってのもありなんだけど。でも今回は戒夜もそれに近いタイプだし、今更嫌な事を言う永嶋さんを好きになるなんてないなって思った。

 だから、ため息をつき永嶋さんを見た。

「わたしは、〈救いの姫〉としてこの島を救いたいとは思ってる。けどね、わたしは空鬼を倒す為の道具じゃないんだよ」

 初代の〈救いの姫〉がどういう思いでこの島を救ったのかは知らないし、わたしだって出来る範囲の事はしてあげたい。でもだからって、わたしの気持ちを犠牲にしてまでやってあげなきゃならない義務はないと思う。

 だけど永嶋さんは納得いっていないようだ。

「これまで例外なく〈救いの姫〉は元の世界へ帰られています。つまりそれは帰る事が〈唯一の人〉の意志なのでは?」

「だからそれは、当代の〈唯一の人〉に聞いてみないとわからないことでしょ?」

 ついキツイ口調で反発してしまう。

 もしかしたら永嶋さんは透見ルートの障害キャラなのかな。わたしと透見の、障害になるキャラ。

 そんなわたしたちの会話を黙って聞いていた透見が、考え込んだ顔で口を開いた。

「私は、姫君に幸せになって欲しいです」

 まだ〈唯一の人〉と確定したわけではない透見の精一杯の言葉なんだろう。それでもわたしの事を考えてくれてるんだと思うと嬉しくてつい笑みが浮かぶ。

 けど永嶋さんにとっては意味不明な言葉だったようで。

「誰も貴方の希望など聞いていませんが」

 眉をしかめてそう言った。

 そんな言い方しなくても、と言いかけ前へと踏み出した時、わたしはうっかり側に立てかけてあった何かに足を引っかけてしまった。

「永嶋さんこそ、姫君の気持ちを無視しすぎでしょう?」

 そんなわたしに気づかず透見は永嶋さんに反論している。そして永嶋さんもこっちに気づいていなかった。

 わたしが足を引っかけちゃったそれは、アンティークなガラスの傘を持ったランプというか、スタンドライトだった。ガラスの傘の縁取りには金属でうねうねと模様というか飾りが付いている。

 そのスタンドがわたしが足を引っかけてしまったせいで、バランスを崩しグラリと揺れる。

 あ、と思った時にはその傘の飾りの尖った部分がもろ透見に当たりそうな角度で倒れ始め、無意識にそれを止めようと手を出していた。

 尖った部分、と言っても刺さる程尖っているわけでもない。飾りの一部としてほんの少し細長く延びていると言った方が良いのかもしれない。それでも突かれれば、痛い。

 そんなランプシェードに手を出したもんだから、やっぱ思いっきり痛かった。しかもガラスがはめ込まれてるから、重いし。

「姫君っ。大丈夫ですか?」

 そんなわたしに気づいて透見が青い顔をして慌ててわたしの手の中にあったスタンドライトのランプシェードを受け取った。

「うん…いたたー。ちょっと痛いかも」

 苦笑いしながら、受け取ってくれた透見に「ありがとう」とお礼を言う。

 それからちらりと永嶋さんを見ると、彼も青い顔をしていた。

 透見が青い顔をしているのはきっと、わたしが怪我をしていないか心配しての事だってのは分かってた。透見は〈救いの姫〉に心酔してるんだから『怪我なんてとんでもない』と思ってるんだろう。

 だけど永嶋さんが青い顔をしてるのはきっと意味が違う。そう思ってわたしは慌てて言う。

「あ、すみません。足を引っかけて倒してしまって……。どこも破損はしていないと思うんですけど……」

 きっと美術品を心配して青くなってるんだろう。そして思った通り永嶋さんは慌てたように透見からそれを受け取り言う。

「いえ、そんな所に立てていたこちらも悪かったのです。けれど申し訳ない。一度確認して来ますので、どうかお二人はそのまま絵をご覧になってて下さい。ただし、触らないで下さいね」

 そう言い残すと彼は内線でスタッフを呼び、それを運んで出て行ってしまった。

「貴重な品物だったのかな。壊れてはないと思うけど、悪い事しちゃったな」

 静かになった部屋で、苦笑いしながら呟く。すると透見が怒ったように言った。

「どんな高価な物だろうと貴重な品だろうと、姫君より大切なものはありません。あんな物の為に姫君が身を挺して怪我を負われることなどないんです」

 わたしの手を取り赤くなってしまった手のひらを見る。

「物なんかより、姫君の方が大切なんです。ああ、こんなに赤くなって……」

「うんでも、あのままじゃ透見に当たりそうだったから」

 確かに美術品も大切だけど、とっさに手が出たのは透見に当たりそうだと思ったからだ。

 わたしの言葉に透見は驚いたように目を開いた。

「姫君……」

 そして大きく息をつく。

「私の事などどうでも良いのです。姫君、貴女はこの地を救うべく召還された〈救いの姫君〉なのですよ。御身を大切にされて下さい」

 真剣な顔をして透見が言う。その言い分も分かるけど。

「透見の事がどうでも良いわけないでしょ。そりゃあまだ確定じゃないけど透見は〈唯一の人〉かもしれないんだし。それにもし違ってたとしてもわたしの失敗で透見が怪我をするなんてやだよ」

 いっきに捲くし立てて透見を見ると、透見の顔がぱっと赤くなった。同時に自分が言った事に恥ずかしくなり、わたしまで顔が熱くなる。

「そ、それでもやはり気をつけて下さい。私は男ですから多少怪我をしても平気ですが、貴女は女性なのですから……」

 目を逸らし赤い顔をしたまま透見がぽつりと言う。

「うん、ありがとう」

 俯きわたしもボソリと呟いた。


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